見えないトンネル――「ダークギャザリング」14話レビュー&感想

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

無明の「ダークギャザリング」。14話では詠子が危機に見舞われる。トンネルを舞台とした今回は実のところ、夜宵と螢多朗がトンネルに入るまでの物語だ。

 

 

ダークギャザリング 第14話「旧Fトンネル」

darkgathering.jp

 

1.出られないトンネル

「卒業生」を回収し、いよいよ目的の旧Fトンネルへやってきた夜宵・螢多朗・詠子の3人。しかし、詠子は気がつくと二人からはぐれてしまっており……?

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

詠子「ちょっと待って。これ、出られなくなったんじゃ……!?」

 

恐怖が留まるところを知らない「ダークギャザリング」。バトル要素も強い本作だが、危険度Sランクの心霊スポット・旧Fトンネルが舞台の今回は霊に関する能力を持たない詠子が一人分断され霊に襲われるホラー要素メインの展開だ。入口で出会ったYoutuberの三崎安奈と共に螢多朗達を追いかけようとするもなぜかトンネルから出られなくなってしまい、安奈の正体も悪霊で……という展開には単独のホラー読み切りとしても成立しそうな恐ろしさがある。そして、注目したいのは「出られない」のが物理的なトンネルに留まらない点だ。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

霊「友達、助けようとしただけだった。なのに、あの子が望んでいたの、道連れだった……!」

 

既に触れたように安奈の正体は悪霊だが、元々は旧Fトンネルの悪霊の犠牲者であった。苦痛に満ちた殺され方をした彼女は自分だけ苦しいのは嫌だと願い、自らも他人を巻き込もうとする悪霊と化してしまったのである。その第一号である彼女に同行していた友人も道連れにされた恨みからこれまた悪霊と化していたことからすれば、詠子もまた殺されれば安奈同様の悪霊と化してしまうだろう。殺してほしいと乞うほどの苦痛を与えた相手に今度はゆっくり殺すことで命乞いをさせる旧Fトンネルの悪霊の手口も含め、これらの状況には逃げ場がない。そう、「出られない」。

 

旧Fトンネルに入ったつもりが旧旧Fトンネルに誘導された詠子はいわば見えないトンネルに入ってしまったのであり、灯りのないそこは脱出を許さぬ暗闇の世界だ。しかし一方で、本作はもう一つのトンネルの存在もまた暗示している。

 

 

2.見えないトンネル

詠子が入り込んだそれとは別に存在する、もう一つの見えないトンネル。そのヒントは彼女と分断された夜宵と螢多朗の側にある。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

夜宵「気付いた? 螢多朗が詠子と呼ぶアレ、わたしにはずっと別のものに見えていた」

 

詠子は安奈によって神隠しに遭ったが、螢多朗は当初そのことに気付いていなかった。安奈の友人の悪霊が詠子に化けており、見た目からは入れ替わったとは判断できなかったためだ。もしそのままでいれば、彼もまた安奈や安奈の友人同様の見えないトンネルに引きずり込まれていただろう。だが、同行していた夜宵の存在が螢多朗に同じ運命を辿らせることを許さなかった。霊感が視覚に直結している彼女には、螢多朗が詠子と認識しているそれは全くの別物に見えていたのだ。そして彼女は、自分だけとはいえただ単に「見える」だけのものに惑わされはしなかった。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

螢多朗「なんで言ってくれなかったの……!?」
夜宵「詠子が神隠しに遭ったから。開けた場所で即座にあいつを攻撃したら、螢多朗に邪魔されて取り逃す可能性があった。そしたら詠子の手がかりを失うことになる」

 

人は目に見えるものが事実だと思い込む一方、目に見えぬ真実を見抜くこともできる。夜宵は本物の詠子の手がかりを得るため敢えてトンネルの中央まで入れ替わりに気付かないフリをしていたが、これなどは偽詠子が見える能力に甘んじることなくその先まで視野に入れた判断と言えるだろう。また強い霊感を持つ螢多朗は当初こそそれを利用され旧Fトンネルへ誘導されてしまったが、その正体が偽詠子だと気付いた後はその目で見ていない旧旧Fトンネルの危険さを正しく察知できている。二人は常人には見えないものを見たり感じる力を持っているが、そうした目に見える力に頼り切ってしまっては駄目なのだろう。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

螢多朗「詠子!」
詠子「螢くん、夜宵ちゃん!」

 

形代となるぬいぐるみの両足が突然吹き飛んだことから、詠子が危険な状態と判断した夜宵と螢多朗は偽詠子に案内させ彼女が安奈達犠牲者の霊に旧旧Fトンネルへ引っ張られていく様を目撃する。助けたければ追ってこいとジェスチャーで示す悪霊は詠子の持っていたぬいぐるみに宿っていたSトンネルの霊の顔の皮を被っており、その強さは一目瞭然だ。だが、そうした目に見えるものばかりに囚われていては二人は詠子が引きずり込まれたのと同様の暗闇の世界に入ってしまうことになる。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

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螢多朗「行こう!」

 

夜宵はトンネルに入るにあたって、詠子の救出を最優先することや老朽化した旧旧Fトンネルの崩落を防ぐため中では暴れずまた「卒業生」の解放もしないことを螢多朗と打ち合わせする。外まで連れ出せば確実にやれるという夜宵が見ているものは、単なる古いトンネルではなく勝利への道――すなわち見えないトンネルだ。

トンネルは暗闇を通り抜けた先へ行くためにある。ならば詠子が連れ込まれた暗闇の世界がトンネルなどというのは誤りだろう。旧旧Fトンネルにいざ入らんとするこの14話最後で、夜宵と螢多朗は詠子を救うための見えないトンネルにこそ踏み入ろうとしているのである。

 

 

感想

というわけでダークギャザリングの14話レビューでした。大雑把な結論は割とすぐ浮かんだのですが、文章化するとすぐ脇道に逸れてしまう感があって結局はうんうん悩むことに。こういう場合は結論そのものが不十分な場合もあるので悩ましいです。どう見ても罠な安奈が田村ゆかりだーとか思ってたらEDクレジットで旧旧Fトンネルの霊を演じているのが松岡禎丞と知ってまたびっくり。

さてさて、卒業生を封じられた状況で螢多朗達はどうやって悪霊の攻撃をかいくぐるのか。次回は恐怖とそこからの解放にドキドキする話になりそうで楽しみです。

 

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