もう一つの言葉――「星屑テレパス」1話レビュー&感想

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

宇宙を夢見る「星屑テレパス」。1話では運命の出会いが描かれる。海果とユウ、2人を繋ぐテレパシーは「もう一つの言葉」である。

 

 

星屑テレパス 第1話「彗星エンカウント」

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1.おでこぱしーはおじゃま虫?

この春から高校に通う女の子、小ノ星海果は極度のあがり症。人と話すのが苦手で自分を異星人のように感じている彼女には、本物の宇宙人に会いたいという夢があった。入学の日、同じクラスにはなんと自分を宇宙人と名乗る明内ユウという少女が現れ……!?

 

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ユウ「今のはね、おでこぱしー! わたし、宇宙人・明内ユウの特殊能力!だよ」

 

大熊らすこがまんがタイムきららに連載中の漫画を、「ゆゆ式」等の監督を務めたかおりがアニメ化する「星屑テレパス」。タイトルの通り本作にはテレパシー能力が登場するが、それはなかなか独特のものだ。宇宙人を自称する明内ユウが使用する、おでことおでこをくっつけて相手の思考を読み取る能力――その名も「おでこぱしー」というのだから振るっている。ただ、意地悪な見方をするとこれは主人公の少女・小ノ星海果(このほしうみか)とは少し食い合わせが悪いようにも思える。

 

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海果(またこれだ。わたしは人と上手く話せない……)

 

海果は極度のあがり症で、すぐ顔が真っ赤になり何も言えなくなってしまう内気な子だ。入学初日も緊張をほぐそうと話しかけてくれたクラスメイトの宝木遥乃に感謝しつつもお礼を言うこともできなかったほどで、自分の言葉は地球上の誰にも届かないとまで思い詰めている。
コミュニケーションの不得手な海果にとって、口で言わずとも思考を伝えられるおでこぱしーがありがたい存在なのは言うまでもない。しかし逆に見れば、おでこぱしーに頼っている間は海果は思いを口にできるようにならない。内気な子が仲間を作り人付き合いを学ぶのは物語の王道の1つだが、おでこぱしーはそれを阻害しかねない一面を持っているのである。

 

本作はおでこぱしーという諸刃の剣をどう位置づけているのか? それを考えるために、1話の構成を振り返ってみたい。

 

 

2.海果の前進

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海果とユウの出会いを描くこの1話は、概ね3つのパートで構成されている。ユウのおでこぱしーが明かされる第1パート、海果がユウの友達になろうとする第2パート。そしてユウが海果を「基地」に案内する第3パート。海果は第2パートでは拙いながらも自分の言葉で友達になりたい気持ちや自分の夢を口にしているが第3パートではおでこぱしーに頼っており、この点だけならコミュニケーションとしてやはり後退してしまっているようにも思える。しかし感激したユウが「ズッ友だよ」と返すように第3パートで二人はぐっと親密になっており、そこにあるのは後退どころか前進だ。
なぜおでこぱしーに頼っていても前進なのか? それは「ズッ友」に現れるような二人の関係の変化から見て取ることができる。

 

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海果(今、のは……? くっついたところから、わたしの気持ちがあけすけになったみたいに……)

 

第1パートの海果は、ユウが宇宙人と聞いて話しかけようとするも果たせず彼女におでこぱしーで感情を読んでもらっただけであった。ここでの彼女は受動的である。対して第2パートでは自分で言葉を発してはいるが、きっかけはやはりおでこぱしーで伝えたいことがあるのではと聞かれてお膳立てをしてもらったからで自分から言えたわけではない。受動と能動はまだ半々に過ぎない。

 

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海果(本当はすごく大変な思いをしてるはずなのに、わたしはそのことに気付かずに……)

 

しかし第3パート、海果はユウが宇宙船の故障でここに来たことや記憶を失っていると知り、彼女が大変な思いをしているのではと想像した。自分のことでいっぱいいっぱいの状態から脱し、相手の気持ちを思いやったのである。そして海果は、口語ではなくおでこぱしーで励ましの気持ちをストレートにユウに伝えようとした。自分からおでこをくっつけるなどという行為はあがり症の彼女にとって――いや他の人間にだって――勇気がいるにも関わらずだ。これが全く能動的なのは明らかだろう。おでこぱしーが他にないものだから少し特殊に見えるだけで、海果はこの1話でちゃんとコミュニケーションのとり方を前進させているのである。

 

 

3.もう一つの言葉

海果のコミュニケーションはしっかり上達している。おでこぱしーが特殊なものだという色眼鏡を外してみると分かるのはコミュニケーションの多様さ、そして不思議さだ。

 

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海果(違うもん。違うもん、違うもん!)

 

例えば第1パート、ユウが海果を認識したのは彼女が踵を返した時だった。宇宙人だというのは単なる冗談なのでは、話しても嗤われるだけでは……と不安になった海果が引き返した時に何かを感じたわけだが、ここでのユウはピカンと直感の類が働いたような様子を見せている。距離が離れているからもちろんおでこぱしーではないのだが、ここにはまるで海果の心の動きが言葉以外で届いたような不思議さがある。そう、まるで「テレパシー」のように。

振り返ってみれば他にもユウは、第3パートで海果が一言も口にしていないのに彼女を自分の「基地(住居としている古い灯台)」へ案内し彼女の望みを叶えるなど奇妙な察しの良さ(しかも半分以上を本人は自覚していない)を見せている。更に言えば、第2パートで海果とユウはオリエンテーションとしてペアを組んでお題の書かれたカードを探したが、見つかったカードに書かれていたそれは先程二人がしたばかりの「夢についての語り合い」であった。カードを仕込んだ担任の笑原茜はもちろん宇宙人でも超能力者でもないが、これもまるでテレパシーが通じたかのようでもある。

 

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海果(わたしの言葉、ちゃんと、届いた……!)

 

私達は他人と接する時は主に言語を使用するが、実際のコミュニケーションはもっと複雑で多様なものだ。それは声色や身振りなどのように分類できるとは限らず、テレパシーの如く念が通じたとしか説明できないような、時間や距離すら超越した何かであることもけしてゼロではない。それを言語ばかりにこだわってしまっては、私達のコミュニケーションの手段はかえって狭められてしまう。第2パートの自己紹介の時だって、海果は「友達になりたい」と直接言えたわけではないのだ。それでも、海果の気持ちはちゃんとユウに届いていた。言語にできなくとも、そこに込められた気持ちはテレパシーのように通じていた。

 

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

言語コミュニケーションは難しいもので、SFやライトノベル、ファンタジーの定義であるとかポリコレだとか、同じ言葉であっても話者によって意味が全く異なっていることが珍しくない。これらのように顕著でなくとも、言語の意味の些細なすれ違いは多くの人が日常的に経験しているはずだ。その点で私達はいわば、一人ひとりが夜空に浮かぶ数多の星――星屑のようなものだとも言える。けれど一方で私達は、バラバラなのにも関わらず不思議に一致したり気持ちが通じたりもする。分かり合えないはずの私達がしかし、言語にできない奥底の部分でまでコミュニケーションできることがある。ユウとの出会いは、おでこぱしーはコミュニケーションにたくさんの形があると海果に教えてくれたのであり、だから彼女の前進を阻害しないのだろう。

 

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ユウ「海果ー、大好き! ズッ友だよ!」
海果「あ、明内さん……」

 

本作の「テレパシー」はきっと、単なる超能力を指してはいない。偶然、運命、共鳴、共感、エトセトラエトセトラ……星屑のようにバラバラな私達を、それでも繋ぐもう一つの言葉をこそ「星屑テレパス」は教えてくれるのである。

 

 

感想

というわけで星屑テレパスのアニメ1話レビューでした。早速1日遅れになってしまってすみません。ちょっと消耗が激しかったのと、1話は全体の視聴の要になるので特にきっちりとやりたくて遅くなってしまいました。今日は外食の夕食にサービス券でタルタルソースを付けるつもりでいたら、店員が間違えて最初からタルタル付きで作ってきたという出来事もあり何かこれも運命じみている……

 

冒頭、灯台の方に流れ星が飛んだのもそれに海果が願ったのも、ユウが彼女の前に現れたのも広い意味での「テレパシー」なんだろうなと思います。上手いこと作品と通じ合えるといいな。

 

 

 

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