共鳴の鳥籠――「魔法使いの嫁 SEASON2」14話レビュー&感想

©2022 ヤマザキコレ/マッグガーデン魔法使いの嫁製作委員会

囚われの「魔法使いの嫁 SEASON2」。14話では封鎖されたカレッジでのままならない生活が描かれる。鳥籠と化した学院にしかし、遠吠えのごとく響く共鳴がある。

 

 

魔法使いの嫁 SEASON2 第14話「Nothing venture, nothing have.Ⅱ」

mahoyome.jp

 

1.逃れがたき束縛

具合の悪くなったフィロメラを自室まで送り届けたチセ。なぜ自分を気にかけてくれるのか問うフィロメラに、チセは……?

 

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フィロメラ「どうしてわたしは、誰かがくれた水やお茶の一つも……!」

 

不穏な状況の終わらない「魔法使いの嫁 SEASON2」。チセは前回ザッケローニの授業後に体調を崩したフィロメラを部屋まで連れて行くが、そこで描かれるのは「束縛」から逃れる難しさだ。カレッジの封鎖はフィロメラを祖母リズベスから自由にしているように思えたが、受けた教育は今も骨身に染み付いており彼女は人からもらった飲食物等に手を付けることができない。純粋に親切によるものだと頭では分かっていても、諜報の家系として育てられた体は何が入っているか分からない水を警戒し拒絶してしまう。また今回は具合が悪くなったのはフィロメラが何かを壊す行為を精神的に苦手としているため=授業での使い魔の破壊に起因することが明らかになるが、授業だから気に病むことはないのに気持ち悪くなってしまうのも一種の束縛であろう。

 

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ルーシー「なに?」
チセ「わたしってやっぱりエゴだらけだなって……あとやっぱりフィロメラ優しいなって」

 

束縛から逃れるのは難しい。封鎖によって緊急事態を迎えていようが学生はテストを受ける必要があるし、自分の気持ちを押し付けるようなことはしたくないと思っているチセは以前フィロメラにあげたハーブが親切の押し売り(飲食物同様、フィロメラは他人からもらったものを使えない)になってしまったと今になって気付いたりする。フィロメラもチセから自由でいい、間違ってもいいと助言を受けるが、これまで自己を押し殺してきた彼女にとってそれは解放より先に困惑を伴うものだ。だが、14話はこうした束縛に対して別の見方も提示している。

 

 

2.共鳴の鳥籠

束縛から逃れようとした時、多くの場合私達はその難しさに往生する。「党派性や偏見に囚われずに」などと唱えている人は自分の偏りに気付いてすらいないし、気持ちの問題だけで悪癖が治るなら誰も苦労はしない。それは束縛から逃れるというより真っ向勝負を挑んで砕けていると言った方が適切だろう。だが、逃げ道とはそんな不自由なものばかりではあるまい。

 

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ルーシー「チセ、ゾーイ。分かりやすいテキストがあったから見に来なさい」
チセ「え、ホント?」
ゾーイ「探してくれたの?」
チセ&ゾーイ「「ありがとう!」」

 

例えば日本生まれのチセやゴルゴーンの血を引くゾーイは魔術以前に語学面で苦労していたが、勉強会をきっかけに級友ルーシーからフォローを受けることとなった。1人では何度読んでも言葉の意味が分からず行き詰まっていたのが、同じくテストに束縛された生徒と共にあることで解決できたのだ。またフィロメラの子守役の人造精霊アルキュオネやルーシーはフィロメラの体調不良の原因や彼女が他人からもらったものを使えない教育を受けていることを類推したが、二人はフィロメラ個人や今回の状況だけでそれらを判断したわけではない。フィロメラ本人はそれらを言えない束縛に囚われたままだが、過去や同様の事例はそれを回避するようにしてチセ達にフィロメラの状況を伝えたのだと言える。こうした事例から見えるのは、似たような束縛の発見や集合が束縛に対する一助となる可能性だ。

 

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ライザ「恐るべき書はまだカレッジに……ね」

 

似たような束縛の発見は、人を束縛から完全に解き放ちはしない。インターネットに寄せられた集合知への期待は打ち砕かれて久しいし、困難を乗り越えた人間が優しくなるどころか同様の相手にかえって厳しくなる(自分ができたのだから相手も同じ方法でできると決めつけてしまう)生存者バイアスなども近年は語られている。カレッジの封鎖でリズベスから物理的には自由になったかのように見えたフィロメラにしても、リズベスがアルキュオネにあらかじめ仕込んでいた「伝言」を聞かされ自分は逃れようがないと絶望することとなった。だが、封鎖によって共に行き来できない状況となったカレッジ内外という束縛が行方不明の魔導書はまだ内にあるとの調査に繋がったように、似たような束縛には新たな扉を開く可能性もまた含まれている。

 

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マリエル「やだ、どうしたのいきなり?」
イサク「いや、今…誰かどこかで泣いたわね」

 

今回冒頭、子をさらわれた人狼の遠吠えに狼人間イサクは訳も分からず涙した。チセにしても、フィロメラを気にかけるのはかつての自分を相手に重ねて見ている=同じように束縛されていると感じているからだと今回打ち明けている。何も分かりあったわけではないし互いのことを知る由すらなくとも、こうした時の彼らはけして孤独ではない。そこにかすかに覗く希望は、どこか魔法や魔術のように幻想的ですらある。

私達は束縛の鳥籠そのものから逃れることはできない。しかし、鳥籠に閉じ込められているが故に他者と共鳴してもいるのだ。

 

 

感想

というわけでアニメまほよめ2期14話レビューでした。前回の「不自由から生まれる自由」を「不自由が人を孤独から自由にする」へと変換していくのがなかなか骨で、やはり本作は難しい。最終話までにはどういう各話テーマを積み上げていくことになるのかしらん。

フィロメラに厳しいリアン&優しいアイザックがどっちも「フィロメラが好きなの?」にまとめられるあたりもこうして見るとテーマに合致していて、二人のやり取りは見ていて面白かったです。さてさて、次回は2期初のチセとエリアスの会話もありそうでそちらも期待したいな。

 

 

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