出獄する混沌――「ダークギャザリング」13話レビュー&感想

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

後半開始の「ダークギャザリング」。13話ではもう1体の卒業生の”出獄”が執り行われる。霊と共に出獄したのは混沌である。

 

 

ダークギャザリング 第13話「出獄」

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1.敵も味方も

H城址の恐怖も冷めやらぬ内、次なる危険度Sの心霊スポット・旧Fトンネルへ向かう夜宵・螢多朗・詠子。その前にもう1体の「卒業生」の回収に向かうが……?

 

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夜宵「関係性自体は悪くない。けど、彼の意思とは無関係にまとわりつく霊の怨念が封印から漏れ出していて制御が効かない」

 

お化けと人の「ダークギャザリング」。2クール目の初回となる13話は旧Fトンネルへの突入ではなく、その準備として強大な霊・卒業生の回収、「出獄」が行われる回だ。H城址の霊を悪霊化させていた者達の姿も見えるなど幕間の話と言ってもいいかもしれない。……などと書くと螢多朗に怒られるだろうか。隔離しておかねば周囲に災いをもたらす恐れがあるほど危険なのが卒業生であり、それは敵対的ではないという今回の相手でも変わらない。この卒業生は夜宵と協力関係にあるが多数の敵兵の霊にまとわりつかれており、それが周囲に危害を加えるのは卒業生自身にもどうにもできないからだ。実際、回収するだけでも螢多朗は命を落としかねなかったほどである。

 

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旧日本軍の霊であるこの卒業生は劇中、生前の南方戦線での戦いを回想する。灼熱の日差しに焼かれながら続く、いつ終わるともしれない戦い……そこでもっとも凄惨だったのは飢えと渇きだ。特に旧日本軍の死者は実に6割が餓死や栄養失調によるものだと言われており、鉛玉で華々しく死ぬなど夢物語だったことが伺える。このため、彼にまとわりつく敵兵の霊も生者に対しあらわにするのはやはり飢えと渇きだ。先の螢多朗は護身のため水を持ってきていたが霊に取り憑かれ渇きのあまりそれを飲んでしまい、危うく腹を食われて血と水分をすすられるところであった。

 

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「敵も味方も飢え、渇いている」……卒業生はそう言う。だが、これは過去に限った話ではない。

 

2.出獄する混沌

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夜宵「二人とも、お疲れ」

螢多朗「うん、これでようやく一息つけ……」

夜宵「本番に行ける」

螢多朗・詠子「えっ」

 

夜宵達の最近の心霊スポット巡りはハイペースだ。昨晩危険度SランクのH城址へ行ったばかりだというのに同じく危険な旧Fトンネルへ向かい、更にその道中で卒業生を回収……神に見初められた少女・愛依を救う目的もあるとはいえ心の休まる暇もない。卒業生を回収したところで螢多朗と詠子が全て終わったような気になってしまうのも無理はないだろう。だが実のところ、二人はこの状況を嫌がっていない。

 

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螢多朗は怖がりでありH城址だけでこりごりと語っていたが、詠子に「自分が恐怖を愛している」ことを改めて指摘されるともはや1話のように反論できない。不可解な出来事への期待、恐怖がもたらす鼓動、そこから抜け出す安堵と快感……彼は内心それらを自覚し始めている。

 

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また詠子は今回霊をかいくぐって卒業生のぬいぐるみを回収、夜宵達に渡す危険な役割を担ったが、そこで感じたのは収まらない胸の高鳴りだった。触れられそうなくらい近くで起きた心霊現象にあと一歩踏み込んだら、匂いすら感じられたのではないか。一人の夜道で窓に先程遭遇した霊が映っていたかもしれないという恐ろしい状況にも、彼女の頬は緩んでしまう。

 

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螢多朗(え、あれ、なんで……? 僕が飲んだ!?)

 

螢多朗も詠子も霊に恐怖を感じているが、しかし同時にそれを欲してやまなくなっている。今回の卒業生回収も命がけの危険な行動には違いないが、二人にとってもはやこの程度は前菜や準備運動に過ぎない。もっともっと恐ろしい、もっともっと身の毛もよだつような恐怖でなければ満足できない。渇きは癒せない。

 

この13話で夜宵はパワースポットについて語った。霊は他の霊を食べられずに放置されるとエネルギー切れになってしまうから、卒業生はパワースポットに置いて弱体化を防いでいると。心霊”スポット”で恐怖によって螢多朗や詠子が活力を得る様はすなわち、霊がパワー”スポット”でエネルギーを回復するのと鏡写しだ。すなわち卒業生の言葉は、過去のものであると同時に現代の螢多朗達と霊の関係をもまた言い当てている。「敵も味方も飢え、渇いている」。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

夜宵「れっつごー!」
詠子「すと!」

 

前回12話で夜宵は、蠱毒と共に孤独からもまた卒業した。しかし一方で、孤独の終わりは様々なものの境目を揺るがしつつある。螢多朗達が霊同様に飢えていることしかり、H城址に見えるように何者かが霊を夜宵以上に悪辣に利用していることしかり。孤独から離れたその先でおそらく、夜宵達はもう一度自分を見つけ直さなければならない。
パンドラの箱は開け放たれた。卒業生の出獄とはすなわち、災厄とも希望ともつかぬ何物かを現世に引きずり出すことなのである。

 

感想

というわけでダークギャザリングの13話レビューでした。うーん、前回想像した通り物語が蠱毒から一段上のステージに上ったのでどう書いていくべきか捉えるのが難しい。ヒントになりそうなものは出てきているので、それを探りながら後半クールのレビューを書いていきたいと思います。この旧Fトンネルでは詠子にスポットライトが当たることになりそうですが、はてさて。

 

 

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