彼者誰時に潜む魔――「ダークギャザリング」18話レビュー&感想

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

己を知る「ダークギャザリング」。18話では卒業生ハウス探しの顛末と空亡の進化が描かれる。夜明けの時間には、魔物が潜んでいる。

 

 

ダークギャザリング 第18話「彼者誰時」

darkgathering.jp

 

1.父の救い

井戸の下で「天使様」に見つかり危機に陥った詠子。間一髪で夜宵の助けが間に合い、天使様を弱らせることに成功するが……?

 

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夜宵「卒業生ハウス、ゲットだぜ」

 

夜明けを見る「ダークギャザリング」。卒業生ハウスのための内見がとんでもない事態に……というのが前回の話だったが、今回の18話ではそちらはあまり引きずらない。詠子を襲う「天使様」の呪いは前半で解決し、後半は夜宵の宿敵である空亡と強敵・鬼子母神の対決に割り振られている。2つの話が並ぶ意味はどこにあるのか? それを考えるためにまずは、卒業生ハウスとして夜宵がゲットした「受胎告知の家」にいた霊について整理してみたい。

 

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娘の霊「天使様が生まれれば、誰にも責められない楽園に連れてってもらえるって言われたのに……!」

 

受胎告知の家は、父親が偶然母を殺める不運な事故をきっかけとした生き地獄に苦しんだ娘が謎の男に騙され怪しげな儀式を行ったことで生まれた家だった。主導権は「天使様」を受肉させれば救われうと信じる娘の霊にあり父親の霊は影が薄かったが、この18話では彼の方にスポットライトが当たっている。父親の霊はこの儀式に意味が無いと知りつつ、娘を不幸にした罪悪感から彼女の言いなりになっていたのだ。彼はダメージを受けた天使様を回復させる餌になれとまで言われても従おうとするが――直後に目にしたのはなんと、娘の霊の方が天使様に捕食される姿であった。自分にできるせめてもの償いとして娘に従った父親は結局、死後すら娘に救いをもたらせなかった。

 

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父親の霊「そんな、あの子達まで……」

 

自分は妻を殺した罪とは関係なく、娘を正しく導くべきだった。娘の無惨な最後に、父親は自分が間違っていたことを悟る。だがその絶望から天使様に食われようとして夜宵と詠子を巻き込んでしまう場面から分かるように、彼がいるのはいまだ間違いの只中だ。殺意もないのに妻を殺してしまったあの日から、父親はあらゆるボタンをかけ間違える呪いにかかってしまったのかもしれない。ならば彼を救うには、一見間違って見えるやり方の方がかえって相応しい。

 

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夜宵「消滅して責任逃れはさせない。パワースポットにあるこの場所で、消えることなく罪と向き合いながら家の主を続けるといい」

 

父親の霊に尋ねて彼が17人の人間を殺したと聞いた夜宵は、乞われてもこの罪人に消滅の安楽を許さない。パワースポットでもあるこの家で消えることなく自分の罪と向き合い、家の長を続けるよう宣告する。これは悪意を持たない父親のような霊に対し過酷な仕打ちに見えるかもしれないが、実際はその逆だ。夜宵が言うようにここで消滅させては彼は多くの人を殺した責任から逃れる形になってしまい、それでは間違いから抜け出せない。妻を殺してしまった時に罰せられず、よかれと思って間違い続けてきた父親の霊にとっては、消えることを許されず無慈悲な罰を受けることこそ一番の救いなのである(おそらく夜宵は、卒業生ハウスが不要になる時にはこの罰を終わりにするつもりなのではなかろうか)。

 

進んで受けたいと思う人はそうはいないだろうが、罰とは罪を清算する点で私達の味方でもある。こうした正解と間違い、罪と罰、敵と味方といった相反する関係は後半でも注目に値する観点だ。

 

2.彼者誰時に潜む魔

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

神様「よく聞け。お前が弱いのは、せっかくのでかい念動力を無駄に振るっているだけでふわっとしているからだ」

 

先に触れたように後半では空亡と鬼子母神の戦いが描かれているが、空亡が戦ったのは鬼子母神だけではない。後半彼(?)が最初に戦ったのは登場人物の一人・神代愛依に取り憑いた「神様」の方だった。ビッグネーム同士の対決といった感じで今回の盛り上がりどころでもあるが、注目したいのは神様が空亡を破った後で助言を送っている点だろう。彼は実力的には足元にも及ばないとはいえ自分の式神の内の1体を倒した空亡に大いに興味をそそられ、傷を癒やした上に力の使い方の指導までしてやった。つまり神様は空亡にとって強大な敵であると同時に、自分を教育してくれる味方ともなったのだ。

 

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夜宵「回復してきたからって油断しちゃだめ。寝て。今すぐ寝て」
詠子「今日はたっぷり休んでもらって、明日には全回復だよ!」

 

敵味方の関係は、一概に言えるほど単純なものではない。例えば主要人物の一人である螢多朗は今回詠子と夜宵から見舞いと差し入れの提供を受けた上甲斐甲斐しく世話を受けるが、これは単純に彼が心配だからというだけでなく早期に体力を回復させてまた心霊スポットに連れて行こうという算段が働いている。螢多朗にとって詠子と夜宵は間違いなく味方なのだが、苦手な心霊スポットに連れて行かれるという点だけなら彼女達は敵も同然だ。

 

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夜宵「鬼子母神は子供に攻撃できない」

 

また見舞いの帰路で詠子は夜宵にかつての鬼子母神との戦いについて尋ねるが、ここでも明らかになるのは意外な敵味方の関係である。かつて夜宵は大量の水子の霊を浄化できず悪性変異した鬼子母神に挑むも撤退を余儀なくされたが、その際も実のところ鬼子母神は夜宵を傷つけようとはしていなかった。元来が子供を慈しむ神である鬼子母神は子供である夜宵を攻撃できず、むしろ水子の霊の攻撃から保護しようとしていたというのだ。先日の戦いにおいて鬼子母神は、敵であると同時に最大の味方でもあった。

 

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夜宵「単身で攻めたのは、わたしだからこそ選択できる有利な手段だったから」

 

敵味方の繋ぎ目を突いた時、世の力関係は大きく変わる。鬼子母神は空亡に水子の霊を大量に捕食され激怒するが、子供を攻撃できない弱点に夜宵同様に気付いた空亡に「ママ」と呼びかけられれば手が止まってしまいもはや攻撃できない。空亡は常に子供の味方である鬼子母神の弱点を的確に突くことで相手を無力化したと言えるだろう。……まるで本来子供に過ぎないはずの夜宵が、奇策の数々をもって悪霊達を打破しているように。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

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鬼子母神を捕食した空亡の新たな姿の中心にある髑髏のような模様は、直後に夜宵の重瞳に切り替わり視覚的に重ねられる。霊を強制的に使役している点や、それが夜宵の母である点からも空亡と夜宵を並べて考えることは可能だろう(天使様をほうふつとさせる部分もある)。いや、どちらかと言えば母の霊を取り戻すために大人ですら発想しないオバケ集めをやってのける夜宵の方が空亡に近づいているのかもしれない。

 

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この18話では最後、「彼者誰時(かはたれどき)」という時間の紹介がなされている。夜明けだがまだ暗く、目の前の人に「あなたは誰か」と問わねば分からない時間だと言うが、そういった状況では思わぬ相手に出くわすものだ。正解を追いかけていたはずが間違いだったり、敵を追っていたはずなのに味方だったり、他人のはずが自分であったり・・・・・・・・・・・・・。時空が歪んだように、そこでは距離感が狂ってしまう。
彼者誰時には魔物が潜んでいる。あなたは誰かと問うその時、待っているのは鏡に映ったあなた自身かもしれないのだ。

 

 

感想

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

というわけでダークギャザリングのアニメ18話レビューでした。いつもヒントにするアバンもないのでどうしたものか悩みましたが、父親の霊が正しくあろうとして間違い続きなのではないかと思いついてからまとめていくとこんなレビューになった次第です。本文中では上手く触れられませんでしたが、前回までで大きな要素だった心と体、前回から登場している螢多朗の妹2人(夕月・星)も正反対の要素として挙げられるのかなと思います。

さてさて、次回は再び卒業生回収に螢多朗が本格復帰。彼の活躍に期待したいと思います。

 

 

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