一人ではないということーー「ダークギャザリング」6話レビュー&感想

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

約束を知る「ダークギャザリング」。6話では螢多朗達の関係に様々な変化が訪れる。集合霊との戦いは、彼の社会復帰を妨害するようでむしろその補助線を引いている。

 

 

ダークギャザリング 第6話「約束」

 

 darkgathering.jp

 

 

1.螢多朗に欠けた社会性

前回危うく死にかけた気晴らしにキャンプへやってきた螢多朗達。平和で心地よい1日が過ぎるが、そこでも……?

 

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夜宵(こいつは単体じゃない……集合霊!)

 

どこまで行っても呪いの付きまとう「ダークギャザリング」。6話は夜宵のお化け集めに参加するかどうかや幼馴染の詠子との関係など螢多朗の変化の大きい回だが、最初に注目したいのは今回遭遇するのが「集合霊」である点だ。詠子の精神を操作して橋から飛び降りさせようとしている……と見せかけて霊媒体質の螢多朗を狙っており、1人と見せかけて複数人で襲いかかってくる恐るべき相手。ホステスだとか水子を使役する鬼子母神だとかいった単体の霊がターゲットだったこれまでと異なり、今回は1匹捕まえれば終わりとはならない。強力な悪霊の入ったぬいぐるみが1体あっても集団リンチの要領で敗北する恐れがあったり、操られた詠子と悪霊が連携プレーで螢多朗の体に取り憑こうとするなど、集合霊との戦いは集団との戦いであることが強調されている。……そして、集団が問題となるのは必ずしも集合霊との戦いに限らない。

 

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螢多朗「それに夜宵ちゃんには未来の可能性がいっぱいある。本来なら命がけの行為なんて止めるべきなんだ、大人なら」

 

螢多朗が夜宵からお化け集めに参加しないかと言われたのは3話ラストであったが、彼は未だ答えを出せていなかった。また呪われて、しかもそれに夜宵を巻き込んでしまったらと考えると恐ろしくて仕方なかったのだ。螢多朗はまだ幼い夜宵が命がけの戦いをするのを大人としては止めるべきとも考えており、迷いの理由は一つには夜宵の心配にあった。詠子が今も心霊スポットに行く理由にオカルトを科学的に研究したい思いがあることを聞かされた際も危険を冒さなくてもと感じており、彼が他人を思いやれる優しい人間なのが改めて伺える。ただ、その優しさはいささか過保護だ。

 

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詠子「約束してくれる? 傍にいて。一人にならないで。助け合える距離にいて。……それができるなら、いいと思うよ」

 

螢多朗の心配に対し夜宵は、ちょうど最中だった釣りで勝負を提案し勝ったらお化け集めに口出ししないでほしいと返した。命の散らせ方は自分で決めるから、と。詠子にしても、危険は認めつつもオカルト研究の先に自分が本当に知りたいものがーー螢多朗がいると遠回しに好意を伝えてそれをやめようとはしなかった。彼女達は螢多朗の優しさを否定はしなかったが、それを受け入れるかどうかは全く別の問題なのである。
引きこもりになったのが他人を霊障に巻き込みたくないと思い詰めたためだったように、螢多朗の優しさは一歩間違えば独善に陥りかねない欠点を抱えている。それはすなわち、他人の意思や自己決定すら己の中で完結させてしまう悪癖だ。他人のことを我がことのように心配するばかりでは、人は自分と相手の正確な距離を測ることができない。十分な社会性を、「集団」との関わりを持てない。そう、螢多朗は今回、集合霊に襲われる前から集団との向き合い方という問題に直面しているのだ。

 

2.一人ではないということ

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

螢多朗「捕まえた! 二人目!」

 

集合霊との戦いは集団との向き合い方の問題である。そう捉え直した時、今回の戦いは示唆に富んでいる。もっとも分かりやすいのは役割分担だろう。螢多朗の側には対お化けのスペシャリスト、「圧倒的な個」たる夜宵がいるが、彼女の霊感は視覚に結びついているから暗夜では螢多朗のそれの方が頼りになる。また霊媒体質の螢多朗は幽霊を引き寄せやすいから敵の狙いを絞りやすく、囮として最適だ。今回の戦いは夜宵と一緒にお化け集めをする際のシミュレーションとしても見ることができるが、つまり彼は別に夜宵と同一の行動を取る必要はない。

 

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螢多朗(内輪もめをさせた上、逆らう者がどうなるか見せつけて主従関係を刷り込んでる……!)

 

また、集団であることは強みと同時に弱味でもある。夜宵は幽霊を分断して個別に対処したり将棋の駒のように自分の手勢に加えたり、あまつさえ全員捕らえた後は内輪もめを起こさせたりするが、これは相手が圧倒的な個ではなく集団だから発生する弱点だ。見事な連携を取るとしても、彼らの間にはやはり距離がある。総じて、集合霊との戦いは螢多朗に人(霊)は良くも悪くもバラバラなものだと教えてくれている。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

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螢多朗「誓うよ。何が起きても、巻き込んだとしても、必ず僕が君を助ける」

 

人間は螢多朗が考えるほど同じような思考をしているわけではない。夜宵のように無謀に見える行為が当人なりの自己決定から生まれていることも、詠子のように怖いもの知らずに思える行為に恋心が潜んでいることもある。ただ、だからといって私達が結びつきを持てないと結論してしまうのも誤りだ。詠子を助けるためには夜宵と螢多朗のどちらもいなくてはならなかったし、螢多朗と詠子は今回の出来事を通して自分達が両思いであることを確認しもした。そこに見つけた結びつきは、集団との向き合い方について螢多朗が得た学びである。キャンプの後、夜宵と共にお化け集めをすると決めた螢多朗はオカルトへの関与と社会復帰は相反するわけではなく順序の問題に過ぎなかったのだと語るが、これは人がバラバラであることと結びつけることにおいても言えることなのだろう。けれどそれは同時に、結びついたと思えたその先にバラバラの場合があることも意味する。

 

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詠子「螢くん、捕まえた……!」

 

一緒にお化け集めをする夜宵の誘いを螢多朗が受け入れるのをこっそり聞いていた詠子は、ようやく願いが叶ったことに安堵していた。螢多朗に家庭教師のアルバイトを勧めたのは彼女、夜宵の家庭教師に螢多朗を推したのも彼女……この状況は全て詠子の計画通り。彼女にとって、螢多朗と一緒に受けた霊障は愛する彼を自分に縛り付ける最良の拘束具でもあったのだ。事件の翌朝、二人が互いの気持ちを正式に確かめた時に詠子が口にした「螢くん、捕まえた」という言葉の意味は、螢多朗が受け取るよりずっと重いものだった。だが、だからといってもちろん、詠子の螢多朗への思いが嘘というわけではない。二人が結びついているかバラバラであるかは順序の問題、すなわち表層的な違いに過ぎない。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

人は一人ではない。結びついていることとバラバラであること、その蠱毒の先の見えないところでこそ私達は繋がっているのだ。

 

感想

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

というわけでダークギャザリングの6話レビューでした。何か思ったより書きあぐねてしまった……詠子はまあ大変に詠子なんですが、その周到さが夜宵を遊びに連れて行ってあげる企画にも繋がっているのがとても優しい。夜宵が食材をつまみ食いしている姿を見ると本当に楽しんでいるんだろうなと思います。バーベキューの具材を追加してあげたい……!
さてさて、螢多朗が決心を固めて物語は次のステージへ。最強心霊スポットでは何が3人を待ち受けているんでしょうか。

 

 

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