八方塞がりの「ダークギャザリング」。8話では螢多朗に新たな生徒ができる。彼女にまつわる怒涛の展開に、古くて新しい本作の「蠱毒」がある。
ダークギャザリング 第8話「神の花嫁」
1.次から次へ
家庭教師のバイトでもう一人の生徒を引き受けることとなった螢多朗。今まで接してこなかったタイプのその少女・神代愛依(かみよあい)に螢多朗はてんてこ舞いだが、彼女にはある秘密が……?
螢多朗(今まで関わってこなかったタイプだ……正直、苦手かも)
前門も後門も呪いの「ダークギャザリング」。8話では愛依という人物が螢多朗の生徒として新たに登場するが、そのキャラクター性は夜宵達に負けず劣らず強烈だ。いわゆる"ギャル"である彼女は常にテンションが高く、また螢多朗をすぐ下の名前で呼ぶなど距離を詰めるのも早い。あまり触れてこなかったタイプの彼女とどう付き合うかが螢多朗にとって目下の課題……と思いきやそうはならなかった。彼女は教科書を逆さに持つレベルで勉強が苦手であり、ゲーム感覚で行わせたテストの結果は壊滅的なものに。更には幽霊に取り憑かれていることも判明し、螢多朗は愛依を幽霊関連のスペシャリストである夜宵に紹介することとなったからだ。
螢多朗(すごい不安……)
今回は序盤から怒涛の勢いで物語が進む回である。ただ、注目したいのは事態が進む時にそれまでの問題が解決してはいない点だ。螢多朗は別にギャルとの接し方を掴めたわけではないし、愛依の学力を向上させる方法が思いついたわけでもない。こうした問題の放置は、序盤に限らずこの8話全体で続いていくこととなる。
2.危険と危険
愛依「ど、どうして……? どうして……?」
螢多朗の紹介を受けて夜宵が見たところ、愛依には二人の幽霊が憑いていた。一人は最近死んだ彼女の兄の霊、もう一人はもっと古い時代の男の子のような幽霊。霊媒体質の螢多朗は悪い気配は兄の霊から悪い気配は感じておらず、夜宵が降霊術でもう一体の霊を人形に捕まえたことで愛依の周囲の怪奇現象は収まるはず……だったがそうはならなかった。なんと愛依を守っていたのは捕まった霊の方であり、兄の霊は夜になると妹を絞め殺しに現れたのだ。
神様「これまで通り、自分の所有物にかかる火の粉は自分で払うよ。四年後、迎えにいくまでね」
この日が四十九日であった兄は程なくして成仏し、夜宵が用意した身代わりの形代も功を奏して愛依が怪我を負うことはなかった。とはいえ仲の良かった兄がどうして妹を殺そうとしたのか? 愛依本人はもちろんのこと駆けつけた夜宵や螢多朗にも理解できない疑問はしかし、更なる問題に上書きされてしまう。夜宵が捕まえた霊とは実は彼女がコレクションしている霊の集団すらはねのける強さを持った「神」であり、しかもだからといって愛依をただ守っているわけではなかった。この神は愛依が二十歳になったら自分の花嫁として命を奪うつもりであり、彼女を守るのは「所有物」の火の粉を払う利己的な行為に過ぎなかったのである。更に悪いことに、夜宵の拘束を脱した神に再び取り憑かれた愛依の体からは霊をおびき寄せるエネルギーが漏出しており、夜宵達は異界化しかけた愛依の部屋から急ぎ脱出しなければならなくなってしまった。
螢多朗「ていうか詠子、よくここが分かったね」
詠子「ぎくっ!」
夜宵「駐車場で待ってて、と先に注意すべきだった。異界化しつつあるこの部屋に呼んだのは私のミス」
後半のあらすじは以上のようなものだが、前節で触れたように問題が解決していないのは後半も同様だ。兄がなぜ愛依を殺そうとしたかは謎のままだし、彼女に取り憑いた神様が4年後に命を奪おうとしているのも変わらない。ただこの状況では他の問題を優先せざるを得ないから、夜宵達はそれらを口にしなくなっていく。そう、簡単に言えばこの8話では
人は、問題を抱えていても目の前により大きな問題が現れればそちらに気を取られることが少なくない。千円札を紛失して探している最中に火事が起きればそんなものはなげうって家財道具を運び出すし、考えてもどうしようもない問題への鬱屈は目の前のスポーツや仕事への集中で気が紛れたりもする。もちろんこれらは「そんなことより重要な問題が」と矮小化に利用されたり単なる現実逃避に留まることもあるが、より大きな問題、より目の前の問題が別の問題を霧散させる力を秘めているのは世知として覚えておいて悪いものではあるまい。例えば今回は螢多朗の恋人である詠子のストーカー行為がバレそうになるも夜宵が部屋の危険性に話をすり替えたお陰で危うく危機を逃れる場面があるが、これはその分かりやすい活用例と言えるだろう。いや、そもそもで言えば夜宵の「やばいお化けを集めて悪霊を食い殺す」という発想はそれ自体が問題をより大きな問題で霧散させる最たる例ではなかったか。
愛依「わたし、やっぱりお兄ちゃんに恨まれてたのかな。わたしのせいで死んだって思われてたのかな……」
兄が妹を殺そうとしたのはなぜなのか。花嫁の命を奪おうとする神にどう対処したらよいのか。そういった重大な疑問は霊の集まる部屋からの脱出でひとまず棚上げになり、更に愛依を励まそうと詠子が提案した深夜のお菓子作りが体重面で「(ある意味お化けより)危険」という夜宵の指摘に場は一気に和んだものになる。あまりにも大きな問題を抱えた愛依にとって、これが気を紛らわす救いになっているのは間違いないだろう。しかしそれは更に眼の前に問題が現れれば霧散してしまうのも確かで、一安心してトイレに向かおうとした螢多朗が見たのはエネルギーに惹かれて既に相当危険な霊が愛依の部屋に入り込んでいる恐るべき事実であった。
呪いは異なる呪いで、問題は更に別の問題で上書きできる。上書きされてしまう。同種の問題が互いを食い合うこの状況はすなわち、危険と危険の蠱毒に等しい無法の戦いなのである。
感想
というわけでダークギャザリングの8話レビューでした。本作については毎度蠱毒を鍵に考えていますが、今回は相反するものではなく同種のものの蠱毒だと気付くのに少し手間取りました。詠子を深夜に召喚するのに螢多朗が浮気したと誤解させる夜宵の手口もこういう蠱毒の内に数えられますね。なので後でフォローしたことで「これでチャラ」と。
新登場の愛依が夜宵や詠子とはまた違った魅力、というか物語の中心に躍り出るような重大な秘密を抱えていて驚かされました。さてさて、この状況から螢多朗達はどう脱出するのでしょう。
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危険と危険――「ダークギャザリング」8話レビュー&感想https://t.co/47GvlEXlcl
— 闇鍋はにわ (@livewire891) August 29, 2023
愛依の初登場から怒涛の展開が続く第8話。そこから見える、いつもと少し違う"蠱毒"について書いてみました。#ダークギャザリング