嘘つきは狼の始まりーー「アンデッドガール・マーダーファルス」9話レビュー&感想

© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

嘘つきを吊るす「アンデッドガール・マーダーファルス」。9話では小さな村が起きる。鍵となる”人狼”は単なる狼人間ではない。

 

 

アンデッドガール・マーダーファルス 第9話「人狼

undeadgirl.jp

 

1.狼と嘘

© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

津軽「しかし、こんな山奥に村があるんですかね」

 

モリアーティ教授達を追って人狼の隠れ里・牙の森を探す鴉夜達は、「最後から二番目の夜」のヒントに従い遠吠え村ことホイレンドルフという村を訪れる。折しもそこでは、少女達が人狼にさらわれ惨殺される事件が相次いでおり……
吸血鬼など様々な怪物が登場する「アンデッドガール・マーダーファルス」だが、この第三章では人狼という怪物が物語の中心となる。漫画やゲームでもおなじみのいわゆる狼男であるが、本作におけるそれはどんな存在か? 人狼には会ったことがないという弟子の津軽に対し、鴉夜はその性質を語ってやる。

 

© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

鴉夜いわく、人狼は獣として見下されがちだが人語を解し潜伏に長ける賢さがあり、また人の姿をとっている時その身体能力は人間と変わらない。だが狼の姿ではぐんと力が増してその皮膚は銃弾も通さないようになり、獣人形態となれば熊のような巨体に膨れ上がる……なるほどいかにも人狼、と思える解説だが、注目したいのは身体能力が姿によって変わる点だ。変装の名人だって身体能力そのものを変化させることはできないが、人狼は三つの姿に自在に変わることでいともたやすくそれを成し遂げてしまう。すなわち肉体で嘘をつく・・・・ところが人狼の怪物たる所以だと言える。村人に紛れ込んだ人狼を探す有名なパーティゲーム人狼ゲーム」がそうであるように、人狼と嘘は切っても切り離せない関係にあるのだ。

 

 

2.嘘つきは狼の始まり

© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

ハイネマン「狼の被害者は何度か見てきたが、あれは普通じゃない。あんな殺し方ができるのは……」
鴉夜「人狼だけ、というわけですか」

 

偶然出会った医師ハイネマンに助力を請われ鴉夜達が到着した村、ホイレンドルフでは連続殺人事件が問題となっていた。1年前から4ヶ月ごとに少女が殺害される事件が続き、前日には新たにルイーゼという車いすの少女が行方不明に。人やただの狼には不可能な遺体の損壊状況から犯人は人狼と思われるが捜索しても見つからず、8年前に人狼が村に潜んでいた前例から今回も村人の中に犯人がいるのではないかと疑心暗鬼になっていたのだ。

 

© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

グスタフ「てめえが変身してルイーゼをさらった! 違うかクヌート!?」
クヌート「なわけないだろ、どうして僕を!?」
グスタフ「てめえはよそ者だ!」

 

村人の中に人狼が潜んでおり、定期的に村人を噛み殺していく。事実なら人狼ゲームそのものの事態にしかし、現場検証を行った鴉夜は一つの疑問を投げかける。ルイーゼがさらわれたという部屋のベッドにはべったりとついた血痕が逃走に使われた窓には全く残っていない点からは犯人がルイーゼを袋に詰めて持ち去ったと考えられるが、部屋からは毛布1枚盗まれていない。犯人は袋を自分で持ち込んだのであり、部屋が荒らされているのはいかにもけだものの犯行と思わせるための偽装工作……つまり「嘘」ではないかと。

 

© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

鴉夜「違う、犯人には理性がある。その点は確かだ」

 

鴉夜の指摘(損壊の激しい遺体は本当に行方不明になった少女かとハイネマンに確認するのを含め)は私達視聴者に、提示されている情報が事実でない可能性を強く想起させる。部屋に残された噛み跡が従前の事件のそれと一致したことから模倣犯ではないようだが、指摘で明らかになったように「村人に化けた人狼が定期的に理性を失い娘を襲っている」という構図には間違いなく嘘がある。そう、人狼は自在に三つの姿に肉体を変えられるがそれは嘘をつくのに必須ではない。医師であり落ち着きのあるハイネマンにしても、鴉夜達と初対面の際は鴉夜達を警戒して腰の後ろでこっそり拳銃を手に持つ嘘をついていたのだ。そして9話冒頭で描写される8年前に人狼が村に潜んでいた際のハイネマンを含めた村人の対応は、見る限り今を去ること100年前の関東大震災朝鮮人虐殺にも似た一方的な迫害であった。穏やかに暮らしていたと思われる人狼の母娘を、彼らは狼のように追い詰めて焼き討ちにしたのだ。それを正当化するのもまた「嘘」ではないか?

 

© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行

村長「この世界に牙の森なんて場所はない。じゃが人狼村に行くには牙の森を見出さにゃならん」

 

この第三章において、嘘つきは狼の始まりである。人狼と呼ばれる種族は肉体で嘘をつくが嘘をつくのは人間も同様であり、ならば人と狼を本当に分けるものは肉体ではあるまい。それは第一章の犯人が肉体が強いだけの子供であったり、また第二章では完璧な肉体を持つ怪物が津軽に一杯食わされた結末を通して本作が既に描いてきたことだ。

鴉夜が暴くべきはこの事件で犯人がついた嘘にある。人狼の隠れ里である牙の森は実在するものではなく見出すものだとホイレンドルフの村長が劇中で語っているように、嘘こそは狼の住処なのだ。

 

 

感想

というわけでアンファルの9話レビューでした。新章ということで何をとっかかりに考えたらよいか掴めず視聴を繰り返してこんな具合に。しばしば人と背景の輪郭線がボヤケているのも嘘を巡る話として象徴的な印象を受けます。最後にはロイス保険組合の新たなエージェントも現れ、事態はますます複雑になっていきそうですがはてさて。しかし静句さん、この頃の旅の枕事情はよく知らんけど枕をススまみれにするのはキツイな!?

 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>