機会の魔法ーー「幻日のヨハネ」10話レビュー&感想

©PROJECT YOHANE

モヤモヤの「幻日のヨハネ」。10話では2つの大きな出来事にヨハネが翻弄される。彼女に訪れた機会とは、オーディションの誘いーーではない。

 

 

幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR- 第10話「いってらっしゃいヨハネちゃん!」

yohane.net

 

1.抱えきれない喜びに

©PROJECT YOHANE

審査員「私にできるのは機会を作ることだけ。それを掴めるかどうかはあなた次第」

 

自分は歌が好きだと再認識したヨハネは、再び前を向こうとするも最初の一歩を踏み出せずにいた。そんな折、都会でオーディションを受けた際の審査員がやってきて……? 現と幻を行き来する「幻日のヨハネ」10話ではヨハネにビッグチャンスが到来する。なんと、夏祭りの歌を聞いていた芸能界の人間からオーディション参加の誘いが来たのだ。デビュー確定というわけではもちろんないが、審査をする人間から声がかかるなど滅多にあることではない。願ってもない絶好の機会……のはずだが、ヨハネの反応は歓喜ではなく意外にも困惑であった。

 

©PROJECT YOHANE

©PROJECT YOHANE

ライラプス「待ってたんじゃないの、チャンス」
ヨハネ「そうだけど……思ってたより大きかった」

 

ヨハネは別に芸能界への興味をなくしたわけではない。夏祭りを通して彼女は自分が歌が好きだと改めて気付き、そのために何か頑張ろうと考え始めた矢先であった。例えば、オーディションが開かれるという話を耳に挟んだだけならもう一度挑戦してみようと考えていたかもしれない。だが審査員から誘われるというのは彼女からすれば「思ってたより大きかった」話であり、この誘いは結果的にプレッシャーにもなってしまった。折角の話を受けたにも関わらずなかなか面倒な反応だが、こういった心理は多かれ少なかれ皆覚えがあるのではなかろうか?

 

人は抱えきれない喜びをもらった時、そこに同時に困惑を覚えてしまう。自信や尊厳の欠けた状況では、そうまでしてもらえる価値を自分に見出だせないからだ*1ヨハネは相手が何か企んでいるのではと疑ってしまうほどには追い詰められてはいないが、自分の価値にはやはり懐疑的で現状を素直に受け止められない。劇中ではもう一度都会に出るとヨハネが母親に「話す練習をしている」場面があるが、この場面には彼女の自信の無さがよく現れていると言えるだろう。そしてこの10話は、そんな彼女のスッキリしない心理を反映したように事態を推移させていく。

 

 

2.機会の魔法

©PROJECT YOHANE

ダイヤ「わたくし個人としてだけでなく、行政局としてもヨハネさんの夢を全面的に応援することにしました!」

 

ヨハネがオーディションに誘われたとの話は町中に広がり、ヌマヅでは壮行会が開かれることとなった。「都会のでっかいところでライブしてキャーキャー言われるんだよね?」などとだいぶ尾ひれがついていることに彼女は困惑するが、一方でオーディションへの参加に前向きな気持ちにもなっていく。ありがた迷惑なところが無いではないが、このやり過ぎなくらいの応援がヨハネに自信を持たせる効用を発揮しているのは確かだ。

 

©PROJECT YOHANE

ライラプス「応援してるよ、でも……」

 

しかし一方で、このオーディションの誘いはヨハネに相棒の狼獣ライラプスとの関係を悩ませる一因ともなっていた。ライラプスは今回の話に対して妙に反応が素っ気なく、ヨハネと一緒に都会に行くのはおろか壮行会への参加すら拒否するありさま。だが、一匹で夜空を見つめるライラプスが「応援してるよ、でも」と呟く姿からはけして反対しているわけではないことも分かる。

 

©PROJECT YOHANE

皆の過剰な喜びぶりも、ライラプスの苦悩も、ヨハネがオーディションへの参加をすんなり決められないのと同様、全体にこの10話はあまりスッキリしない話だ。壮行会で出番を待つヨハネを訪ねた近所の子供達にしても、いつもと違って尊敬を前面に出しているのに口をついて出るのは夏祭りでヨハネがもたついた時の話で馬鹿にしているようだったり、門出を祝福しながらもヌマヅからいなくなるのを寂しがったりしている。だが、世の中というのは元々そんなにスッキリしたものばかりではあるまい。

 

©PROJECT YOHANE

ハナマル「応援してるよ。マルも、皆も!」

 

かつて一度都会で夢破れた過去を持つヨハネは、今度こそ失敗したくないと語った際に友人達からこう返されている。「失敗が悪いことなの?」「やりたいことを挑戦しない方がダメダメだよね」と。ヨハネはヌマヅに戻ってきてからたくさんの友達ができ、人間的にも成長したがそれは失敗して戻ってきたからだ。もしヌマヅに留まったままだったら、ハナマル達と今のように一緒にはいなかったことだろう。オーディションの誘いにしても、審査員が声をかけたのは不合格にこそ終わったがかつて挑戦したため。失敗はただそれだけでスッキリと終わってはいなかった。

 

©PROJECT YOHANE

ヨハネ「お母さんに電話する前の練習……」

 

ヨハネがもう一度都会に出ようと決心しつつも母にそれを打ち明けるのに準備を要するように、人の心や因果は白と黒のように割り切れるほど単純にはできていない。彼女は自分がライラプスにお守りをしてもらっていると考えているがライラプスにはそんなつもりはないし、行政局執務長官のダイヤは壮行会で長々と話して妹のルビィを困らせてしまうがこれはステージ裏でヨハネと子供達が話す時間の確保に繋がっていたりもする。こうした見方による変化はもはや安っぽい相対化や正当化に悪用される方が多くなってしまった感もあるが、成功や好機だけが人を幸せに導くとは限らないのは事実であろう。

 

©PROJECT YOHANE

ヨハネ「行ってきますのあいさつくらい、させてくれてもいいのに」

 

ヨハネは壮行会にライラプスが来てくれないことを寂しく感じていたが、夏祭りの歌で鎮まったと思われた町の異変が再発したことで彼女と再会し行動を共にすることになる。異変が再発して良かったなどということはありえないが、おそらくこの出来事はヨハネに自分とライラプスの関係をもう一度見つめ直す契機となるはずだ。彼女が宿題として探している「私にしかできない、楽しくてたまらないこと」の答えはきっと、その先に待っていることだろう。

夢破れてヌマヅで「充電中」だった彼女は、望んでいた「あと一歩踏み出せるような何か」のきっかけを確かに得ている。だがそれはオーディションの誘いではない。そこから生まれる好機と危機、あらゆる試練こそはヨハネに「あと一歩踏み出せるような何か」を掴む機会を生み出す魔法なのである。

 

 

感想

というわけで幻ヨハの10話レビューでした。今回も掴みどころを探すのがなかなか難しく、良し悪し両方の含まれた卵のような状態が魔法なのではないか?と思いつくまで何度も見返すことに。最後まで書いたところで審査員の「私にできるのは機会を作ることだけ」という言葉が腑に落ちました。
壮行会で言っていたようにこのまま都会に行っていればヨハネはスッキリしない気持ちだったはずで、ライラプスとの関係は最後の鍵になりそうです。残り3話、どんな展開が待っているんでしょう。

 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>

*1:NPOなどでも、助けた人間に当初は逆に恨まれることも少なくないようだ