夢の黄昏ーー「幻日のヨハネ」9話レビュー&感想

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まどろみの「幻日のヨハネ」。9話ではヨハネライラプスの出会いが語られる。魔法は、まるで夢のように儚い。

 

 

「幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-」 第9話「ライラプスをさがせ」

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1.ライラプスは魔法使い

夏祭りから1週間、気の抜けたようになったヨハネは寝てばかり。ライラプスに小言を言われてもベッドから出ようとしなかった彼女だが、相手がどこかに行ってしまうと気になって……?

 

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ライラプス「ちょっとはって……お祭り終わってからもう1週間以上経ってますけど。占いも何でも屋もずーっと休業状態ですけど」
ヨハネ「もう、うるさいなあ」

 

ヌマヅの異変を収めるため9人で歌を歌い、前回で一つの山場を越えた「幻日のヨハネ」。この後どうするの?とは少なからぬ人が思ったことだろうが、それを象徴するように今回のヨハネはぐうたらしている。祭りが終わってから既に1週間経っているにも関わらず占い屋も何でも屋も休業中、二度寝どころか五度寝する有様……起きては寝てを繰り返すヨハネは、いわば前回までの夢から未だ覚めたくない気持ちでいる。そんな彼女も相棒の狼獣ライラプスが一人でどこかに行くと聞けば気になって尾行したりしてしまうわけだが、彼女はそこでライラプスの愛されぶりを目にすることとなった。

 

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町の人「ライラプス、いつもありがとうね」

 

犬としてはかなり大きな部類に入り、賢いライラプスはヌマヅの町の人気者だ。子供達からはその毛並みを大いに愛され、荷物をくわえて運んであげたりするので大人からも感謝されている。……というところまでは以前も描かれていたが、今回明らかになるのはそれがちょっと度を越したほどのものであることだった。尾行していたヨハネはリコやルビィと遭遇して話している内にライラプスを見失い手分けして探すのだが、尋ねる内に周囲の人はライラプスが家出しただとか誘拐されただとか尾ひれをつけていってしまう。行政局執務長官のダイヤに至ってはヌマヅの宝であるライラプスを失うわけにはいかないと捜索への協力を呼びかけるなど、ヨハネに落ち着くよう話しかける前に自分が落ち着けと言いたくなる騒ぎぶりだ。これまでも動物学者のリコがライラプスにちょっと引かれるほどの愛着を見せる場面があったが、ライラプスに魅了されているのは彼女だけではなかったと言えるだろう。ヌマヅの人々は魔法・・にかけられたようにライラプスを愛している。

 

不思議な力を使っているわけではないが、ライラプスは町の人にとって魔法使いも同然である。だが、この魔法はライラプスが愛玩されるためのものではない。

 

2.夢の黄昏

ライラプスの魔法は己が愛されるためのものではない。そのことをヨハネは、尾行とその後の再会で知ることになる。

 

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ライラプス「その方が楽しいかなって思っただけだよ」

 

ライラプスを探す中でふと見覚えのある景色にたどり着いたヨハネは、そこがライラプスと初めて出会った場所と気付くと同時に木から降りられなくなってしまった子猫を発見する。子猫を助けようと自らも木に登った彼女はあわや転落というところでライラプスに助けられ再会するのだがーー出会った時を思い出す中で気付いたのは、ライラプスが周囲の人と関わっていたのは、自分がヌマヅに帰ってきた時に馴染めるための居場所を作っておくためだということだった。実際、人気者のライラプスに人々が寄ってくれば自然それは一緒にいるヨハネとの縁に繋がる。今回にしても、祭りの後でぼんやりしていた彼女が外に出たのはライラプスが一人(1匹)でどこに行くかが気になったからなのだ。子猫を助けようと無茶をした時にも助けられたように、ヨハネにとってライラプスとは自分と世界を繋いでくれるかすがいのような存在なのだろう。

 

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ヨハネの母「ねえ、ヨハネが一人前になるまで一緒にいてあげて。約束よ?」

 

ライラプスは語る。ヨハネライラプスを飼う際に母と三つの約束(思いやりを忘れないこと、喧嘩しても仲直りすること、辛いことがあっても笑顔を忘れない)をしていたが、自分も母と約束をしていたのだと。それは「ヨハネが一人前になるまで一緒にいてあげる」こと……ライラプスは、この約束を果たすため町の人に居場所づくりの魔法をかけていたのだった。

 

約束に対するライラプスの姿勢は献身的である。ただ、見方によってはヨハネの母とライラプスの約束は少し意地悪だ。一人前になるまで一緒にいるのが約束なら、ヨハネが一人前になったその時ライラプスはどうなるのか? ヨハネとだけ人語を交わせるライラプスの現状はイマジナリーフレンドにも似ているが、イマジナリーフレンドは子供の成長と共に消失するものだ。すなわちヨハネが一人前になった時、もはやライラプスは今のようにはヨハネと一緒にいられない。ヨハネの成長を促す立場にありそれを喜ばしく感じながらも、約束を果たしたら今の関係はなくなってしまうというジレンマにライラプスは陥っている。

 

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今はまだ、ヨハネは一人前ではない。自分の力量を顧みず無茶をしてしまうし、母から出された宿題の答えも見つけられていない。そんな彼女とライラプスは一緒にいることができる。けれど宿題の答え、「自分にしかできない楽しくてたまらないこと」が何なのかもう少しで見えそうだとヨハネは感じているし、今の彼女はライラプスだけが遊び相手だった昔と違って大切な友人ができている。ヨハネが友達と楽しそうに話している時、あくまで彼女のための存在であるライラプスには居場所がない。その役割は着実に終わりが近づいている。

 

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頑是ない幼い時分のヨハネライラプスに、おしゃべりできるかわいい妹になあれとおまじないをーー魔法をかけた。本来現実に存在しない魔法とはいわば夢想であり、彼女は自分のかけた魔法の中にいる。まだ夢の中にいたいと心のどこかで思っているけれど、眠り直さなければならない魔法がもはや綻びを見せているのは明らかだ。そして、夢から目を覚まさせるのがライラプスの役割でもある。
人は永遠に夢を見続けることはできない。夕暮れ時で終わるこの9話のように、夢という魔法は黄昏を迎えているのである。

 

感想

というわけで幻ヨハの9話レビューでした。コミカルなライラプス騒動が魔法みたいだな、と思いつくとスルスルと自分の中で書くことがまとまってこうなった次第。ライラプスの心境を思うと切ない……なんだか連動して「屋根裏のラジャー」を見てみたくなっております。どういう結末を迎えることになるんでしょうね。

 

 

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