音と歌の魔法――「幻日のヨハネ」13話レビュー&感想

©PROJECT YOHANE

旋律の「幻日のヨハネ」。最終回13話では再びヨハネ達の歌がヌマヅに響く。異変を終わらせるのは「幻日のヨハネ」最大の魔法だ。

 

 

幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR- 第13話(最終回)「そして今日も」

yohane.net

 

1.他者と共に在ること

©PROJECT YOHANE

ハナマル「ヨハネちゃん……」

 

変異した木で町が覆われ、終わりに飲み込まれるかの如き様相を呈したヌマヅ。もはや手立ては尽きたかと思われる状況で、ハナマル達8人にヨハネの声が響き……?
ちょっと不思議だが魔法などはなく、私達のそれとさほど離れていない世界を舞台に描かれてきた「幻日のヨハネ」。最終回では異変が動物達や黒い霧に留まらぬ害を及ぼすが、それもあって登場人物は不安な表情を浮かべる場面が多い。メカニックのカナンは避難した住民に物資を届けているが相棒のロボット・トノサマの突然の機能停止を引きずっているし、お菓子売りのハナマルは怯える人の前では気丈に振る舞うが行方不明のヨハネの身を案じている。こうした不安を乗り切るために必要なのは心の強さだろうか? 否。

 

©PROJECT YOHANE

コハク「しっかりしてください長官!……ダイヤ! あなたはこの町の執務長官でしょう!?」

 

異変による皆の不安はバラバラに描かれているが、頂点として挙げられるのは主要人物9人の1人ダイヤであろう。彼女は行政局局舎の一部すら損壊する状況に遂に心が折れてしまうが、執務長官である彼女の絶望はヌマヅ全体の絶望を意味する。責任感が強く真面目で、これまで異変に対しできる限りの対策をテキパキとこなしてきた心の強さを持つ彼女すら、一人で不安に抗しきることはできなかったのだ。それでも彼女が立ち直れたのは、補佐官のコハクがしっかりするよう叱咤したため――一緒にいてくれたおかげであった。その後心に聞こえてきたヨハネの声に導かれて9人は集まり再び歌唱。最終的にはヌマヅ中の人々もそれに参加することで異変は鎮まるわけだが、こうした展開からは不安や苦難を乗り切る方策として他者と共に在ることが提示されていると言えるだろう。だが、なぜそれが方策たり得るのだろうか。

 

 

2.音と歌の魔法

©PROJECT YOHANE

ヨハネ「みんな……」

 

先に述べたように異変はヨハネ達9人、そしてヌマヅ中の人の歌によって鎮まるわけだが、9人とヌマヅ中の人が歌うまでの間にはトラブルが1つ起きている。異変の起こした雷はヨハネを皆から切り離し、孤独に閉じ込めてしまったのだ。意識まで別世界に閉じ込められたヨハネは「やっぱりわたしには」と挫けそうになってしまうが、そこでも不安や絶望から彼女を救ったのは皆の声であった。必死に呼びかける8人の声が、そして前回人語として聞き取れなくなったはずの幼なじみの狼獣・ライラプスの声が再び届くことで、ヨハネは皆のところへ帰還することができた。

前回もチカに指摘されているが、ヨハネは一人で悩みを抱え込みやすいタイプでありその鬱屈は都会に行っても晴れることはなかった。オーディションにも合格せず、その歌が響くことはなかった。なぜか? それは彼女が「音」に過ぎなかったからだ。

 

©PROJECT YOHANE

ナレーション「世界は心に満ちていた。歓喜や悲哀、祝福や憎悪。心の音が響き合い、一つの大きな旋律になり世界には歌声があふれていた」

 

伝承は言う。世界には様々な感情という心の「音」が響き合って旋律が生まれていたのだと。自己嫌悪も不安も、自分の内にあるだけでは1つの音に過ぎない。コハクがダイヤを立ち直らせたように、音と音は響き合って初めて旋律となるものだ。都会という「どこで」にこだわって「誰と何をするか」を考えなかったかつてのヨハネは、つまりは旋律になれない孤独な音であった。けれど今の彼女は違う。
ライラプスとの自分の関係を再確認し、8人の友達ができ、ヌマヅの人々に応援される彼女はもう音であって音ではない。幼なじみが大人になっていく寂しさだとか、また失敗するかもしれないという不安であるとか、喜びだけではない感情もこの時もはや音であって音ではない。他者といういくつもの音が重なればそれは旋律に――歌になるのだから。他者と共に在ることは、一緒に「歌う」ことは、音を歌に変えるからこそ不安を乗り越え異変を止めるロジックたり得ているのである。

 

©PROJECT YOHANE

ヨハネ「この世界は歌である。喜びも悲しみも、怒りも叫びも全ては歌になる。歌は変わっていく、流れる水のように。世界は歌である。そして今日も、今日を生きていく」

 

異変を止めたヌマヅの町は復興が進み、ここで暮らすことを決めたヨハネが8人からまた一緒に歌おうと誘いを受ける様子に上記の独白を重ねて物語は幕を閉じる。これが1話冒頭と鏡の関係にあるのは言うまでもないが、独白の言葉は同じではない。1話では「そしてわたし達は、新しい歌である」という言葉で締められていたが、「そして今日も、今日を生きていく」へと変わっている。だがこれは初めと終わりの変化であると同時に、実際は同じことを語っている。今日を生きていくことはどんな形であれ他者と関わっていくことであり、それは自分と他者の音を響かせ新しい歌となっていくことと同義だからだ。

 

©PROJECT YOHANE

ハナマル「ヨハネちゃん、早く!」
ヨハネ「はーい!」

 

1人の人間は、1つとして同じもののない音である。仲良くしようがいがみ合おうが、響き合う音はそれ自体が世界に響く旋律だ。本作は始まりの時から、この奇跡を私達に教えてくれていた。
魔法なき世が舞台の「幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-」が見せた最大の魔法。それは音を旋律に変える歌声の魔法だったのである。

 

感想

というわけでアニメ幻ヨハ最終回のレビューでした。いや悩んだ! 私はギャグアニメであれなんであれテーゼ+アンチテーゼ=ジンテーゼ弁証法を探してレビューを書いているのですが、それをどこに当てはめたらいいのかとっかかりが全然掴めなかったのです。でも、それだけに自分なりに答えを見つけられたのは嬉しかった。
ラブライブ!サンシャイン!!」の公式スピンオフということでどんな話になるんだろう?とおっかなびっくりでしたが、魔法なき世界で魔法を描く内容は一貫していていたなと思います。ダイヤさんに再び会えたのも嬉しかったですが、9人との再会に加えて幼なじみとしてのライラプスと出会えたのも嬉しい。
作品という音に私という音が響き合ってレビューの旋律が生まれる。本作に倣って言うなら、そんな視聴時間だったと思います。スタッフの皆様、お疲れ様でした。

 

 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>