落着の場所――「幻日のヨハネ」6話レビュー&感想

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腹落ちの「幻日のヨハネ」。6話ではさまよえるリコにヨハネが手を差し伸べる。彼女に必要な「場所」はなんだろう?

 

 

幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR- 第6話「ひとみしりのハーモニー」

 

 

1.「落ち着かない」リコ

今回は動物学者のリコにスポットの当たる回だ。他の面々に比べると出番の少なかった彼女はこの6話、それを補うように様々な表情を見せるが――リコを考えるヒントの一つはこの表情の豊かさにある。

 

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リコ「久しぶりだねライラプス! 元気にしてた?」

 

動物学者であるリコは珍しい生き物に目がない。主人公・ヨハネの相棒の狼獣ライラプス、魔王に連なる家系のマリの使い魔ペラピー、ヌマヅ行政局執務長官ダイヤの妹にして妖精のルビィを目にすれば「スイッチが入る」と言われるほどの興奮ぶりを見せ、そのためなら渋っていた頼まれごとも一も二もなく受け入れてしまうほどだ。ほとんど恍惚としたその様は普段の穏やかな物腰が嘘のようだが、この「落ち着きの無さ」にこそ彼女の本性がある。

 

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リコ「研究だって言って色んな場所を転々として、人と関わらないようにしてた。思い出を作るのが怖くて、そういうのから逃げてきた」

 

リコがヨハネ達に打ち明けたところによれば、彼女は家庭の都合で引っ越しの多い日々の中で友人と別れることに疲れいつしか人との関わりを避けるようになってしまった。それは動物学者になった今も払拭できてはおらず、研究のためというのを言い訳にあちこちを転々として誰かとの深い縁を避ける日々……放浪しているに等しいリコはすなわち一つ所に「落ち着く」ことがない。珍しい動物を見た時の豹変ぶりは、一面では日頃の彼女が心も体も居場所を見つけられない現れでもあるのだろう。

 

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心も体も「落ち着く」場所がなく、あてどなくさまよい続けてきたリコはしかし今回自分に居場所ができかけていることを感じる。ヨハネ達に頼まれてダイヤのところへ同行した際、興奮のあまり初対面のルビィを怖がらせてしまった彼女は怪我をしそうになるもすんでのところでヨハネとマリに助けられたのだ。出会ったのが最近とは信じられないと言われるほど息のピッタリ合った三人の関係はすなわち、物事が自然と「落ち着くべきところに落ち着く」関係である。しかしリコにとってこの気付きは恐ろしいことだった。

彼女にはかつて、迷い犬を拾って仲良くなるも飼い主が見つかり嬉しさと同時に寂しさを感じてしまった過去がある。居心地よさは別れの寂しさと表裏一体だと思い知った彼女にとって、わずかな時間で仲良くなってしまう相手と一緒に行動するなどあり得ないことだ。そんな相手とはできるだけすぐに別れなければならない。早く、早く、一刻も早く。

 

2.落着の場所

別れが寂しくなる前にと、予定を繰り上げてまで足早にヌマヅを去ろうとするリコ。しかし、彼女は一つ大きなことを見落としている。それは、居場所というのは目に見えるものとは限らないということだ。

 

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リコ「どこか行きたい場所でもあるんですか?」
ヨハネ「あ、いや特には……」
マリ「え、ないの?」

 

朝、出発しようとしていたリコはヨハネとマリの訪問を受ける。二人は別に、リコを引き留めようとやってきたわけではない。片付けだけでも手伝いたいだとか、駅まで送るついでで少し寄り道しようというけれど具体的に行きたい場所はなかったりだとかなんとも中途半端だ。だが、逆に言えば彼女達は目に見えるどこかを目指していたわけではない。ヨハネとマリが探していたのはリコの内心をほんの少しでも聞けるタイミング……すなわち目に見えない場所であった。

 

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ヨハネ「言ったじゃん、同じだって」

 

リコは知る。自分はこの世にただ一人のよそ者だと思っていたけれど、それはヨハネやマリも同じだったのだと。過去も立場もまるで違っていても、その孤独を分かち合える相手はーー分かち合える場所はーー存在するのだと。前回のマリがそうであったように、大切なのはその場所に気付けるかどうかだった。リコは人との関わりを避けて旅をしてきたと言うが、気付けばいつの間にか目的地にたどり着いていたのだ。

 

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リコ「学者としてのわたしの見識がこの町のお役に立てるなら、皆さんのお手伝いをさせていただきたいです!」

 

片端から並べれば整理整頓になるわけではないように、場所というのは単なるスペースではなく座りの良い地点を指す。それは物はもちろん、力も言葉も全てがそうだ。遠くの音も聴ける自分の耳が全ての音を聴けるわけではないと気付いたマリは伝承に言う心の「音」が聞こえない気持ちであると気付くし、それはヨハネに伝承の歌い手という役割を見出すことに繋がりもする。故郷が好きになれず一度は都会へ出たヨハネもよそからやってきたばかりのリコもそこに自分の居「場所」を見つければヌマヅに何かしたいと思えるようにもなる。してみればこの6話はばらばらだったものが、異なる意味でしかし共通してよそ者であったヨハネ、マリ、リコが3人で場所を発見する話だったと言えるだろう。

 

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ヨハネ「今までのわたし達がいてこんな出会い方があるなら、人見知りも悪くないね」

 

「落ち着きのない」リコを中心に始まった今回の話はかくて「落ち着くべきところに落ち着く」。誰が糸を引いたわけでもないのに座りの良い、魔法のようなその場所にこそ人は落着するのである。

 

 

感想

というわけで幻ヨハの6話レビューでした。珍しい動物を見ると目の色が変わるリコと終盤の気付きから「落着」という表現が浮かび、それを軸に自分の中で要素が整理整頓されていきました。考えてみると、私にとってのレビュー書きも目に見えない場所を探すようなところがあるなと思います。
さて、話数は折り返しでこれで9人が勢ぞろい。次回は賑やかな話になりそうで楽しみです。

 

 

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