二つの呪い――「ダークギャザリング」4話レビュー&感想

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

君を思う「ダークギャザリング」。4話では螢多朗の幼なじみである詠子の人となりが明かされる。霊障に巻き込まれた彼女がかけられた呪いは、一つではない。

 

 

ダークギャザリング 第4話「寶月詠子」

元凶の霊を殺せば呪いは消える。かつて霊障に巻き込んでしまった詠子を救えると知った螢多朗。オカルトから離れ社会復帰に努めるのか、あるいは── 。

公式サイトあらすじより)

 

 

1.純白の寶月詠

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詠子「わたし科学全般得意だけど、それで解明できない神秘にすっごい知的好奇心をくすぐられるんだよねー」
夜宵「わかるー」
螢多朗(分からん……)

 

大学生活が始まり、螢多朗と詠子は授業選択に向かった。しかし螢多朗は都市伝説の講義の見学で見たビデオに呪われてしまい…… 夜宵、螢多朗、そして詠子の3人を中心に語られる「ダークギャザリング」だが、今回は夜宵や螢多朗に比べると役割の薄かった詠子を掘り下げる回だ。そして大学を舞台に描かれるこの4話で見えてくるのは、彼女も夜宵同様に螢多朗と対の存在である点だろう。

 

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生徒「拙者達の情報工学研究室に入らんでござるか!?」

 

これまで語られてこなかった(螢多朗も知らなかった)が、詠子は学業面で非常に優秀な生徒であった。なんと国際情報オリンピック日本代表の経歴を持ち、4年生が面接の上で入るはずの研究室から誘いの声がかかるほど。夜宵も小学生としてはほとんど異常なレベルの天才児だが、舞台が大学の今回では詠子の比較対照は入試トップの螢多朗に限られることになる。

 

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詠子・生徒達「ござる~♡」
螢多朗「コミュ力高!?」

 

また更に明かされるのは、詠子の卓抜した人付き合いの上手さだ。優秀な経歴を持つ彼女は他の学生からも大人気で、しかも彼らの機嫌を損ねることなく色々な誘いを断って螢多朗のところへ戻ってくる。一緒に授業を受けるのが最優先だから、などと言われては螢多朗でなくとも赤面してしまうところだろう。

 

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螢多朗(詠子は呪いに巻き込んだにも関わらず僕を気にかけてくれている。加害者なんだから普通は煙たがるところを、あろうことか気にしないでと言い、側で支えてくれていた……)

 

端的に言って、公に見える寶月詠子の振る舞いには非の打ち所がない。それは螢多朗自身も重々承知しているところで、中学3年の時に霊障に巻き込んでしまったにも関わらず恨むどころか引きこもりなった自分の社会復帰を促してくれた彼女に螢多朗は深い感謝の念を抱いている。怖いものが好きという相容れなさはあるが、寶月詠子の人間性は例えるならシミ一つない純白……しかし、そこまで善良な人間が存在するものなのか。螢多朗は自分の疑念を恥じながらも捨てきれずにいたが、大学での事件で彼女への認識を改めることとなった。

 

2.螢多朗が受けたもう一つの呪い

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螢多朗「うわああああ!?」

 

詠子の悲しげな目に押し負けて都市伝説の講義の見学に行った螢多朗は、なんとと言うべきかやはりと言うべきか霊障に遭遇する。ガソリンの炎で自らの体を焼く様を撮影した、視聴すれば見た者が焼死すると講師が脅しをかけていたーー本当は安全性を事前に確認したはずだったーービデオに映った人間が途中で螢多朗に差し替わり、彼は現実でも焼け死ぬ呪いをかけられてしまったのだ。ただ、これはある意味表層的な呪いに過ぎない。

 

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螢多朗「だめだ、僕一人でなんとかする! もう巻き込みたくないんだ、大切な人を……!」

 

ビデオを見た螢多朗が本当に受けた呪い、それは引きこもり時代への回帰だ。形代のおかげですぐさま自分の体が燃えるようなことはないものの、それでも服の発火に見舞われた螢多朗は自分ひとりで呪いをなんとかしなければならないと思い詰めてしまった。「大切な人を巻き込みたくないから」一人になろうとするその姿は、場所こそ大学だがかつて詠子を巻き込んだ後悔から部屋に引きこもった時の"呪われた"精神状態そのものだ。だが当然ながらこれはオカルト的な呪いではないから、夜宵にはどうすることもできない。呪いを解けるのはかつてと同じただ一人、詠子に限られている。

 

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詠子「螢くんこそわたしにとって、ずっと側にいた大切な人だから」

 

詠子は言う。螢多朗はその霊媒体質で何度も危ない場所を警告し、見返りもないのに自分を守ってきてくれた。かつての霊障にしても原因は肝試しに巻き込んだ自分にあったのに、庇って呪いを半分引き受けてくれた。大切な人というなら自分にとっての螢多朗も同様であり、だから守られるだけじゃなく支え合いたいと。螢多朗が思い出すようにこれは彼が引きこもりから抜け出すきっかけになった言葉であり、だから彼女の純白さを改めて信じることができる。自分の真っ黒な呪いに立ち向かう勇気を得られるのであり、実はこの時点で解呪は半ば終わっている。今回の場合、心の呪いに比べればオカルトの呪いなどは表層のおまけに過ぎない。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

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螢多朗と詠子は対であり、二人が共にあることで呪いに立ち向かえる。このことは実際の霊への対処にしても今回、夜宵の役割が決定的ではあっても主要ではない点からも言える。彼女は人形に移した霊自身に呪いの映るビデオを見せてそれを解除させるという対策の用意はしたが、実行したのはあくまで服を右腕だけに巻いて発火対象を抑える螢多朗と、その炎を風で消すために彼を乗せた車を高速で走らせ続けなければならない詠子だ。部屋に連れ帰った霊を拷問(?)して事情を聞き出した上に調教する夜宵の力量は恐ろしいが、今回の功労者はやはり二人の方だろう。

 

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詠子「これから一緒にめいっぱい楽しもうね、大学生活!」
螢多朗「うん、こちらこそ」

 

螢多朗は、詠子が自分にとって欠かせない存在であることを再認識する。命をかけて守りたい、そして支え合える大切な人。自分の真っ黒な呪いを受け止めてくれる純白の人。……しかし、これは実は一面的なものの見方に過ぎないことを私達はこの後知ることになる。

 

3.二つの呪い

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

事件は終わった。螢多朗の呪いは無事解けたし、夜宵にお仕置きされた悪霊ももう悪さをすることはないだろう。安堵と共に帰宅した詠子は、自室の隠し部屋の扉を開ける。……そこにあったのはなんと、壁一面を埋め尽くす螢多朗の心霊写真であった。怖いものが好きな彼女は同時に、それに近づくと螢多朗が身を挺してでも自分を守ろうとしてくれるのも好きで好きでたまらなかったのだ。

 

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詠子(闇に近づくほどに、あなたは身を挺してでもわたしを守ろうとする。その度に趣味と愛情の両方が満たされて病みつきになっていく)

 

螢多朗は詠子は純白な人だと思っている。しかし詠子にすれば螢多朗の裏表の無さ優しさこそは純白であり、彼だけが自分のこの真っ黒な思いを受け止めてくれる。螢多朗と詠子の対の関係とはけして両者の色が固定されたものではなく、片方が黒なら白に、逆に白なら黒にもう片方が裏返るところにその特徴がある。例えるなら二人はどちらもシミ一つ無い、表裏が純白と真っ黒に分かれた2枚の布のような存在だったのだ。

 

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詠子「螢くん、わたしはあなたの中毒者……!」

 

螢多朗にとって詠子は自分を社会復帰に導いてくれた恩人である。しかし詠子にとって螢多朗は自分をある種の中毒者に、つまり社会から隔絶した存在へ落としていく甘美な麻薬だ。夜宵が立ち向かおうとしているのは世にも恐ろしいオカルトの類であるが、詠子はそれとはまた違う心の呪いにかけられているとも言えるだろう。そして当然、この呪いは二人が受けた霊障の解除自体では解くことができない。ではどうしたらいいのか? 螢多朗は知らずしてその問いに踏み込もうとしている。

 

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夜宵「やばいオバケを集めて、悪霊を食い殺そう」

 

螢多朗は夜宵から一緒に霊を集めて呪いを解こうと誘われていたが、すぐには返事ができずにいた。オカルトに踏み込めば社会復帰へ誘ってくれた詠子の願いに反するのではというのが理由だが、この4話の終わりで彼の悩みはもう少し抽象的な、しかし核心を突いたものになっていた。

 

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螢多朗「この呪いを解くことと解かないこと、どっちが詠子を大切にすることになるんだろう」

 

螢多朗はあくまでオカルト的な呪いについて言っているに過ぎないが、彼と詠子は霊障と心の二つの呪いにかけられている。そしてこの呪いあればこそ、互いが互いにとってかけがえないパートナーとなっているのも確かだ。呪いを解くことよりも相手を大切にすることが優先される関係ーーそれはある意味で究極の呪いだ。オカルト的な呪いよりも心の呪いよりも遥かに強い、それらを蹴散らす絶対的な呪いだ。
螢多朗と詠子は、霊障と心の二つの呪いにかけられている。そして、本物の呪いは二つの呪いの蠱毒からこそ生まれるのである。

 

感想

というわけでダークギャザリングの4話レビューでした。3話までと異なり詠子が中心の回なのでどういう図式が潜んでいるか考えるのに悩みましが、書けてみれば詠子の対は螢多朗に決まってますね。螢多朗の純粋さが際立った回であり、本作の怖さの幅が広がった回でもあったと思います。霊だけが怖いわけではない本作、さてさて次回はどのように私達の肝を冷やしてくれるのでしょう。

 

 

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