解けない魔法――「幻日のヨハネ」12話レビュー&感想

©PROJECT YOHANE

再会と別れの「幻日のヨハネ」。12話ではヨハネライラプスに別離が訪れる。魔法を解くのに必要だったのは、なんだろう?

 

 

幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR- 第12話「さよならライラプス

yohane.net

 

1.ライラプスの見守るもの

ヨハネの杖を取り戻すべく川に入ったライラプスはなんとか一命をとりとめた。安堵するヨハネは、ミキという少女が双子の姉妹のナミとペットの子豚のサクラを探していると知り可能性のある場所へ向かうが……?
少女の成長を描く「幻日のヨハネ」。副題にあるようにこの12話はヨハネの幼なじみの狼獣ライラプスとの別れの回であるが、今回のレビューではまず彼女について振り返るところから始めてみたい。

 

©PROJECT YOHANE

今更言うまでもないが、「幻日のヨハネ」は「ラブライブ!サンシャイン!!」の公式スピンオフ作品だ。主要人物9人は元作品ではスクールアイドルグループAqoursの9人であり、本作でもスクールアイドルにこそならないものの様々な形で歌を披露している。衣装なども異世界風に装われてはいるが舞台となるヌマヅは元作品の舞台であった静岡県沼津市をモデルとしているし、電話や列車どころかパワードスーツの類まで登場するなどその世界観はいわゆるファンタジーからはかけ離れたものだ。設定上は独立していても、「幻日のヨハネ」を「ラブライブ!サンシャイン!!」に付随する作品として見なかった人間はほとんどいないだろう。ただ、本作には元作品には明確に存在しなかったものが一つある。そう、幼なじみとしてのライラプスの存在感の大きさだ。

 

©PROJECT YOHANE

振り返ってみればライラプスは本作の例外的存在であった。先に触れたように本作は見た目ほど異世界的な作品ではなく、職業としての魔法使いなどは存在しない。猪のシシノシンや子豚のサクラといった動物が人と話すこともない。にも関わらず唯一ヨハネと人語で会話できる彼女が例外、つまり不思議を背負う存在でなくてなんであろう。
また、本作序盤においてライラプスの果たす役割は非常に大きかった。ヨハネは元作品の主人公のチカのように積極的に人と関わっていくタイプではないし、スクールアイドルの枠組みが無いため仲良くなったら常に一緒ともならない。傍らにライラプスがいなければ1人の時のヨハネには話し相手はいなかったし、なんならハナマル達他の8人と仲良くなる機会も得られなかったことだろう。

 

©PROJECT YOHANE

付随する作品としての始まり、劇中の例外的存在。これらから分かるのは、ライラプスヨハネだけでなく「幻日のヨハネ」そのものを見守ってきた事実だ。幼い頃に拾われた彼女は母と「ヨハネが一人前になるまで一緒にいてあげる」約束をかわしたが、ヨハネの成長はすなわち「幻日のヨハネ」の成長である。頼りなかったヨハネは今や元作品の主人公であるチカから憧れを告げられるまでに至っているが、ライラプスの役割は彼女と物語が軌道に乗るよう背中を押すところにあったのだった。

 

 

2.解けない魔法

ライラプスの役割はヨハネと物語が一人前になるまで一緒にいること。それは嘘ではない。だが全てでもない。

 

©PROJECT YOHANE

ライラプス「やっぱり泣いてる」
ヨハネ「泣いてないもん……どこ行ってたのよ、ライラプスのバカ!」

 

川で冷えた体が回復するも再び姿を消したライラプスを追ってヨハネがたどり着いたのは、1話でも訪れた切り株の前であった。幼い頃にライラプスによく歌を聞かせていた場所。そして魔法使いごっこをしていたはずが、なぜだか突然ライラプスと言葉を交わせるようになった場所。そこで待っていたライラプスは、ヨハネがかつて都会に行くと言った時に自分が応援しなかった理由を打ち明ける。

 

©PROJECT YOHANE

ライラプス「お母さんから一人前になるまで見届けてねって言われてそのつもりでいたのに、いざその日が来たら怖くなっちゃった」

 

ヨハネの都会行きにライラプスが賛成しなかった理由。それは彼女の考えが甘いだとか、地に足が着いていないとかいった理由ではなかった。ライラプスは寂しかったのだ。いつまでも子供のままのように思っていたヨハネが、自分の知らない内に大人になっていくのが寂しかった。ヨハネが一人前に、大人になるまで一緒にいる約束を交わしたライラプスの心にはいつの間にか子供のような気持ちが生まれていた。子供に帰ったようでもあるが、どんな内容であれ自分の気持ちに気付くというのはそれ自体が成長の一種である。

 

©PROJECT YOHANE

ライラプス「でも分かったんだ、ヨハネを見て。本当に一人前にならなきゃいけないのは私だって」
ヨハネ「わたし達は二人で一つ。わたしの、鏡……だったんだね」

 

前節で私は、ライラプスヨハネだけでなく「幻日のヨハネ」そのものを見守ってきたと書いた。だが、見守られてきたのは実はライラプスも同じだ。Aqoursの9人の新たな物語を期待して本作を視聴した私達にとって、ライラプスは当初異物であった。彼女の出番の分だけヨハネ以外の8人の出番が減ってしまった、なんて意地悪な見方もできなくはない。けれどライラプスがいかにヨハネを大切に思っているかを描いてきたこれまでの物語を見てきた人は、多くがもはや彼女を異物などとは感じていないだろう。むしろAqoursの枠外にあり別れや死の可能性が否定できないライラプスの行く末は、9人を上回るほどの関心事になっていたのではないだろうか。9話でヨハネが9人で楽しそうに話しているのを1匹で見ているライラプスの姿に、喜びよりも悲しみが上回ってしまった人は少なくないはずだ。そう、ライラプスに見守られる一方で、彼女というキャラクターが一人前になるまで見守ってきたのもまたヨハネと「幻日のヨハネ」なのだった。二人と、そしてライラプスと作品の関係はけして一方的なものではなかった。

 

©PROJECT YOHANE

ヨハネ「ありがとう、ライラプス

 

見守る者は見守られる者でもある。この図式が成立した時、全ては相反する意味を持つ。別れは繋がりであり、大人は子供であり、あなたは私であり――全ては鏡の関係になる。「おかえり」の鏡が「ただいま」であるように。なら、二人が会話できる”魔法”の終わりもけしてただの終わりではない。魔法が解けても一緒にいるなどという不思議は、それこそ一番不思議な魔法ではあるまいか。


ライラプスは魔法は解けるものだと言う。事実、この12話をもってヨハネにはライラプスの声は吠え声としてしか聞こえなくなってしまう。けれどこれはむしろ、どんな形になっても二人が心までは離れない固い証明である。ヨハネの歌う「Forever U & I」に込められたその魔法だけは、何があってもけして解けることはない。だから彼女達には、もはや言葉の通じる魔法は必要がない。
魔法は解けるものだ。しかし、解けない魔法こそは魔法を解くために必要な鍵なのである。

 

 

感想

というわけで幻ヨハの12話レビューでした。ああ、魔法のような回だったなあ。寂しくて、けれどライラプスが笑顔でいられるのが嬉しくもあって。彼女を演じた日笠陽子さんに感謝を。

前回も含め、ヨハネが明確に主人公になっていくのがこの2話だったのだと思います。じゃあ、ヨハネは最後に何を示すことになるのか。後1話というのが名残惜しいですが次回の最終回を待ちたいと思います。

 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>