破壊と進化――「ダークギャザリング」10話レビュー&感想

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

イノベーションの「ダークギャザリング」。10話では神との戦いが夜宵達を新たなステージに導く。進化とは蠱毒である。

 

 

ダークギャザリング 第10話「日本全土」

darkgathering.jp

 

1.神が破壊したもの

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

神「全力をもって挑みに来い。その一切を破壊せしめ、魂に到るまでその全てを冒し尽くしてやろう」

 

4年後に愛依を花嫁として殺すという神の暴虐に、正面切って挑戦状を叩きつけた螢多朗と夜宵。神は場を改めての戦いを承諾して去るが……?
常道に喧嘩を売る「ダークギャザリング」。10話ではひとまず棚上げとはいえ夜宵達が神との戦いを約するが、当然ながら神と霊は比べ物にならない。夜宵は当初は正体を知らず他の悪霊同様に人形に封じ込めて自分の部屋に置いていたが、神の実力の前には多対一の原則も破られ夜宵の悪霊人形は多数が破壊されてしまった。ただ、神が破壊したのは霊的・物理的なものに留まらない。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

夜宵にとって部屋に揃えた悪霊人形は複数の効果を兼ね備えたものだった。1つには自分や螢多朗達の爪などを入れて形代とし、悪霊からの攻撃の身代わりとする効果。2つには部屋を蠱毒の状態に置き、悪霊の戦力強化を図る効果。だが神によって悪霊間のパワーバランスが崩壊し共食いが発生したことで形代は多数が損壊、夜宵達は今までのように霊からの攻撃に対し安全ではなくなってしまった。しかもこの先は悪霊どころか神とまで戦わなければならない。本作は数話かけて螢多朗に夜宵と共にお化け集めをする決心を固めさせたが、そこで想像されていた日々はもはや不可能となったのだ。すなわち神は、悪霊だとか人形だとかいった霊的・物理的なものだけでなく螢多朗達の目論見そのものを破壊してしまったと言えるだろう。

 

 

2.破壊と進化

神が破壊したのは霊や人形に留まらず目論見である。だが、この騒動を通して起きたのは必ずしも破壊だけではない。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

夜宵「わたしの部屋の影響下においてなお、抑えきれない破格の悪霊。隣5軒くらいまで霊現象を引き起こす可能性がある、うちに置いておけないほどの束縛を必要とする霊……故に”卒業生”と呼んでいる」

 

例えばパワーバランスの崩壊による共食いは、最後に残った1体の悪霊にこれまでとは桁違いの力をもたらした。電話で声を聞いただけで人を廃人化させ、夜宵の部屋で束縛されていても周辺の家に怪現象を起こす力を持つもはや別の場所で保管せざるをえない悪霊……通称”卒業生”への進化を神による破壊は生み出した。
また大量の霊を失った夜宵は、その補充を兼ねてお化け集めのプランを更に拡大することとした。都内の最強心霊スポットを巡ったら更に全国を制覇し、神を手駒に加えるために最低6体以上の”卒業生”相当の悪霊を作る。「やばいお化けを集めて悪霊を食い殺す」だけではいささかあやふやだったプランが、具体的な地域や数を持った内容へ進化したのである。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

地球で繁栄する生物が恐竜から哺乳類へ変わった理由の有力な候補が巨大隕石の衝突であるように、破壊は時に劇的な進化をもたらすものだ。それまでのやり方が通じなくなった時は人も生き物も様々に新しい手法を模索するもので*1、大半は失敗して死滅するが多様なやり方の中で一握りの幸運な例が生き延び新たな繁栄を築いていく。神が夜宵の部屋にもたらしたのは一種の大量絶滅であり、ならばその先に進化が生まれるのは必然だ。そして更に言えば、この破壊と進化の図式はお化け集めに留まるものではない。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

螢多朗(腹をくくるしかないか……)
螢多朗「す、スケジュールを合わせるのが問題だね」

 

今回の霊騒動ならぬ神騒動に対し、螢多朗の行動は今までと大きく異なるものだった。怖がりの彼は神の実力にほとんど絶望的な気分になりながらも、それでも自分の生徒に手出しさせないと愛依を守ろうとしたのだ。しかも彼は夜宵の向かう先には危険度SSSかもしれないような場所があると言われながらも、行かないとはけして言わなかった。自分の殻を破るのが破壊にして進化であるのは言うまでもないだろう。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

夜宵「前に囮役として信頼していると言った。けど、もはやそれ以上に無二の相棒だと思った。……ありがとう」

 

螢多朗による破壊は、連鎖的に他者にも破壊と進化をもたらす。家庭教師として勉強を教え終わった彼は夜宵に誘われ彼女を後ろに乗せて自転車で走るが、そこで聞かされたのは自分がもはや「信頼できる囮役」どころか「無二の相棒」として信頼されている事実であった。螢多朗は母の例を取り戻すために一人で戦う決心をしていた夜宵の心の壁を破壊し、それによって彼女の精神を進化させたのだ。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

破壊がもたらす進化が良いものとは限らない。怯えの減った螢多朗は心霊スポット巡りの計画直後に家庭教師としての勉強の話を始めて夜宵の気分をぶち壊しにしてしまうし、彼女の信頼が嬉しくて行きたい場所はあるかと聞いた螢多朗が連れて行かされたのは危険度Sの心霊スポットであった。そもそも、夜宵はしっかり自分達の戦力を整えるプランを立ててはいるがそれが破壊される可能性だって否定はできない。待っているのは破滅かもしれないが、だとしても彼女達は進むことをやめはしない。

この10話は破壊と進化の蠱毒である。神のさだめを覆す呪いは、破壊と進化が凌駕し合ったその先にしか生まれないのだ。

 

 

感想

というわけでダークギャザリングの10話レビューでした。今回も螢多朗と夜宵の雰囲気が素晴らしい。恋人は詠子ですが、螢多朗には夜宵を幸せにしてあげてほしいなあ。さてさて、夜宵でも対応を変えなければならない激ヤバな霊達を相手にしなければならない状況からは何が見えるんでしょう。楽しみです。

 

 

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*1:なお、シーラカンスのように無変化という変化がもっとも環境に適応する場合もある