三人寄れば推進力――「星屑テレパス」2話レビュー&感想

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

天高く「星屑テレパス」。2話では海果とユウに新たな仲間が加わる。海果が冒頭学ぶように、ロケットは1人で作れない。

 

 

星屑テレパス 第2話「夕焼ロケット」

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1.推進力と噴射口

宇宙人だという明内ユウと一緒に宇宙を目指すことにした海果。しかし調べてみるとロケットを飛ばすのはとても難しいことが分かり……?

 

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遥乃「うふふ、ありがとうございます。ユウちゃんは宇宙人ですものね」

 

宇宙と私を繋ぐ「星屑テレパス」。冒頭でロケットについて語られる2話はずっとそれが中心のようにも感じられるが、描写量としては実のところそこまでではない。前半は海果達のクラスメートにして副学級委員長の宝木遥乃(たからぎはるの)が仲間に加わる話であり、すなわち海果にとっての人付き合いの方が中心となっているからだ。

 

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海果(明内さんが解剖されちゃう!)

 

既に明らかなように、海果は人と話すのが苦手な人間である。社交的な遥乃が話しかけたり助けてくれても、赤面してしまってまともに会話もできていない。しかし彼女が単純に消極的な人間かといえばそれも正しくはないだろう。先日(前回)海果とユウは灯台に行ったのではないかと遥乃が尋ねた際には、海果は灯台が立入禁止になっている点から想像を膨らませてこのままではユウが解剖されてしまうとまで考えてしまった。これは発想としては飛躍していると言ってよいものだ。そう、「言葉が通じないなら通じる人がいる宇宙に行けばいい」という前回の独白といい、海果の思考にはロケットのような・・・・・・・・推進力がある。ただそれを口にできない――推進力を噴射できないに過ぎない。

 

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海果「あ、明内さん。大丈夫……だから」

 

強力な推進力を持っていても噴射できなければ空へは飛べない。これは遥乃に挨拶したり感謝を告げたい気持ちがあっても口にできず、真っ赤になって黙ってしまう海果の現状によく似ている。ただ彼女は今回、普段とは異なる噴射口を見つけることができた。立入禁止の灯台に入ったことで叱られるのでは、と考えた海果は、素直に事情を口にするどころかユウをかばって嘘をついたのである。ぼんやりしていた宇宙への憧れがユウとの出会いで形になり始めたように、彼女の噴射口は自分よりむしろ他人に近いところにあったのだった。

 

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遥乃「ああ、神様! 今日という日の素晴らしい出会いと幸福に感謝いたしますわ! わたし達の行き先に銀河のごとくまばゆい光がありますように」

 

推進力の噴射口はどこにあるか分からない。遥乃は海果が嘘をついたのは自分が驚かせたせいだと謝るが、質問の真の理由も意外なものであった。彼女は二人の入った灯台が昔からお気に入りであり、灯台マニアなのではと勘違いしていたのだ。そして更に話してみれば遥乃は、ユウが宇宙人だと信じる上に宇宙人との友好こそ全ての生物の夢の終着点だと考えていたり、海果の声を波の音に例えて褒めたりするようなロマンチスト――これまたロケットのような推進力ある思考の持ち主だったのである。

 

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普段から突飛な発想と行動の目立つユウも含め、一見するとバラバラの3人は思考の推進力の強さでは共通していた。この事実は後半、物語そのものに推進力を与えることとなる。

 

 

2.三人寄れば推進力

海果、ユウ、遥乃の3人には思考の推進力の強さという共通点がある。それを踏まえた時、後半がペットボトルロケットの話になるのは示唆的だ。本物に比べれば遥かに簡素であっても、ロケットであるからには推進力が必要になってくる。

 

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海果達は個々に推進力を持ってはいるが、それだけでは空を飛ぶことはできない。海果はユウに提案するのも一苦労だし、ユウはペットボトルロケットと聞いてホットのお茶もロケットなのではと考えるなど右往左往や脱線がつきものだ。しかし今回加わった遥乃はロマンチストなだけでなく常識も備えているから、二人の推進力をある程度制御する役割を担うことができる。空のペットボトルを用意するために級友達に手分けして中身を飲んでもらったり、発射場所として灯台を提案したり……こういった点はユウとは異なる社交性を持った副学級委員長の面目躍如と言えるだろう。ただ、これは遥乃が単なる抑え役に過ぎないことを意味しない。

 

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海果(宝木さんのくもりのない言葉は、ただひたすらこの星から逃げることだけを考えていたわたしにとってとても新鮮で、衝撃的で、心が焼け付きそうなほどまぶしくて……)

 

ユウがロケットに使う水を汲みに行った際、遥乃は宇宙人に会ったらどうしたいかという彼女なりの思いを海果に披露する。「ユウちゃんみたいにこの星の素敵なところとか素敵な人とか、たくさん知ってもらえたらいいなって思うんです」……窮屈な地球から脱出したいとばかり考えていた海果にとって、これは衝撃的な言葉であった。遥乃の発想そのものが異星人的であったと言ってもいい。そう、彼女の言葉は海果を「窮屈な思考から脱出」させるロケットになったのだ。

 

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人は良くも悪くも偏りと無縁ではいられず、どれほど強い推進力を持っていても一人では越えられない壁を抱えている。けれど自分と異なる偏りを持つ人の言葉は、時にその正否を超越して私達にブレイクスルーをもたらすものだ。誰か他の人が推進力になってくれた時、私達は大気圏にも等しい壁を超えて宇宙へ――新たな世界へ行くことができる。海果達のペットボトルロケットは無事打ち上げに成功するが、物理的な飛距離が100mやそこらだとしても海果達の心は今までにない遠くまで飛べたと言えるだろう。

 

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「三人寄れば文殊の知恵」ということわざがある。けれど海果達は別に知識を持ち寄ったわけではない。異なる推進力を持つ3人が集まったからこそ、彼女達のロケットは夕焼けの空を飛べたのだ。

 

感想

というわけで星テレのアニメ2話レビューでした。遥乃のロマンチストぶりから2つの話を繋げていくとこんなレビューになった次第です。遥乃の話でありロケットの話でもあり海果の人付き合いの話でもある。包容力が包容力のレベルを突き抜けてる子を迎えたのだなと思います。
さて、次回は副題からすると4人目の登場。3人とはまた大きくカラーの異なった人物のようで楽しみです。

 

 

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