終わらないパズル――「魔法使いの嫁 SEASON2」15話レビュー&感想

©2022 ヤマザキコレ/マッグガーデン魔法使いの嫁製作委員会

先の見えない「魔法使いの嫁 SEASON2」。15話ではカレッジで静かに異変が進行する。「終わらない」とはある種のパズルである。

 

 

魔法使いの嫁 SEASON2 第15話「Needs must when the devil drives.Ⅰ」

mahoyome.jp

 


1.パズルを解いた先

封鎖されたカレッジでテストが近づく中、気分転換もままならない日々に生徒達は飽き飽きしていた。そんな中、チセのクラスメートの一人ヴァイオレットがちょっとした遊びを提案し……?

 

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マーティン「パス。今歴史のこと考えたくない……」
ソフィア「わたしもパス……」
ゾーイ「俺はもう何がなんだか……」

 

簡単に答えを出させてくれない「魔法使いの嫁 SEASON2」。15話本編はテスト勉強にうんざりした様子のチセ達のクラスの様子が描かれる。魔法でカレッジが封鎖され、街に出ることもスマートフォンを始めとした通信もできないこの状況は合宿が延々と続いているようなものだから気が滅入るのも当然だろう。こういう時は普段は目もくれないような単純な遊びが魅力的に映るもので*1、クラスメートの一人ヴァイオレットが気分転換にと持参した魔術パズルも本来はもっと小さな子供がするような代物であった。簡単な魔術をかけてロックしたパズルをいかに早く解くかを競うゲームは狙い通り大盛りあがりとなるが――残念ながらみなで楽しく笑って勉強に戻るとはいかない。参加者の一人リアンが競争したフィロメラとの勝負の結果に異を唱えたのだ。

 

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リアン「なんで手加減した!」

 

リアンが異を唱えたのは、自分より早かった相手がインチキをしたに違いないといったものではない。むしろその逆だ。こうした遊びが大の苦手と自認している彼は、昔からパズルを解くのが早かったはずのフィロメラが自分より遅かったことに手加減をされたと憤慨したのである。ただ、劇中での様子や回想を見れば分かるようにフィロメラは手加減したわけではない。遊びを無意味と断じ冷たく当たる祖母リズベスによって彼女はゲームで勝つことにむしろ拒絶反応を示すようになってしまっており、そのためらいが手を鈍らせたに過ぎない。

 

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リアン「どうしてあいつは真剣に勝とうとしないんだ。俺よりよっぽど頭も回れば魔術だって! どうしてあんなに卑屈なんだ!」

 

性根がまっすぐであるが故に、リアンは自分より優秀なはずのフィロメラの過剰な自己卑下が理解できない。どうしてそうなってしまったかに想像が及ばない。今回のアイテムになぞらえれば、これは一種のパズル・・・だ。リアンは手元のパズルは苦手なりに解けるようになったからこそ、リズベスによって複雑怪奇な魔術をかけられてしまったフィロメラというパズルを解き終えられていないと言える。フィロメラ自身にしても、勝っても負けてもどうしようもない現状はパズルを解けずに手が止まっているに等しい。

 

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チセ(生まれも立場も性格も、抱えるものも違うだろう彼女に、親近感なんて勝手に湧いて……)

 

パズルを解くことが全ての終わりに繋がるとは限らない。これは主人公のチセも同様である。彼女はその場を立ち去ったフィロメラの瞳にかつて鏡で見た自分の瞳を重ね、それが自分の感じている親近感の正体だったのだと気付くが適切な助言まではできない。親近感というパズルが解けた先にもやはりパズルはあり、終わりは単に新たな始まりでしかなかったのだった。

 

 

2.終わらないパズル

終わりは単に新たな始まりでしかない。これは絶望なのか? 否。

 

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シメオン「君って、音楽は好きかい?」

 

例えば今回は、カレッジの救護室から教師の一人シメオンが退院している。魔力を継続的に奪われる呪いをかけられ衰弱しきっていた彼も一応は回復できたわけだが、見ようによってはこれはチセの師で彼と友人になっていた魔法使いエリアスにとって今までのような見舞いの日々が「終わる」ことと同義だ。何かあったら呼んでくれて構わないと申し出たエリアスは過保護の傾向をシメオンに指摘されるが、この申し出はシメオンとの関係が「終わる」ことへの恐怖も一因となっているのだろう。だがシメオンは別れ際に音楽の話題を出し、今まであまり関心を持ってこなかったというエリアスのために適当なものを見繕う約束をしていった。患者と見舞いという日々の「終わり」が、音楽を通した交友という新たな「始まり」を生んだのだ。あるいはこれは、シメオンが退院後もエリアスとの交友関係が「終わらない」にはどうすればいいかのパズルを解いた結果とも言えようか。

 

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エリアス(チセと)
チセ(エリアスと)
二人(久しぶりにゆっくり話してるな……)

 

「終わらない」というのは単純なようで難しい。どんなワーカーホリックも全く休息なしには働き続けられないし、アニメが好きな人でも昨今の多数放映される新作アニメをひっきりなしに見続けるのは娯楽ではなく苦行であろう。思い返せば15話序盤、学生達がテスト勉強にうんざりしていたのもこれまでのような気分転換ができなくなってしまったためだ。そこには終わりがないからこその終わりがあった。

ただただ単純に続くものは私達の精神や肉体をすり潰してしまうのであり、継続するためには、「終わらない」ためにはむしろ区切りによる「終わり」と「始まり」の連続こそが必要となってくる。今回の終盤ではチセとエリアスが互いと久しぶりにゆっくり話す時間にやすらぎを覚える様子が描かれているが、これなどは各々の友人にしばらくかかりっきりになっていた区切りが二人の関係を「終わらせない」方向に作用した好例と言えるだろう。

 

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終わりは単に新たな始まりでしかない。これは絶望でも希望でもなく単なる事実である。強力な呪いを受けたシメオンや襲撃で負傷したルーシーの兄セスといった重症・重傷者の治療は終わったものの、今度は軽度の不調者が押し寄せることとなった救護室はカレッジが迎えた新たな事態の象徴だ。これ以上の被害者が出るのを防ぐのを目的の一つとしてカレッジを封鎖した学院長ライザもまた、新たな対策を練るよう――パズルを解くよう求められることだろう。封鎖がもたらした一時の猶予はもはや、終わりの時を迎えようとしている。

終わりと始まりがあるからこそ世界は、物事は終わらない。生きることはすなわち、無限に現れるパズルを解くことの繰り返しなのである。

 

感想

というわけでアニメまほよめ2期15話レビューでした。各話のジンテーゼが必ずしも事態を好転させてくれないのもあって本作のレビューは書き方に迷うことが多いのですが、今回は比較的妥当な塩梅にできたかな。リアンとアイザックの喧嘩も区切りで済んでくれるといいのですが。あと魔術で黒髪になったチセがなんとも不思議、個人的には彼女はやはり赤髪。
チセとエリアスの話に、なんだかカボチャが食べたくなってくる回でした。次回も人間関係に変化がありそうでドキドキです。

 

 

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*1:オフラインの携帯レトロゲーを持ち込んでいる生徒がいれば大盛りあがりしそうだ