枠の中の夜宵――「ダークギャザリング」23話レビュー&感想

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

限界の「ダークギャザリング」。23話では夜宵が囚われの身となる。彼女を捕えるのは、単なる異空間の類ではない。

 

 

ダークギャザリング 第23話「学校の怪談/鬼ごっこ

darkgathering.jp

 

 

1.夜宵のぶつかった壁

ゴールデンウイークが終わり、再開した学校へ通う夜宵は同級生のドロシーに声をかけられる。「唐突ですけど、あなたって見える人よね?」という彼女に誘われ、夜宵は学校の怪談を確かめに行くことになるが……?

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

初心に帰る「ダークギャザリング」。今回は夜宵が壁にぶつかる回だ。幼いながら優秀な頭脳と高い身体能力を併せ持つ彼女は、常識では考えられないことをこれまでいくつも行ってきた。悪霊と悪霊に共食いをさせ強大な”卒業生”を生み出す蠱毒やそれを自分の手駒とする発想、9話の等活地獄システムに代表される悪霊への容赦のない仕打ち……宿敵・空亡にさらわれた母の霊を取り戻すため手を尽くす彼女には限界などないようにすら見えるが、もちろんそんなことはない。分かりやすいのは今回冒頭の京都行きを巡るやりとりだろう。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

夜宵「……いや、螢多朗の言う通り」
螢多朗「え?」
夜宵「ごめん、忘れて」

 

この23話、友人である愛依を見初めた「神様」と空亡の戦いに愛依が巻き込まれたと知った夜宵は彼女のためすぐ京都へ行こうと提案するが、それが難しいと悟り自ら意見を取り下げざるを得なくなった。小学生の彼女は仲間の螢多朗や詠子の大学と違って通学スケジュールが動かせず、また両親を亡くし親戚の家に引き取られた身では学校をないがしろにもできないためだ。

 

頭脳と身体能力が小学生離れしていたとしても、小学生の身分そのものやワガママを言いにくい立場まで否定できるわけではない。これが今回夜宵がぶつかった壁である。そして彼女の前に現れた少女ドロシーによって、夜宵は今回更にいくつもの壁に直面することとなる。

 

 

2.枠の中の夜宵

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

ドロシー「わたくしは隣のクラスのドロシー。ドロシー・フラムスティード。唐突ですけれど、あなったって見える人よね? 実はわたくしもですの!」

 

通学する夜宵の前へ現れ、学校の怪談を確かめようと誘った同級生の少女、ドロシー。ゴスロリファッションに身を包んだ姿は大いに人目を引くが、彼女の恐るべきは服装よりも内側にある。その正体は霊が人の体を奪った「なり代わり」であり、夜宵に声をかけたのも彼女が脅威となるか調べるためだったのだ。校舎内の霊道はドロシーによって操作され消えかけの浮遊霊ですら悪霊になるよう仕掛けが施されており、夜宵は今回思わぬ難敵にぶつかることとなった。

 

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ドロシー「二つの霊道を正面衝突させてみたんですの! その結果……向かい合った浮遊霊が道を譲らず食い殺しあったのですわ。消える寸前で、未練も何も残っていないのに!」

 

(偽者だが)ドロシーという少女の注目すべき点は、夜宵との類似が多々見られる点である。彼女と同級生であること、ゴスロリファッションの一環という由来の違いはあるが共に霊の封じられた人形を抱いていること、そして霊道操作で生じる共食いによって霊を強化したこと……そう、特に最後の行為は原理としては夜宵が自室で行っていた蠱毒によく似ている。もちろん夜宵はドロシーと異なり悪霊とそれ以外を選別した上で蠱毒に投入してはいたが、危険な霊を生み出す点では両者の間に違いはない。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

ドロシー「寶月さん。夢の鬼ごっこを脱出して、この先生をどうにかできればあなたの勝利ですわ」

 

校内では開かずの間となっている、霊道がぶつかる場所で育っていた悪霊……生徒にハメられ人生を破滅させられた教師・坂下の霊は脳の化物に成り果てており、開かずの間が開放された瞬間呪いによって校舎一帯を覆ってしまった。これは夜宵流に言うなら卒業である。蠱毒から一体だけ生き残った霊が到達する、隣5軒くらいまで霊現象を起こせるほどの力を持つ破格の存在”卒業生”を、ドロシーは知らずして再現してみせたのだ。

 

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夜宵(この空間にいる限り、完全消滅させても再生すると考えるべきか)

 

教師の霊の呪いは校舎を再現した夢の中に夜宵やなりゆきから一緒にいた同級生を閉じ込めてしまうが、これは壁という以上に四面を取り囲む「枠」だ。枠に閉じ込められてしまった時、多少の強みや違いはもはや意味を持てない。例えば教師の霊と一対一の殺人鬼ごっこを強いるこの夢の中でも夜宵の持つ宇宙人人形の霊の強さは健在だが、教師の霊は夢の中にいる限り再生するためその強さは事態を打開する決定打になってはくれない。”蠱毒”と”卒業生”の再現を含め、夜宵によく似たドロシーの登場は物語としては彼女を「枠」に閉じ込める力を持っているのだろう。

 

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坂下「みいつけた」

 

この23話は最後、同級生の一人であるクラス委員長が夜宵と偽ってかけてきた電話に騙され襲われる場面で幕を閉じる。夜宵本人は出ていないが、これは悪霊を使役する彼女と悪霊を同じ枠に閉じ込める問いだ。やっていることに何の違いがあるのかという根源的な問いだ。

 

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会

旧I水門の戦いで廓の形で暗示された問題は、今まさに現実の問題となって夜宵に牙を剥いている。己とドロシーの違いを答えられない限り、夜宵は本当の意味でこの枠(夢)から脱出することはできないのである。

 

感想

というわけでダークギャザリングのアニメ23話レビューでした。前回が今後の示唆に富んだ内容だったおかげで、今回はレールの上を行くような感じで書くことができました。とはいえ、ドロシー流の卒業生なんてものまで出てくるとは思わず。アニメ終盤に相応しい相手と言えるのではないかと思います。夜宵はいったいどんな答えを見せてくれるんでしょうか。

 

 

 

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