話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会 「星屑テレパス」9話より
個人ニュースサイトaniado」さんが集計してくださっている、話数単位TVアニメ10選企画に今年も参加します。ルールは以下の通り。
 
・2023年1月1日~12月31日までに放送されたTVアニメ(再放送を除く)から選定。
・1作品につき上限1話。
・順位は付けない。
・集計対象は2023年中に公開されたものと致しますので、集計を希望される方は年内での公開をお願いします。

 

昨年の記事はこちら。

dwa.hatenablog.com

 

 

No.01 ダークギャザリング 第12話「H城址-卒業生」

Ⓒ近藤憲一/集英社・ダークギャザリング製作委員会 「ダークギャザリング」12話より
夜宵「螢多朗、たとえ闇の中にいてもこの感触を忘れないで」
 
新感覚クレイジーホラーアニメからは1クール目の区切りとなる12話を。
悪霊を扱った作品としてこれまでにない新境地を開く作風が魅力的な本作ですが、私が一番惹かれたのは夜宵が螢多朗によって新しい表情を見せていく部分で。彼や霊とのこれまでとは違う関係性が描かれていくこの12話、台詞を引用した場面は夜宵が1クール目のキーワードである「蠱毒」そして「孤独」から卒業したのを感じさせてくれる本当に素敵なものだったと思います。あと、宮田浩徳さん演じる邪経文大僧正のお経がとても格好良い。リアルでは絶対に聞きたくないですが。
 

 

No.02 魔法使いの嫁 SEASON2 第20話「Even a worm will turn.」

©2022 ヤマザキコレ/マッグガーデン魔法使いの嫁製作委員会 「魔法使いの嫁 SEASON2」20話より
イリス「わたしはあんたの言いなりになんか、絶対になってやらない!」
 
魔法から魔術へ、まがい物の世界へ舞台を移してチセ達の物語を描く「魔法使いの嫁」2期からはフィロメラの両親の過去を描く20話を。
引用した台詞に見られるようにフィロメラの母イリスには例外的な心の強さがあって、しかし神の気まぐれのごとき理不尽な人生そのものから己の身を守ることはできない。けれど彼女と夫アダムの見せたささやかな抵抗に、抗いにこそ本物の「人生」を送る道理は秘められている。クソみたいな人生と言いながらも「まだ死にたくなかったな」と最後につぶやく彼女のなんと気高いことか。
過去に倒れた者だからできる話であり、短い時間ながら印象的な回でした。
 

No.03 幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR- 第11話「ヨハネのまほう」

©PROJECT YOHANE 「幻日のヨハネ -SUNSHINE in the MIRROR-」11話より
チカ「わたし、この旅館で働くのが大好きだし、これがわたしの仕事だって自信持って言える。だけどあの日、この皆でずっと歌ってたいなって……そう思ったよ」
 
ラブライブ!サンシャイン!!のスピンオフ作品からは、元作品の主人公がエールを送る11話を。
本作の主人公のヨハネは、一言で言えば面倒くさい子です。お調子者の一方で自分に自信がなくて、よく間違えるし関係ないことまで自分のせいだと感じてしまうような、いわゆる論理的思考からは縁遠い子。ラブライブ!シリーズの主人公の多くに見られるような、得体の知れない人格的なパワーなんかは持ち合わせてはいない。でも、そういうくだらないものに惹かれたり無意味なことに血道をあげてしまうのが私達人間でもある。例えば、絵が動いて声がついただけのアニメに心震わせられるように。
 
本作について腑に落ちるとか盛り上がるとかであれば、この後の12話最終回の方が断然上です。この回のヨハネは面倒くさいこと極まりない。でもそんな彼女を救うのが、自分の仕事は旅館で働くことだと自信を持って言えるチカがそれでもヨハネと一緒に歌いたいと思った、ある意味でくだらないことに惑わされた事実だというところにも本作の個性は存分に発揮されている。それを伝えるチカが元作品=本筋の主人公にしてほとんど得体の知れない人格的パワーを持つ少女という図式もそれを証明しているように思います。チカとヨハネが物語として手を取り合うこの回はきっと、「スピンオフとしての」本作の頂点なのです。
 

No.04 アンデッドガール・マーダーファルス 第7話「混戦遊戯」

© 青崎有吾・講談社/鳥籠使い一行 「アンデッドガール・マーダーファルス」7話より
津軽「泥棒をとっ捕まえようと知恵を絞ったじいさん、どでかい釜に身を隠して寝ずの番と相成りました。ところがじいさん酒飲んでぐうぐう高いびきぃ!」
 
怪物が実在するが故に怪物の存在しない世界を描いた本作。第1部から第3部までどれもよくばり定食みたいな盛り込み具合でしたが、1つ選ぶならこの7話。
探偵vs怪盗が四つ巴の戦いになっていくカオスさもそうですが、落語をやりながら塔から飛び降りて現れるというのが他ではまあ見られないだろうという不思議な心地よさ。本作で一番アニメ映えするシーンだったのではないかと思います。
 

No.05 BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第25話「蘇る約束」

©BNP/BIRDIE WING Golf Club 「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」25話より
葵「イヴ、わたし病気治すから。必ずや治すから……待っててくれる?」
 
道理を無理でこじ開けるようなパワフルな展開で視聴者を魅了した本作からは最終回を。2クール目だけでも薫子や九葉、アイシャや雨音などたくさんのキャラクターが魅力的な姿を見せてくれましたが、本作がイヴと葵の物語に尽きることを考えるとやはり最終回を選ばずにはいられませんでした。
 
葵がいたからイヴが本当の意味でゴルフのできるようになった事実は本当は「葵とするのが本物のゴルフ」で、だからイヴは葵が病でゴルフできない状況に全力で抗う。世界最強の女子ゴルファー・ユーハにグッとくるのを認めつつも、それでも彼女が勝負しているのはどこまでも葵一人だけ……もう自分はゴルフができないと諦めていた葵に再起を決意させるイヴのこの愚直さは、それこそ"弾丸"そのものでした。決戦は引用したただ一言のためにあった、と言っても過言ではない。
 
破天荒だからこそ本作は純愛ものだったし、私はこれは愛が奇跡を呼んだ物語だったんだと声を大にして言いたい。恥ずかしくなるくらいの思いを最後まで曲げることのなかった、まっすぐな作品でした。
 

No.06 機動戦士ガンダム 水星の魔女 第20話「望みの果て」

© 創通・サンライズMBS 「機動戦士ガンダム 水星の魔女」20話より
スレッタ「中に取り残された人がいます。きっと、まだたくさん。でも、まだ助かる人いるかもしれませんから」
 
ガンダムに多くの人が触れるきっかけ作りに成功した作品からは、激動の20話を。
この回はグエルとシャディクの対決やエラン5号とノレアの別れなど様々な「揃わない二つ」が見える回です。単純に見応えという意味でも、ダリルバルデとミカエリスの戦いやデミバーディングの登場等見せ場は多い。けれど私は、それより何より最後のスレッタの姿が一番目に焼き付いています。
 
何をできる力も持たない彼女が、瓦礫の下にたくさんの人が死んでいると知りつつ生存者との「2つ」を得ようと進む姿にこそ本当の意味での主人公の姿がある。涙をこらえる顔を見せずに瓦礫をどかしていく彼女の背中には、100の言葉より仲間や私達を進ませる力がにじみ出ていました。
 

No.07 虚構推理 Season2 第24話「うなぎ屋の幸運日」

©城平京・片瀬茶柴・講談社/虚構推理2製作委員会 「虚構推理 Season2」24話より
十条寺・梶尾((あれは一体なんだったんだろう……?))
 
虚構を見つめる異類のミステリーからは、うなぎを食べたくなる最終回を。それまでの「スリーピング・マーダー」編は盛り上がりの一方でラストとしては戸惑う内容だからというのもあるでしょうが、小話的なこの24話には2期のテーマであったろう「岩永琴子とは何者か?」へ向き合う内容としてきっちり物語を締めてくれる内容でした。
 
この事件の犯人は「人でなし」だと言われますが、怪異の実在する本作のそれは化け物のような人間のことを指さない。文字通り単に人でないもの、言うなら真実でも虚構でもないもの――「あらざるもの」と対峙するところにこそ、岩永琴子という秩序の守護者の役割はある。「スリーピング・マーダー」編で多くの人が感じたであろう彼女への疑問に、この30分は一つの答えを示してくれています。とはいえ、ラストでの恋人・九郎とのやりとりが脱力ものの不思議さなのも確かなところで。引用した台詞の通り「あれは一体なんだったんだろう」と感じるくらいがちょうどいいのかもしれません。とにもかくにも、本作は可憐で苛烈なおひいさまを見るための物語であることがこの回ほど描かれている回は無いと思うのです。
 

No.08 吸血鬼すぐ死ぬ2 第7話「Put a sock in it!!!/ちんは国家なり/ジョン 太ったな」

©盆ノ木至(秋田書店)/製作委員会2すぐ死ぬ 「吸血鬼すぐ死ぬ2」7話より
ヨモツザカ「……まったく、くだらん無意味な時間だったな。俺様の犬はお前だけだ、コロ」
 
何度でも死ぬ再びの物語からはマッチングの妙の光る7話を。吸血鬼退治人だったはずがその手段としての靴下盗みに夢中になってしまった人間・靴下コレクションやヒナイチの催眠術を解こうとしてドツボにハマっていくドラウスなどが愉快な回ですが、一方でジョンで実験するつもりだったのに犬のように振る舞うそれにいつしか愛着の気の迷いを覚えてしまうヨモツザカを描く3本目を見るととてもしんみりした気分になります。
 
催眠術にかかっていてもドラルクの危機には上記に戻るジョンに象徴されるように、正しいマッチングには圧倒的な正しさ美しさ、感動がある。けれど一方で私達は、間違っているはずのマッチングにもどうしようもなく血迷ったり、あるいは幻と知りながらそれに惑わされずにはいられない生き物でもあって。私自身もまた、この7話を見ると客観的には愚かなはずの彼らが愛おしくてたまらなくなってしまいます。そういう、理屈から離れた部分を私達は捨ててはいけないのだと思います。
 

No.09 ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン 第29話「アンダー・ワールド」

©荒木飛呂彦&LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社ジョジョの奇妙な冒険THE ANIMATION PROJECT 「ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン」29話より
ヴェルサス「悪いが俺は生き残るぜ、プッチ神父
 
ジョジョを問い直す第6部のアニメからは、一人の男がもがく29話を。最終クールだけあって泣ける話や燃える展開には事欠かず、ウェザー・リポートの話なども候補に上がりましたが最終的にヴェルサスの29話を選びました。
 
ジョナサン・ジョースターの体を乗っ取ったDIOの息子の一人であり、これまで悲惨な運命に翻弄され続けてきた不運な男ドナテロ・ヴェルサス。異母兄弟と異なりプッチ神父に反逆し最後はついでとばかり始末されてしまう彼はいかにも小物という感じですが、それは彼が自分の生を全うしようとした結果でもある。同じような境遇から使命に殉じたリキエルは確かに爽やかだけれども、ある意味ヴェルサスは彼よりずっと困難な道を自分の意志で歩んだ男だと思うのです。
この29話冒頭、星型のアザを持つ者を感じる力を得たウェザー・リポートは、近くにプッチ神父や主人公の徐倫だけでなくもう一人の気配を感じると語りました。反逆を選んだヴェルサスは、愚かだとしても確かに「3人目」だったのではないでしょうか。
 
 

No.10 星屑テレパス 第9話「惑星グラビティ」

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会 「星屑テレパス」9話より
彗「この感動はちゃんと伝えておきたいな、って」
 
ひたむきな少女達を描くきららアニメからは、挫折とそこから輝きを見つける9話を。ロケット選手権での失敗からバラバラになるロケ研に胸が痛み、海果がどん底からはい上がる姿が美しい回ですが――私がこの回を選んだのは、彼女達の圧倒的な先を行く秋月彗の言葉が印象的だったから。
 
一度目は火薬に着火せず、二度目は目標値を大きくオーバーという散々な結果のはずの海果達のロケットをしかし、彗はいい打ち上げだったと言います。天候もけしてベストでない中、まっすぐ空を飛ぶ軌道に心奪われたのだと。もちろん、これはお世辞なんかではない。
なぜ彗は海果達のロケットに心躍ったのか。繰り返し視聴する内に思ったのは、彗はこのロケットがロケ研の4人そのものだと感じたのではないかということでした。火を付けるのも上手くなくて勢い余って遠くにいってしまうけど誰よりもまっすぐな軌道を描くロケットに、自分が打ち上げ前にしたスピーチより遥かに雄弁な語りを――"テレパシー"のような理解を――彗は感じたのではないかと。そこに思い至った時、彼女が感じたように私もまた「胸がスカッとした」気がしました。「この感動はちゃんと伝えておきたいな」と感じました。
 
私はアニメを見るための知識だとか論理だとかにはおよそ欠けた人間です。演出や構図は分からないし、伏線にもこれっぽっちも気付けない。知識を援用してモチーフなどを探れるわけでもない。
けれど一方で、そんな私でも繰り返し見ているとアニメ1話1話が語りかけているものが急に聞こえたような気がする時があります。それはまるで、作品がテレパシーで私に語りかけてくれたんじゃないかと思えるほど鮮やかに。その得難い瞬間を忘れられないからこそ、私はアニメを見てレビューを書き続けているのだと思います。
 
 
 

選外:SAND LAND(サンドランド)

ベルゼブブ「悪魔よりワルだなんて許されると思うか?」
 
映画なのでそもそも対象外なのですが、自分としてはたくさん見た今年の映画のベストということで。
物語全体を振り返った時、引用した台詞が単なる小洒落た言い回しではなく私達に「ワルの上限」とでも呼ぶべきものを示しているのにしびれました。ゲ謎トットちゃんも素晴らしかったしあと1本鑑賞予定が控えてるんですけども、映画館でポップコーンとコーラを手にこの作品を見るひとときは本当に幸福だったなあ……!
 

雑感

以上が話数単位で選んだ2023年の10本でした。そもそも見た作品が10本なのですが、それでもどの回にするかで選者の個性が出るのがこの企画の面白いところだと思います。虚構推理やバーディーウイングのように作品のど真ん中を端的に描いた回も、幻日のヨハネストーンオーシャンのように「他の誰でもなく私の心に響いた」と感じた回も、つまるところ私だから選んだのには変わりないのです。
 
今年視聴した10本、どれも素敵な作品でした。来年も素敵な時間になるよう「アニメとおどって」いきます。
 

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