虹を背負う弾丸――「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」25話レビュー&感想

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
終わらない「バーディーウイング」。最終回25話ではイヴが運命に抗う。結末から見えるのは彼女の異名"レインボー・バレット"の正体だ。
 
 

BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第25話(最終回)「蘇る約束」

イヴにスキャンダルが持ち上がる。マフィアとのつながりや、賭けゴルフをしていた過去をマスコミにリークされたのだ。委員会はイヴのライセンスの停止、または剥奪の可能性を示唆する。逆風が吹き荒れる中、迎えた最終日。ティーイングエリアに現れたイヴの隣には、葵の姿があった。
 

1.受け継ぐ戦い

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イヴ「触るな!……薄汚い手でそのボールに触るな。そのボールに触れていいのはあいつだけだ!」
 
葵が単独トップに立つも、最後の一打で病に倒れる波乱の展開を迎えた全英オープン3日目。主人公・イヴはライバルである葵との約束が果たせない状況に憤るが、その状況で平然とプレーを続ける世界最強のゴルファー・ユーハには更に腹を立てる。葵の打ち残したボールに触れようとする彼女に「薄汚い手でそのボールに触るな」とまで言う口ぶりはいささか過剰にも思えるが、原因はユーハがこの状況を見抜いていたが故に浮かべた笑みにある。
前回書いたように"月の女帝"ユーハは類まれな状況分析能力で未来を見通す預言者であり、その存在はイヴと葵を弄んできた"運命"の体現だ。イヴはユーハという個人以上に彼女が見通した「葵がいなくなる」運命に腹を立てたのであり、だからそこに強烈な敵意を燃やす。ユーハの予測した限界(運命)を超えてなお輝き続けた葵は遂に翼折れてしまったが、彼女の戦いはこの時イヴに引き継がれたと言えるだろう。
 

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アナウンサー「し、信じられません! 昨日途中棄権した天鷲葵がなんと、マフィアとの黒い噂がささやかれるあのイヴァンジェリン・バートンのキャディーに就いています!」
 
とはいえユーハの後塵を拝していたイヴが単独で彼女に勝つのは難しい。いや、前回の葵の戦いがそうであったようにスコアで上回るだけではユーハの体現する運命には勝てない。ではどうすればいいのか?……翌日、全英オープン最終日のイヴと葵の行動はユーハの慧眼をして驚かせるものであった。なんとイヴの隣に立っていたのは前日までキャディーを務めていたイチナではなく、途中棄権したはずの葵だったからだ。
 

亜室「全てを消化し超越した、48インチのシャイニング・ウイングスだから放てるショット! 名付けるとすれば……」
イヴ・葵「「シャイニング・レインボー・バースト――っ!」」

 

葵専用のゴルフクラブ「シャイニング・ウイングス」の中でも最大の飛距離を誇る48インチのドライバーをイヴが受け継ぎ、更にこのクラブとイヴのゴルフを知悉した葵がキャディーに就く。スポンサー契約や敵味方を超えたこのタッグはさすがにユーハも予測外で、そこから放たれる新たな必殺ショット「シャイニング・レインボー・バースト」は月の女帝の一打を軽々と追い抜いていった。だがこれは戦いの始まりに過ぎない。最初に触れたように、イヴが戦うべきは運命なのだ。
 
 

2.放つべきは

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イヴ「昨日言ったでしょ? 勝負はまだ続いてる、勝ち逃げなんて許さないって」
 
イヴが戦うべきはユーハではなく、そこに見える運命である。予測を覆しスコアで自分に追いついてきたイヴを称賛したユーハは、彼女の思わぬ回答にそれを知る。1位タイのはずのイヴはなんと、自分に2打差を付けている別人と戦っているというのだ。誰あろうそれは、3日目までから予測される葵のスコア――記録の上では途中棄権となり存在しないはずの、イヴがずっと追いかけてきた相手であった。
 

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葵「わ、わたしがトータル15アンダーでホールアウトすると想定して……」
イヴ「それを超える。そして勝つ!」

 

葵のボールに触れようとしたユーハを止めたように、イヴが最も腹を立てたのは約束を果たさずに葵がいなくなる運命に対してである。だから彼女が抗うのは何より葵の不在に対してであり、ユーハに追いつくまでの戦いも実はそこにこそ意義があった。ゴルファーではなくキャディーとしてだが葵は確かにゴルフコースにおり、またイヴの手には葵そのものとすら言える専用のゴルフクラブが握られている。そしてイヴの目線が3日目から想定されるスコアに向けられているなら、葵はけしていなくなってなどいない。途中棄権で彼方に飛び去ったかに見えた、愛しきライバルにだって手を伸ばせる……追いかけ突き放す繰り返しが遂には葵を手の届かない場所まで行かせてしまうという、前回突きつけられた難題へのイヴなりの回答がここにはあった。
 

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イヴ「久々だと思ってさ、一発勝負のぶっつけ本番……子供の頃からずっとそういうゴルフをしてきた」
 
もちろん、この最終日は3日目のありえた続きそのままではない。葵をキャディーとしてそのドライバーを振るうなど、イヴ自身昨日までは考えもしなかったろう。だが、そういう不純物を加えてなお己のゴルフとするところにこそ彼女の真骨頂はあったはずだ。父・一彦から受け継いだレインボーショットにライバルの一人レオのバレットショットを加え、アンダーグラウンドにいた過去を持ちながら表のゴルフ界に乗り込む。その全てを糧にして、イヴは自分のゴルフの純度を高めてきた。今回にしても葵のドライバーをどう振るえばいいか試合中に調整し、一発勝負のぶっつけ本番で「シャイニング・レインボー・バースト」を生み出そうとする挑戦をイヴは「これこそがわたしのゴルフ」だと語っている。挫折も障害も過ちも含めた全てがイヴのゴルフ人生なのだ。
 

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イヴ(あんた(ユーハ)は強いゴルファーよ、それは認める。でも私が本気になれるのは、勝ちたいのは……!)
 
かつて、イヴにとってゴルフは「金を稼ぐために棒っ切れで球を叩く」行為に過ぎなかった。けれど今の彼女にとって人生とゴルフは不可分であり、その奇跡は葵との出会いによって生まれた。ならイヴは自分がもう人生の懸からないゴルフに戻れないように、葵がゴルフのない人生を送ることもまた許せない。その運命を撃ち抜く弾丸を、イヴは放たなければならない。
 
 

3.虹を背負う弾丸

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イヴ(イーグルを取ればトータル16アンダー、葵を超えられる! 絶対に勝つ、わたしの虹色の弾丸で!)
 
イヴが放つべきは人生とゴルフを分かつ運命を撃ち抜く弾丸である。そんな概念的なショットがいかに困難かは言うまでもないが、しかし彼女はそういう弾丸をこれまで何度も打ってきた。時には己の殻を、時には不可能の壁を破ってきた。それを成させてきたのは何か? 言うまでもない、勝利への飽くなき執念だ。単なるスコアの勝利ではなく、まっすぐな勝利を追い求めるからこそイヴは勝利以上のものを手にしてきた。ならば今回もまた、イヴはいつも通りに愚直にクラブを振るえばいい。
 

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イヴ「約束、守って」
葵「うん……!」

 

最終ホール、葵の仮装スコアに1打差を付けられるかが懸かった最後の一打、全身全霊を込めたイヴのショットは虹を描いて旗竿に向かい――しかしカップインすることはなかった。スコアは結局、想定される葵のそれと引き分けに終わった。
全てを出し切ったイヴはゴルフコースに背中を預け、納得できないと不満を口にする。不本意な結果なのは言うまでもないが、しかし実のところこれは快挙だ。彼女はずっと葵を追いつつも追いつけてはいなかった。3話のU15女子世界選手権でも本来イヴは負けていたはずだったし、中盤のダブルス選手権でも父譲りのゴルフに目覚めた葵にイヴは心奪われていた。ほとんど負けなしのように戦い続けてきたイヴは実のところ葵に負けっぱなしだったのであり、そんな彼女が初めて葵に並び立ったのだ。これが快挙以外の何であろう。
「イヴが追いかけ葵が突き放す」繰り返しは遂に打ち破られたのであり、しかしそれにも関わらず二人の決着は着いていない。その結果こそは葵の再起に必要なものだった。葵と勝負をする約束を守れたらもう二度とゴルフができなくてもいいとすら思っていた彼女は、病を治しもう一度イヴと勝負する希望をこの同着に見出したのだ。
 

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結果だけ見れば、この25話は何の決着もついていない。葵の途中棄権に加え、マフィアの賭けゴルフに関わった過去をリークされたイヴは優勝取り消しと3年間のライセンス停止を受けたため彼女達のスコアは記録に残らなかったためだ。しかし代わりに優勝カップを手にしたユーハが嘆息するように、この記録上の勝利には何の意味もない。二人の少女がそんな目に見える勝ち負けの彼方に行ってしまったことを、試合を目撃した誰もが知っている。だが、それでも確かにイヴは葵に追いついた。ずっとずっと追い続けてきた相手に追いついたその瞬間は追いつこうとしては突き放される繰り返しの終わりであり、繰り返しの果てに葵がいなくなる運命の打破である。イヴはまさしく人生とゴルフを分かつ運命を撃ち抜く弾丸を放ったのであり、それは勝利を超えた勝利をもたらしたと言えるだろう。
 

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イヴ(んじゃま、約束を果たすとしますか。その上で撃ち抜く……わたしの虹色の弾丸で!)
 
4年の時を経て、謹慎処分の解けたイヴと、治療法が発見され完治とはいかずとも回復を見た葵は再び全英オープンで向かい合う。イヴが1打差で先行している状況から分かるように二人はもはや運命を背負ってはおらず、勝負の約束だけがある。いや、正確には彼女達は今は別のものを背負っているのだろう。二人に、そしてゴルフに魅了された多くの観客の夢や希望、そして願い……イヴの背にあったものはけして、運命の重しだけではなかった。
 

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本作の主人公、イヴの異名は"レインボー・バレット"である。数多の思いを背負い撃ち抜くが故に、その弾丸は虹色に輝いているのだ。
 
 

感想

というわけでバディゴルの最終回25話レビューでした。いや、書くことが多くて一本の線にまとめるのが大変だった……これでも「入れ! 入れ! 入れ――っ!」で入らない結果が8話のローズを超克してる点とか、48インチのドライバーは葵が背負った運命の象徴でもあってイヴがそれを分け持ったんだなとか本文に入れそびれた要素があります。気付いてすらいない部分はもっともっとたくさんあるでしょうね。
 
正直に言うと1話を見た時点では「どうかな?」という気持ちがあったのですが、今振り返ると特にラストの印象がぜんぜん違うのに気付かされます。そして1話で感じた「強敵がくれた奇跡」は最初から最後まで一貫していました。
プロゴルファー猿スクライドも詳しくないので自分としてはあまり重ね見られなかったのですが、本作はとてもピュアなラブストーリーだったのだと思います。スタッフの皆様、素晴らしい作品をありがとうございました。
 

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あと15話の忘れがたき「イーグルーっ!」な雨音とイチナの抱擁をもう一度見せてくれたことに感謝しかありません。回ってた前回と打って変わって今回見つめ合ってるの、ぴょんぴょんするイチナとの身長差もあってずっと見ていたい気持ち。

 

<追記>

ブログ記事だけだとちょっとまとめきれていないかなという部分をツイート埋め込み。一言でいうとこういう話だったと思うのです。

 

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