猶予を縫い止めよ――「魔法使いの嫁 SEASON2」12話レビュー&感想

一休みの「魔法使いの嫁 SEASON2」。12話では生徒達を守るためライザがある決断をする。全てを解決はしなくとも、その一息こそが必要な時がある。
 
 

魔法使いの嫁 SEASON2 第12話「A small leak will sink a great ship.Ⅱ」

亡霊彷徨うハロウィーンの夜。
禁書の影響で体調の芳しくないルーシーの代わりとして、チセ達は廃棄塔を訪れる。
現れたのは怪しげな風体の男、ザッケローニ
招かれるままに足を踏み入れた塔の地下、その先には——。
ひと司る魔術の世界で、魔法使いは何を見るのか。

公式サイトあらすじより)

 

1.擬似的な和解

カレッジ(学院)という新たな舞台でチセ達を描いてきた「魔法使いの嫁 SEASON2」。話数が進むと共に物語は不穏さも見せてはいたがその歩みはゆったりとしたもので、分割2クール製作が明らかになった最終回12話でも明確な敵などは見えてこない。ではこの回では代わりに何が描かれているのか?と言えば、それは「擬似的な和解」だろう。
 
ヴァハマン「このことは上に報告させてもらいますからね!」
ザッケローニ「お好きに。今は俺なんかよりよっぽど注意すべき存在がいるんじゃないか? カレッジの中にさ」

 

例えば前回、偶然と勘違いから主人公のチセ達はザッケローニなる男とカレッジの廃棄塔を訪れることになり、ザッケローニは希少なスレイ・ベガであるチセを手中に収めようとするがそこで激しい戦いが起きたりはしない。片目を交換したことでチセの中に眠るヨセフに恐れをなし、また勧誘にも失敗した彼はあっさりと矛を収めるからだ。とはいえ改心したわけではもちろんなく、本来生徒達を引率するはずだった教師ヴァハマンに詰問されても悪びれる様子は見えない。一応はヴァハマンが行う予定だった廃棄塔でのハロウィン限定魔術素材の採集を行っており、また今の上層部に自分などにかかずらっている暇など無いと踏んでいるザッケローニは何の罰を受けるわけでもなく、そこにあるのは内心はともかく表面上は穏やかな擬似的和解だ。
 
アリス「先生が護られたってどういうことなんだ……?」
 
またチセの友人アリスは自分を拾ってくれた魔術師レンフレッドにいつまでも子ども扱いされる現状に不満を抱いていたが、今回彼女はレンフレッドの態度にはその過去が影響しているらしいと知り、まずは彼に何があったのか知ろうと方向転換する。少なくともその間はレンフレッドに直接文句を言わないわけだから、これもある種の擬似的和解に数えられるだろう。
 
全話数の半分で一区切りとなるこの12話は擬似的な終わりであり、すなわち終わりとの擬似的和解としての役割を持つ。では、この疑似的和解には何の意味があるのだろう?
 
 

2.まがい物から生まれるのは

折り返し地点となるこの12話は擬似的和解の話である。それがどういった意味を持つのかはチセのルームメイト、ルーシーとその兄セスの和解に示されている。
 
蜘蛛の糸を使った魔術書作りを生業とするウェブスター家に生まれたセスとルーシーの兄妹は、複雑な事情から良好とは言えない関係にあった。魔力を扱う適性がなく跡取りたり得なかったセスが放逐された直後にルーシー以外の一族は全て何者かに皆殺しにされ(通称「ウェブスターの悲劇」)、セスが手引きした噂すらあったからだ。外で仕事を見つけたセスはルーシーを援助しようとするも断られ距離を置かれていたが、ルーシーとしては兄に捨てられたような気持ちもあった。
 
捨てられたなら兄を嫌いにならなければ、と無理を続けて涙のこらえられなくなったルーシーは、偶然遭遇したアリスに慰めとして仮装用のシーツをかけられるが、おばけのようなその格好への変身は彼女の姿を変える擬似的な魔術だ。10代の今ではなく、かつてセスが家を追い出されると知って泣いた時の幼い彼女への変身の魔術。彼女を抱きしめたセスは家を追い出されればむしろ解放されると安堵していたこと、ルーシーは家族に愛されているから大丈夫だろうと考えていた見積もりの甘さをようやく打ち明けられた。
 
ルーシー「皆を恨んだわ。でも、みんな蜘蛛の世話や自分が作るものに誇りを持ってた。蜘蛛達にだって何の罪もなかった。全員があんな風に殺されていいわけなかった。バラバラに、グチャグチャになっていいわけなかった。だからわたしはあの日の犯人を探すの!」
 
セスの本心を知ったルーシーは自分も兄が家族に冷たくされていると知りながら毎日学ぶ魔術の楽しさに目を奪われていたこと、兄がいなくなった後の皆は自分を跡取りとしか見ず恨んだ過去を打ち明けるが、これは二人の完全な和解を意味しない。殺された一族の人間はセスにとっては関心のない相手に過ぎない一方、本や蜘蛛の扱いに誇りを持つ彼らを嫌いになりきれなかったルーシーにとってあの虐殺は忘れられるものではなく、彼女が魔術を修めようとカレッジに通うのも犯人を突き止めるためだったからだ。過去と本心を打ち明けても、「ウェブスターの悲劇」に対する二人の見解の溝は埋まっていないのである。
 
セス「俺にはお前と同じ恨みを持ち続けることはできないけど……ルーシー、お前のことだけはいつも心配している。それだけは信じてくれ」
ルーシー「……もう知ってる」

 

同じ恨みを持てない一方、到底彼女を止められないのも理解したセスは自分が心配していることだけは信じてほしいと告げ、ルーシーもまた兄の真心を受け入れるが、これはつまり擬似的な和解だ。二人の見たものも環境も違った事実は覆しようがなく、その点で彼らの意見に完全な一致はありえないが落とし所は探れる。そして、探れたならそこに新しい答えを見つける余地も生まれるだろう。今はまだ空白に過ぎないとしてもだ。
 
 

3.猶予を縫い止めよ

擬似的な和解には空白を生む力がある。それを踏まえた時、1クール目の最後を飾るカレッジ学長・ライザと生徒の一人フィロメラの祖母リズベスのやりとりは象徴的だ。
 
ライザ「その退校が家の都合であるというなら、カレッジ側と家側で話し合われるべきです。彼女に通い続けたいという意思があるならば」
リズベス「意思? その子に意思など存在しませんよ」

 

諜報を専門とするサージェント家当主であるリズベスは何か良からぬ企みへの関与が示唆されており、加えて孫のフィロメラになぜか辛く当たっている。今回もフィロメラの"自主"退校を勝手に決め、それを承認させるべく使い鳥を通して話を進めようとするがライザはそれに頷かない。生徒の自主性を重んじるライザとフィロメラの意思を否定するリズベスに相容れる余地などないが、かといって刃を交えるわけにもいかない――つまりここでも必要になってくるのは擬似的な和解である。
 
ライザ「ついでにお知らせしなければなりませんね。今からカレッジは封鎖されます」

 

リズベスの意見を正面切って否定せず、しかし受け入れもしないためにライザが採った方法。それはカレッジの守護獣ケット・シーの魔法による一帯の封鎖であった。建前上は決裂したことにはなっていないわけだから、これはザッケローニの時に見られたのと同じ疑似的な和解だ。棚上げと言えば棚上げだが、こんな対応ができる人間もそうはいまい。
カレッジではここのところ生徒や教師が襲われる事件が起きており対策を講じる必要があったが、(元よりそのつもりだったのだろうが)それを口実にリズベスの介入を遮断するライザのしたたかなやり口はほとんど"魔術"めいている。カレッジで学ぶのがけして単なる知識に留まらないように、魔力を使って行うばかりが本作における魔術ではないのだろう。
 
ライザ「さて、あなたから見て彼女達の魔法に綻びは?」
エリアス「特にないよ。僕が手を加えるまでもないね」

 

かくて衝突の危機はひとまず去り、カレッジにはかりそめの平穏が取り戻される。もちろん事態が解決したわけではないし、リズベスにしてもこのような状況を望んでいたらしい言動も見られる。けれどそれでも、この空白の時間で変わるものも何かあるはずだ。自分を過剰に低く見積もり意思を主張しようとしないフィロメラに、兄と話し合えたルーシーに、そして自分を犠牲にしない方法を学ぼうとするチセにこのモラトリアムは――猶予は大いに意味がある。そもそも学生でいられる時間、モラトリアムとは空白自体にこそ意味のあるものではなかったか。
 
リズベス「まあいいでしょう。狙い通り、これで猶予ができた」
 
魔術によるまがい物を描写してきた本作がこの1クール目の終わりで見せたのは、擬似的な和解とそれが生む空白だ。猶予を縫い留めるこの一息の時間こそ、カレッジの長たるライザが見せた最大の魔術なのである。
 
 

感想

というわけでまほよめのアニメ2期12話レビューでした。ザッケローニの「廃棄塔に縫い留められた魔術師」という台詞が引っかかり、それをベースに描写を繋げていくとこんなレビューになった次第です。いやあ、ライザ役の小山茉美さんかっこよすぎやしませんか。
 

1話から感じていたことですが、学校の一面を丹念に描いた第1クールだったなと思います。漫画やアニメの題材のド定番であるが故に見えなくなりがちな部分に本作ならではのアプローチをしてくれているというか。話に絡む絡まないと別に一人ひとりの登場人物にバックボーンがちゃんと設定されていると感じられるのを含め、相変わらずとても贅沢に作られた作品なのだと思います。3ヶ月後の第2クール、非常に楽しみです。