詰替えの時――「魔法使いの嫁 SEASON2」11話レビュー&感想

望みと違う「魔法使いの嫁 SEASON2」。11話では様々なすれ違いが起きる。目にする対象が同じでも見ているものまでそうとは――詰め替えられていないとは限らない。
 
 

魔法使いの嫁 SEASON2 第11話「A small leak will sink a great ship.Ⅰ」

意識が戻らないルーシーとシメオンを心配するチセ。
その原因は禁書“カルナマゴスの遺言”による魔力不足だと知らされる。
2人の救出に手を差し伸べるエリアスに、チセも協力を申し出るが…。

公式サイトあらすじより)

 

1.匂い袋の中身のように

エリアス「君に無茶されたら困るんだよ。それにこれは、子供には何も関係ない事件だ」
 
主人公・チセのルームメイトであるルーシー、そしてカレッジの教師シメオンが禁書“カルナマゴスの遺言”によって継続的に魔力を奪われていると判明した前回。チセの師であるエリアスは二人を助けようとするが、特にシメオンを助ける理由はチセにとって驚きのものだった。自分の師リンデルやそのまた師ラハブも「知人」で済ませてきた彼が、シメオンは友人になるかもしれないなどと言うのだからチセが愕然とするのも当然だろう。これは彼女にとってとても嬉しいことだったが、しかしその喜びは直後に不満に変わってしまう。エリアスはチセに無茶をさせたくないこと、そして子供には荷が重い問題でもあることからチセには関わらせまいとしたのだ。
 
アレクサンドラ「こら、子供が首を突っ込まない! あなたも心配されてるのが分からない?」
 
エリアスだって本来関係の話だ、友達のことだから自分にも関係はある……とチセは食い下がるが、メディカルルームを担当するアレクサンドラに心配されているのが分からないのと諭されれば返す言葉がない。ルーシーが危機であることは変わらないのだが、その中身はこれまでチセが考えていたような友人の問題ではなく大人と子どもの問題になってしまった。中身だけが変わるのなら、これは袋の中身を変えるような"詰め替え"に例えられる状態だ。
 
ルーシー「わたしにも蜘蛛達がいたわ。かわいい……子達だった」
 
人は同じ対象を目にしていても、見ているものまで同じとは限らない。私達の日常でもありふれた話ではあるが、この11話で分かりやすい礼としてはルーシーと級友ゾーイのやりとりが挙げられる。
ゾーイはゴルゴーンと人間のハーフであり、イヤーマフをしていないと髪が蛇に変化してしまう特性を持つ少年だ。そんな彼は今も伏せっているルーシーの見舞いに訪れたのだが、蛇を撫でさせてほしいと言われて固まってしまう。劇中では言いかけて終わってしまっているが、彼の反応からすればゴルゴーンにとって蛇への接触は夫婦や恋人同士に限られるような特別なことなのだろう。もちろんルーシーはそんなことは知らず、彼女は蛇に自分の生家で生業として飼っていた蜘蛛を重ねて懐かしんで言っているに過ぎない。ゴルゴーンの蛇を撫でる、という行為自体は同じでも、彼らが言葉を交わす時その意味は全く別物に"詰替え"られてしまっているのである。
 
ゾーイ「はぁ……まあいっか」
 
ルーシーは自分の発言の重大さに気付かないまま再び眠りに落ち、近くのベッドで二人のやりとりを耳にしていた兄のセスは「春ですかね」と笑いながらこちらも瞳を閉じる。こうした"詰替え"なら微笑ましいものだが――世の中の詰替えは、にこやかに見ていられるものばかりとは限らない。
 
 

2.詰替えの時

詰替えはささやかなもの、微笑ましいものばかりとは限らない。チセは今回、それが時に取り返しがつかないほど重大になり得ると忠告される。
 
チセ「……持ってきたよ」
 
チセは前回の騒動で、果たすべき大きな契約を抱えていた。ルーシーとセスが彼らの一族を皆殺しにした二人組の人狼に襲われた際、人狼を時間や空間の歪んだ"裏道"に誘導してそこに棲む"猟犬"に攻撃させるも見ておられずそれを制止、通行料として大量の肉を彼らに提供しなければならなかったのだ。
幸い"裏道"の案内人・セントールのヘーゼルに羊の肉を調達してもらえたものの、チセは自分だけでは用意できない代償を抱えたことに思い悩んでいた。ともすると自己犠牲に走りがちな自分を変えるためにカレッジにやってきたのに、これでは前と変わらない。「まじめっていうかかなりバカだね」とヘーゼルに言われても、チセには返す言葉がない。
 
ヘーゼル「あのさ……あんたが守りたいのは他人のことか、それとも役に立ちたいっていう自分の欲かよ?」
 
うっかり自分を顧みず体が動いてしまうのをどうすれば変えられるのか。問答の中でチセは、ヘーゼルに一つの傲慢を指摘される。己の行動は他人のためではなく、他人の役に立ちたい自分の欲に突き動かされているだけなのではないか?……と。行動は利他的に見えるが実際は利己的な動機に"詰替え"られているのではないか、と彼は言っているのであり、チセにとってこれは耳の痛い指摘であった。
 
ライザ「うん……フィロメラ・サージェントの自主退校ねえ」
 
同じ言葉を話していても意味が違う。同じ行動をとっているつもりでも動機が変質している。コミュニケーションに限った話ではなく、私達の世界は"詰替え"に満ちている。例えば今回はチセ達のクラスメートであるフィロメラが学校に自主退校の申し出をしていることがラストで明かされるが、これを踏まえると前半の彼女とチセのやりとりも少し違って見えてくる。
 
フィロメラ「なら、いつか……」
チセ「うん、いつか」

 

今回チセは、フィロメラとまだまだ一緒にいられると思って今度一緒に匂い袋を作ってみないかと誘う。以前自分があげたものを布がクタクタになるまでフィロメラが使ってくれたのが嬉しくて、何の気なしにチセは誘ったのだろう。数日だとか数週間だとかごく近い未来のつもりでいて、だからフィロメラの「なら、いつか」という返事もそういう意味でしか受け取らない。しかし、(おそらく祖母の指示で不本意に)退校するフィロメラにとってそれはけして訪れようのない時間だ。彼女はずっとずっと先、神様が許してくれるような奇跡があればというつもりで「いつか」と答えているが、そんなことをチセが知る由もない。ここでも"詰替え"は起きている。起きてしまっている。
 
ザッケローニ「さて生徒達、心したまえよ?」
 
"詰替え"の齟齬は善意も悪意もなく生じ、人の運命を狂わせる。病身のルーシーに代わって廃棄棟の採集実習に向かったチセ達はザッケローニという男に出会うが、彼女が担当教師とばかり思っているこの男は何らかの目的でフィロメラとここを訪れたところを偶然チセ達と出くわしたに過ぎない。彼はチセ達を上手く利用してやるつもりでいるようだが、この"詰替え"もまた物語が辿るはずだった未来を大きく変えていくことだろう。
 
ターリク「護符として使えなくもないがあまり勧めないな。人間にとって、都合のいい形で守護されるとは限らないルーンだ」
 
私達は目にする対象が同じでも、見ているものまでそうとは限らない。繰り返される"詰替え"の中で、その性質は少しずつ変化していくものなのだ。
 
 

感想

まほよめアニメ2期11話レビューでした。今回はいつものようにアバンからテーマを引き出せず、本作おなじみの模造品とかまがい物に結び付けられるのは何かな……と本編を探っていったところ一番整合性がありそうなものとして"詰替え"を選びました。書いてみてヘーゼルがチセにキレ気味に呆れたのがようやく納得できた気がします。そしてフィロメラの心中が切ない。
さて、次回でSEASON2は最終回。残り30分で終わるようにはとても見えませんし、これは分割2クールなのかな。そうすると次回は魔術的まがい物の最終回ということになりますが、ならここでひとまずの結論として何が言えるのか。なかなか難しい区切りになりそうです。

 

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