彼方去る君――「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」24話レビュー&感想

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
命輝く「バーディーウイング」。24話では夢の舞台で葵が翼をはばたかせる。イヴにとって、葵のゴルフは最後に与えられた難題である。
 
 

BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第24話「約束」

――「2人で思い切りゴルフをする」。その夢を叶える時がきた。イヴと葵は「全英オープン」に挑む。しかし参加者は強豪揃い。その筆頭は昨年の全英覇者にして3年連続の賞金女王、ユーハ・ハミライル。2日目が終わった時点で首位は葵、2位・ユーハ、イヴは3位につける。最終日に2人でコースを回るためには1位、2位にならなければならない。迎えた3日目、葵は48インチのシャイニング・ウイングスを解禁し、イヴは「レインボー・バレット・バースト」を放つ。2人は約束を果たすため、トップギアで走り出す!
 

1.預言者ユーハ

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ユーハ「カレン、想定外のことはいつだって起こり得る。だからこそゴルフは面白いのよ」
 
全英オープンという檜舞台でついに対決の時を迎えたイヴと葵。だが参加者が二人だけというわけではもちろんなく、初日トップに君臨するのはユーハ・ハミライルなる女性ゴルファーだ。月の女帝の異名を持ち3年連続で賞金女王に輝く彼女は表世界最強のゴルファーといって差し支えあるまいが――彼女の立ちふさがり方はこれまでのライバル達とは少し違う。
 

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零華「ここまでされると笑うしかないわよ。すごいすごいと思ってたけど、まさかあそこまでの怪物だったなんて」
 
本作は多数のキャラクターが登場しつつもイヴと葵の物語であり、当初こそ強敵として描かれるも最終的には粉砕される結末が少なくなかった。しかしユーハの場合はそうではなく、初日こそトップだが2日目には葵に抜かれ上からプレッシャーをかけるような場面はほとんど見られない。世界最強のゴルファーもしょせん、イヴや葵の引き立て役に過ぎないのか? 否。いささかの動揺も見せない姿から伺えるように、彼女の強さは2日目のスコアだけからでは測れない。
 

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ユーハ「カレン、断言するわ。最終日、首位でスタートするのはこの私よ」
 
ユーハの異名"月の女帝"は、彼女が類稀な状況分析能力を持っていることに由来する。キャディーのカレンを始めとしたスタッフが葵のキャディーである雨音以上のデータ分析を行っている場面も描かれるがこれは触り程度の話に過ぎず、葵のスペックに驚愕する彼らと違ってユーハは一切の揺らぎを見せなかった。彼女は選手達の中で唯一人、葵の体に起きている異変に気付いていたのだ。3日目の試合中にはユーハは自分がトップに立つと確信し、最終18ホールのティーショットで葵が限界を迎えることすら断言するに至った。
 

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ユーハ(プレーを間近で見て分かった。このあなたの神がかったような奇跡のゴルフは、ロウソクが燃え尽きる瞬間のはかない輝きであることを……)
 
難病を抱え、最後にイヴと戦うために試合への参加を抑えていた葵は日本国内ではともかく世界では全くノーマークの存在だった。そんな相手の実力を1ホール目で見抜き、更にたった2日3日の試合で限界点まで看破してのける……私達視聴者は葵をずっと見てきたからすんなり受け入れてしまうが、ユーハの眼力は恐るべきものだ。葵の父・亜室が指摘するように彼女はもう2段ギアを上げてプレーできるのを敢えて抑えてはいたが、その真の恐ろしさは試合中に何が起きるか予測を通り越して予言できるところにある。発症から1年後には4日間のプレーができなくなったという父譲りの葵の難病すら例外ではなく、"月の女帝"はある種の運命を知る人間であると言っていいだろう。
 

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運命。その数奇ないたずらにイヴと葵が弄ばれ人生を狂わされてきたことを考えれば、運命を知るユーハはまさしく二人にとって最大の強敵である。スコアで上回るのではなく、その予言から抜け出さなければ葵は本当の意味でユーハに勝つことはできないのだ。
 
 

2.彼方去る君

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ユーハ「妬けちゃうわね」
カレン「なにが?」
ユーハ「互いを高め合う存在がいるということに」

 

一時のスコアで上回ろうと、葵は未だユーハの予言の範疇にいる。ユーハは葵のゴルフをイカロスの翼に例えるが、体に負担をかければ死期が近づく難病を抱えながらクラブを振るう彼女の例えとしては言い得て妙だろう。しかしその慧眼にもただ一つ、測りきれていないものがある。葵とそのライバル、イヴの関係性だ。
 

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イヴ「なに、何なの? 明日は葵と一緒に回れる、サシで勝負ができると思ったのに! 何者よこのユーハ・ハミライルってやつは!?」
イチナ「イヴさんがゴルフ業界に疎いのは知ってましたが、ユーハ・ハミライルを知らないのはおかしいッスよ!」

 

葵とイヴにとって、この全英オープンは何よりも念願の対決を叶えるためにあった。イヴに至ってはユーハの名前すら知らないほどで、2日目が終わって単独トップの葵と3位の自分の間にいるその存在はただのおじゃま虫だ。だが同時にこうした障害は常にイヴの前に立ちふさがってきたし、その度に彼女は壁を乗り越えて――いや、撃ち抜いてきた。逆説的だが、願いが叶わなかったからイヴはここまで来られたのだ。アンダーグラウンドのゴルフを抜け出しても日本へやってきてもいつも葵はイヴと勝負できないところへ行ってしまい、その度にイヴは弾丸となって彼女を追いかけてきた。
 

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葵(一緒に行こうね、パッくん。最終組でイヴが待ってる!)
 
3日目最終ホール、イヴはキャディーであるイチナを始めとした皆の力も借りて父・一彦譲りのレインボーショットを放ち、遂に単独2位に躍り出る。これはつまり、彼女という弾丸が2位のユーハの壁を撃ち抜いて葵まで届いたことを意味する。であれば、葵もまたイヴの闘志に応えなければならない。先にプロになったのが葵であったように、イヴがどれだけ邁進してもその先を行き、彼女を更に高次へ引き上げてきたのが天鷲葵なのだ。だったら再び病が発症していることなど、それが数理的な運命であることなど何ほどでもない。放たれたショットは予言を覆して大きく飛び、限界を超えても輝き続けた葵の翼は真の意味でユーハの打破に成功したのだった。
 

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イヴ「立て、立てよ! グリーンに行ってカップにボールを入れろ、ホールアウトしろ! 明日は一緒に回るんでしょ!? あんたから言い出したんじゃない。守ってよ! 約束を守れ!」
 
イヴが追いかけ、葵が突き放す。ロミオとジュリエットのように対決の叶わぬ二人の物語はしかし、その叶わぬ願いを原動力に彼女達のゴルフを高みに導いてきた。……だが、この美しい関係には一つ問題がある。「葵はどこまで突き放せばいいのか?」ということだ。
既に舞台は頂点である全英オープンにまで登り詰め、二人は世界最強のゴルファーであるユーハすら打ち破った。これ以上突き放そうというなら、葵はそれこそイヴの手の届かない場所まで行かなければならない。スコアでも予言でもない、もっともっと遥かな高み……生身の人間にはけしてたどり着けないようなところへ"飛ばなければ"ならない。だから葵はあと1打というところで倒れ、単独1位のままホールアウトすることすらなく意識を失う。もう一度、イヴの手の届かない彼方へ去ってしまう。
 

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葵(ああ、神様。どうかお願いします。わたしにイヴとゴルフをさせてください。明日まででいいんです、二度とゴルフができなくなってもいいから。守らせてください、イヴとの約束を……)
 
対決したいと約束したイヴと葵はしかし、約束の叶わぬところにこそその関係性があった。だが、それならどうすれば二人の願いは叶うというのだろう? こんな終わり方を迎えるなどイヴも葵も、そして私達視聴者も望むところではあるまい。最後の最後に追いつく、奇跡のような瞬間を目指してイヴは走り続けてきたのではなかったか。
葵のゴルフはイヴに与えられた最後の難題である。彼方へ飛び去る翼を追いかけるための弾丸こそ、イヴが最後に放たなければならない"バレット"なのだ。
 
 

感想

というわけでバディゴルの24話レビューでした。葵が夢半ばで倒れるという引きをただそのまま受け取るのに若干の引っ掛かりがあり、ユーハの役割から書くものを広げていったところこんな結論になりました。運命を打ち破ったつもりでも更に過酷な運命が襲いかかる、みたいな感がありますね。あとユーハさんは異名から三石琴乃さんだったりしてなんて考えてましたがこれは大外れでした:y=-( ゚д゚)・∵;; ターン 完全に死語の顔文字ですが十数年ぶりに使えそうな場面だったのでどうか許してください。
 
さて、ぶっ飛んだ展開と内に秘めた愚直さで視聴者を魅了してきたゴルフガールズストーリーもいよいよ次回で最終回。イヴの弾丸が私達の胸を爽やかに撃ち抜いてくれる、そんな最終回であることを期待します。

 

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