選ばれぬ翼――「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」23話レビュー&感想

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
舞台を求める「バーディーウイング」。23話では残酷な運命が葵に降りかかる。しかし、苦難にもまた翼は生まれるものだ。
 
 

BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第23話「夢を叶えるために」

イヴは「ヨーロッパ・レディス・オープン」に優勝し、プロになる条件をクリアした。だが無理をした代償は大きく、リハビリを含めて完治まで4ヶ月と診断される。一方の葵は浴室で倒れているところを雨音に発見される。病院で精密検査を受けると、脳に小さな影が見つかる。雨音は世良に葵を任せて、ひとりナフレスへと向かった。
 

1.ままならぬ運命

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葵「こんなことになるなんて参っちゃったな。ゴルフできないんだ……ゴルフが……」
 
アイシャ・カンバッタや敷島零華といった強敵を打倒し、それぞれプロへの切符を掴んだイヴと葵。葵は契約するアテナの招待枠を利用してイヴとの再戦を考えていたが、その矢先に彼女を襲ったのは数ヶ月前のダブルス選手権の時以上の頭痛だった。原因は変異型の結節性硬化症……体に負担をかければ悪化する、ゴルファーとしてあまりに致命的な病。3000万人に1人と言われるこの類まれな難病は彼女が父・亜室からこれまた類まれなゴルフセンスと共に受け継いだものであり、後者だけを選ぶようなことはできなかったのだ。
 

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雨音(どうしてなの? 葵はあんなにゴルフを愛しているのに、どうしてあの子からゴルフを取り上げるような真似をするの!? 葵が何をしたというの。許せない、こんな現実許せるものですか!)
 
選ぶ、選ばれるというのは意のままにならぬもの。本作は痛快なゴルフストーリーと共にそのままならなさも描いてきた。祖父の野望のため歪められた葵の出生、彼女のキャディーである雨音が強いられた選択の余地のない人生、そしてイヴと葵が強く望みながらもこれまで叶うことのなかった二人のゴルフ勝負……運命は因果応報とは無縁に人を選別し、残酷な結果を押し付けてくる。だが、選ばれなければ全てが終わってしまうのだろうか? そうではないはずだ。
 
 

2.選ばれぬ故に

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アイシャ(レオはアイシャじゃなく、あの子を選んだんだ……)
 
「選ぶ、選ばれる」のままならなさはイヴと葵に限って降りかかるものではない。それを教えてくれるのはイヴの妹弟子にあたり前回激戦を繰り広げた少女、アイシャ・カンバッタだ。貧困層出身の彼女は自分を拾ってくれた師レオに多大な感謝を寄せており、前回の奮闘も彼への思いに拠るところが大きかった。しかしイヴの切り札「オーバー・ザ・レインボー」に敗れたアイシャは今回、イヴに向けられるレオの視線から自分が彼に「選ばれなかった」ことを悟る。選んだ相手に選んでもらえるとは限らない現実に彼女は涙を禁じ得なかったが、その後のレオの言葉は驚くべきものだった。彼はイヴが自分の理想のゴルフを体現したと称賛しつつも、アイシャと共にいずれはイヴを打ち倒すと宣言してみせたのである。
 

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イヴ「夢叶ってよかったじゃん。心置きなく隠居しなよ」
レオ「そうはいかん。アイシャと共に、お前に打ち勝つまではな」
アイシャ「レオ……」

 

レオはかつてイヴの父・一彦から自分亡き後は代わりにイヴにゴルフを教えてほしいと頼まれて彼女を指導したが、事故に巻き込まれたイヴは記憶と共に一彦のゴルフを忘れており3年の歳月をかけても復活させることができなかった。それが理由で彼女の前から姿を消したというのだから身勝手な話ではあるが、レオとしては自分がイヴの師として「選ばれなかった」感覚もあったのかもしれない。実際レオのいない日々でイヴは記憶を取り戻したのだから、結果だけ見れば彼の選択は正解ではあったのだろう。そしてその「選ばれなかった」事実がレオにアイシャを拾わせた。つまりアイシャが感じた「選ばれなかった」はむしろ彼女とレオを同様の存在にし、二人を本当の意味で師弟にするため必要な鍵であった。
 
選ばれなかった事実は、逆に人と人を繋ぐきっかけになることもある。そう考えた時、葵がゴルフを続ける運命から選んでもらえなかった残酷さは少しだけ表情を変えて私達の目に映ってくる。今回彼女を救おうとする周辺の人物の願いは、全てがイヴと葵の再戦を叶えるための力添えに繋がっているからだ。
 

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雨音「(全英に)行くだけじゃないわ、メジャーで勝つの。イヴを蹴散らして世界一になる! あなたの夢を叶えるために!」
 
例えば、葵に比べ雨音はイヴとの再戦にそれほど積極的ではなかった。キャディーに留まらず葵の人生のパートナーとも言える立場の彼女の目標は葵にメジャー大会で優勝させることにあったからだ。しかし葵からゴルフが奪われる現実が許し難い雨音はこの状況に際し、葵最大の発奮材料であるイヴとの再戦をメジャー大会の一つ全英オープンで実現すべく奔走する。ゴルファーとしての寿命を伸ばすためのスケジュール管理、イヴとの約束の取り付け……当初はイヴの存在は葵をおかしくすると警戒していた雨音は、今となっては二人の再戦の最大の立役者だ*1
 

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亜室「なら、葵の体調管理は僕に任せてもらうよ」
世良「アテナも全面的にバックアップするわ」
葵「お父様、お母様……」

 

またかつてイヴと葵の再戦が阻まれた理由の一つには葵の母・世良の天鷲グループ(アテナ)の横槍があったが、彼女達も今は葵の夢を叶えるため全面的なバックアップを行う。亜室も同じ病を持つ人間として健康管理をサポートしたり48インチの専用ドライバーを贈るなど、今回は葵を取り巻く全てが一体となって彼女を後押ししている。葵が「選ばれなかった」むごい事実が、同時に周囲を一つにまとめているのである。
 
 

3.選ばれぬ翼

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ミハエル「重度のゴルフエルボー、上腕骨内側上顆炎か……」
アラン「それだけではありません。イヴ様は手首や腰、首や足首にもかなり酷い怪我を負っていらっしゃいます」

 

ヨーロッパと日本、アンダーグラウンドとエリートコース。1話で奇跡のような出会いを果たしたイヴと葵はしかし、本当に事あるごとに再戦の機会を奪われてきた。今回にしても、葵が日本に招待しようとした時イヴは新ショットの反動による怪我でとてもゴルフができる状態ではなかったのだ。勝負は来シーズンになってから……と構えていれば、そこでもまた何か障害が起きて再戦は叶わなかったかもしれない。だがしかし、こんなふうに再戦を阻まれてきたことは全て間違いだったのだろうか?
 

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葵「ついに来たのね、ゴルフの聖地に。セント・アンリースに……!」
 
スポーツを題材とした作品では、ライバルは後から現れた相手に株を奪われ存在感を失っていくことが少なくない。けれど本作において主人公とライバルは最初から最後までイヴと葵であり、OPで顔を見せていた強敵はあくまで障害に過ぎなかった。そんな二人が決着をつける場所が、ちょっとした国内ツアー程度であっていいものか? 否。
イヴと葵が勝負するならそれは、どちらが世界で一番か決めるような、二人が互いの全存在を懸けて臨むような究極的なシチュエーションでなければならない。幸も不幸も全てひっくるめて、世界最強のゴルファーであるユーハ・ハミライル*2も交えた全英オープンでの勝負は二人の再戦を叶えるステージとして最上のものだ。彼女達がこれまで再戦できなかったのはむしろ、それらが決着の舞台に相応しくないと「選ばれなかった」結果に過ぎないのだろう。
 

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イヴ「遂にこの時が来たわ。あんたとわたし、どちらが全英で優勝するか勝負よ!」
葵「うん!」

 

人の一生というものは運命に弄ばれ、選ぶも選ばれるも思うままにならない。しかし、選ばれなかった事実もまた人を羽ばたかせる翼になり得るのである。
 
 

感想

というわけでバディゴルの23話レビューでした。レビューはいつもアバンを鍵に書いている私ですが、今回は「選ばれない」を鍵に書くってどうしたらいいんだろう?と面食らいました。選ばれないことも良い結果を生む部分がある、みたいな感じでちまちま書いていきましたが、最終的に選ばれなかったのはこれまでの再戦の機会の方だったという結論にたどり着いて一安心。まあ、葵にこんな重い物を背負わせないでくれというのが正直な思いではありますが。イヴのゴルフでこの現実を撃ち抜けないかしらん。
 

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アイシャが「選ばれなかった」と涙を流す場面を見て画面の向こうのレオに怒鳴り込みかけたのはここだけの秘密。
 

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あと全英オープンのためのブリティッシュ・レディース・マスターズでアイシャに加え、ジャネットやエレーヌが再登場したのも嬉しかったです*3。特にエレーヌ、1話の後もずっと頑張ってプロ入りしたんでしょうね。物語に「選ばれなかった」彼女達との対決は省かれてしまったけど、きっとイヴを驚かせるような成長を見せて、その上でイヴが蹴散らしていったのだと思います。
さてさて、解禁されたブルーレイボックスの情報からすると残り話数は2話。イヴと葵の物語の決着を見届けるぞ!
 

<いいねやコメント等、反応いただけるととても嬉しいです>

*1:雨音はイヴに対するイチナ同様、葵の人生のキャディーをしていると言える

*2:異名が「月の女帝」って、もしやCVは戦闘美少女の頂点に立つあのキャラクターの……?

*3:OPで強敵っぽかったのに再戦もできないシェリス・ケイの扱いはどうにからならんのか