殻を爆破する弾丸――「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」21話レビュー&感想

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
純度を増す「バーディーウイング」。21話ではイヴの弾丸が殻を破る。その新たなショットの名には、彼女の必要としていた全てが詰まっている。
 
 

BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第21話「虹と弾丸」

「ヨーロッパ・レディス・オープン」が開幕した。会場のルミナスクラブ・ゴルフコースは難易度が高く、攻めのゴルフを得意とするイヴとの相性が悪い。イヴは初日を終えて2オーバー、トップと3打差の18位タイに沈む。優勝への最大の壁はレオの弟子、アイシャ・カンバッタ。強烈なパワーショットが得意で、その飛距離はイヴをも上回る。このままでは勝てないと悟ったイヴは、これまでのスイングを捨て、自分だけのショットを見つけようとする。
 

1.自分より純度の高い相手

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亜室「黙っていてごめんよ。全て話す、君がどれほど深く愛されているかを」
 
イヴがヨーロッパ・レディス・オープンに挑む「バーディーウイング」21話。しかし難易度の高いルミナスクラブ・ゴルフコースに苦しめられプロ入りに赤信号が灯る……というのが21話のあらすじであるが、カメラは必ずしもヨーロッパに固定されておらずライバルである天鷲葵の動向も捉えている。自分を指導してくれてきた雷凰女子学園ゴルフ部の亜室監督が直感通り本当の父親だと打ち明けられ、歓喜の涙を流す葵の様子は感動的だがいささか残酷だ。なぜなら、今回イヴが置かれる状況はこの逆だからである。
 

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レオ「一つだけ教えてやる、アイシャのショットはカノン砲だ。弾丸は砲弾に敵わない」
 
今回イヴにとって壁になるのは野性味あふれる少女アイシャ・カンバッタであるが、彼女の師はイヴにかつてゴルフを教えた男レオ・ミラフォーデンだ。突然現れて指導し突然去った彼にイヴはあまりいい思い出を持っていないが、弾丸と形容されるゴルフは間違いなくレオから受け継いだもの。すなわち、血縁を忘れて考えればイヴにとってのレオは葵にとっての亜室に等しい。しかし久しぶりに姿を見せたレオがイヴにかけたのは労いの言葉などではなく、自分に唯一土を付けたゴルファー・穂鷹一彦の娘である彼女に愛弟子アイシャをぶつける宣言であった。簡単に言えばレオは、亜室が葵を抱擁したのと逆に「お前は俺の娘じゃない」とイヴを突き放したのだ。
 

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アラン「ラフに入れようがバンカーに捕まろうが、全てパワープレイでグイグイと押していきます」
 
イヴはレオの娘ではない。これはもちろんゴルファーとしての血統の話であるが、大会でイヴはその事実を嫌というほど思い知らされる。大きな高低差に加えてバンカーと池が多数、フェアウェイも狭い今回のゴルフコースではイヴの攻めのスタイルは裏目に出やすく、初日は18位タイと振るわないスコアになってしまった。一方のアイシャと言えば正確さには欠けているが、難易度の高いコースで4度も規定打数より少なくカップインさせるそのゴルフはイヴ以上に攻撃的なものだ。アイシャをカノン砲に例えたレオは弾丸では砲弾に勝てないと語るが、これはイヴに自分の後継者としての限界を突きつけているも同然と言えるだろう。
 

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レオの血統の純度において、イヴは明確にアイシャに劣っている。ではどうすればいいのか? ヒントは彼女に先んじてプロ転向の道筋をつけたライバル、葵の現状にある。
 
 

2.殻を爆破する弾丸

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記者「スポンサー契約はやはりアテナですか?」
葵「はい。クラブにウェア、シューズはアテナと契約しました」

 

前節で触れたように、葵は今回重大な事実を知った。自分の父は本当は別の人だった……というのは、薄々気づいていたとはいえ子供にとってあまりに大きいものだ。それが祖父の野望に端を発しているとなれば、天鷲の姓を呪わしく思いすらしてもおかしくはない。しかし彼女は母・世良や祖父・剛三に恨み言一つ言わなかったし、プロ転向の契約にしてもその主な相手は天鷲グループのゴルフブランド・アテナであった。これは葵が亜室から受け継いだ「ゴルフを楽しむ」姿勢によるところが大きいが、一方で彼女の公私共通のパートナーである雨音は自分達が自由であることも世良に主張している。前回・前々回は意のままにならない人生を強いられた雨音がそれでもそこに自由を見つける話であったが、葵の中でも同様に「亜室と世良の子としての自分」と「天鷲の子として育った自分」が共存しているのである。真実を知ったとしても、今までの自分が全て嘘になってしまうわけではない。全てひっくるめて天鷲葵であることを、雨音と共に戦った日本女子オープンや亜室に打ち明けられた事実を通して彼女は理解したのだろう。
 
 

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アイシャ「ギュイイイイーーーンっ!」
 
葵の状況はイヴと全く同じではないが、しかし不思議と似通っている。共通しているのは自分の中に流れるゴルファーとしての血統が純度100%のものではなく、目の前に自分より純粋な血統の持ち主が現れて立ちふさがる点だ。一彦が父と思っていた時期の葵にとってはイヴが、今のイヴにとってはアイシャがそういう存在であった。だが、子供は遺伝子の交配で生まれるから親の100%のコピーではない。イヴ以上にレオの後継者であるアイシャにしても、助走をつけて打つその無茶なスイングは師由来のものではあるまい*1。高めるべきは親から受け継いだ純度ではなく、自分自身の純度のはずである。
 

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イヴ「新しい虹を見せてあげる……!」
 
ゴルファーとして見た時、イヴは不純物の塊である。レインボー・ショットを放つ一彦の子供でありながらそのスタイルはレオ・ミラフォーデンの影響を強く受けたものであり、かつてアンダーグラウンドにも片足を突っ込んだそのゴルフは葵が現れるまで表の世界のゴルフにはそぐわないものだった。けれどそれら全ての結果として今のイヴがあり、彼女は今世界を狙えるゴルファーとしてはばたこうとしている。不純物も含め全てがイヴ以外の何物でもないし、ならばそんな自分を100%表現するゴルフにこそ彼女が進むべき道はある。
 

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レオ(俺と一彦のショットを融合させ、更に進化させたイヴのオリジナルショット……! レインボー・バレット・バースト!)
 
大会2日目そのものすら練習として費やし、イヴが見つけた純度100%の自分。それは一彦の迷いのないスイングが持つ虹の輝きをレオの弾丸の如きショットに融合させた新たなショット、レインボー・バレット・バーストであった。"爆ぜる虹の弾丸"とは大仰な名前にも思えるが、バーストの名はけして伊達や酔狂ではない。イヴにとってこれはレオのゴルフと一彦のゴルフがバラバラだった自分の殻を破る技であり、それには弾丸で撃ち抜くだけでは足りないからだ。穴を穿つに留まらず、跡形もなく吹き飛ばすような弾丸でなければ目的は果たせない。そのためにはバーストが、爆ぜることがどうしても必要になってくる。
 

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イヴ(この虹でプロになる! 葵と戦う! 姉さん達を養う! 手に入れた、レインボー・バーストで!)
 
レインボー・バレット・バーストは、イヴにとって人生の会心の一打である。爆ぜる虹の弾丸とは、敵以上に己の殻を破るための弾丸なのだ。
 
 

感想

というわけでバディゴルの21話レビューでした。正直なところ、最初に見た時は「自分泣かせの回だな」と思いました。アイシャのゴルフがイヴの上位版であるとか、その対抗策がレオと一彦のゴルフの融合であるとか、私が普段必死で考えるようなことは明確に言われちゃってるのですから頭を抱える羽目に。いつもやっているようにアバンをヒントに「イヴも一彦はもちろんレオにも深く愛されている」ということで書けないかな……とキーボードを叩き始めたところ、新ショットの名前の理由という想像だにしなかったところにたどり着きました。
 

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レオ(そうか。ライで手こずるよりわざとバンカーに入れ、しかも球を最短でピンに近づけたのか!)
 
レビュー本文では触れる余地がなかったのですが、イチナのアドバイスがレオ以上に果敢で彼の想像を超えているのもとても良かったと思います。前回葵と雨音が示したように、キャディーも揃ってこその本作のゴルファーなので。
 

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レオ「落ち着けアイシャ、ゴルフはカップに入れるまでが勝負だ」
 
さて、ヴィペールはもう結果は出てると格好良く帰ってしまいましたが予告を見るともうちょっと勝負は続くようで。イヴが腕や足に包帯を巻いているので、体にだいぶ負荷がかかってるんでしょうかね。「今までまともにセリフがなかった」のじゃなく「ああいう喋り方しかしない」っぽいアイシャの反撃も含め、次回を楽しみに待ちたいと思います。

 

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*1:そうだと言ってくれレオ・ミラフォーデン