賭けと懸け――「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」18話レビュー&感想

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
別れの「バーディーウイング」。18話ではイヴが一つの因縁を断ち切る。副題にある彼女が決別する偽りとは、いったいなんだろう?
 
 

BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第18話「偽りとの決別」

プロになるためにイヴに出された条件は、「ヨーロッパ・レディス・オープン」で優勝すること。だがその前に、イヴはカトリーヌとの間に起きたごたごたを清算しなければならなかった。ミハエルが仲立ちをして、ゴルフ勝負に勝てば今後一切の手出しはしないという約束をとりつけた。カトリーヌが用意した対戦相手はアメリカ裏ゴルフ界トップに君臨するリメルダ。イヴは日本から呼び寄せた専属キャディー、早乙女イチナと共に、再びの命懸けの勝負に挑む!
 

1.ビジネスゴルファー、リメルダ

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ライバルである葵とのゴルフを天鷲家に禁じられ、故国ナフレスへと帰ったイヴ。もちろん大人しくしているわけはなくヨーロッパ最大のゴルフブランド「アリオス」を仕切るバートン家に自分を売り込み、マフィアでもある彼らのお膳立てで自分を付け狙うマダム・カトリーヌとの決着を付けるべく最後の闇のゴルフ勝負に挑む。イヴを殺したいほど憎むカトリーヌが対戦相手として招いたのが裏世界最強のゴルファー・リメルダであるが――彼女の特徴を挙げるなら、それは非常にビジネスライクな人間である点だろう。
 

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リメルダ「あなたに恨みはないけど、これもビジネスだから」
 
リメルダはアメリカのゴルファーであり、ヨーロッパは本来活動圏外だ。遠路はるばるその一国ナフレスまでやってきたのは100万ユーロの報酬が理由であることを彼女は最初に語っているし、相手のイヴが伝説的ゴルファーであるレオ・ミラフォーデンの弟子と知れば依頼金を倍にするよう即座にカトリーヌと交渉している。わざとバンカーに落としてピンチを装い、滑り粉を混ぜた砂をイヴのパッティングラインに撒き散らす奥の手が示すように計算高さこそはリメルダ最大の武器であり、アメリカ裏ゴルフ界トップに君臨できた理由なのである。そんな相手に勝つために必要なのはより速い頭の回転……ではない。
 
 

2.愚直なるキャディー

計算高い相手に勝つために必要なのはそれ以上の賢さではない。それを分かりやすく教えてくれるのが今回ナフレスへやってきたイヴの専属キャディー、早乙女イチナである。
 

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イヴ「早速だけど、今夜試合があるから」
イチナ「早い、早いッスよ!」

 

イチナは雷凰女子学園イヴのゴルフに惚れ込み専属キャディーになることを誓ったが、先述した事情でイヴは日本を去ってしまった。突然受けた電話でナフレスへ来てほしいと言われた彼女は今回ゴルフ部を退部し学園も休学してイヴの下へ赴くが、これがキャリア形成から見れば馬鹿げた選択なのは言うまでもないだろう。イヴからろくに状況も聞かされていないのにここまでするのはおよそ正気の沙汰とは言えまい(*1)。だがゴルフ部顧問の亜室にそこまでする程なのか問われ、即答するイチナにまるで躊躇いは見えない。
 

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亜室「そこまで魅力的かい? イヴくんのゴルフは」
イチナ「はい、人生を懸けるに値するほどに!」

 

イチナの姿勢はおよそ打算とは程遠いものだ。一言で言えば「愚直」……そう、葵がかつてイヴに下した評価(最短でカップを狙う愚直で強気なゴルフ)と今回のイチナは符合している。「~ッス」の口癖や海外では小学生にすら見間違えられる彼女はイヴとはまるで別人だが、根っこが同じだからこそその専属キャディーが務まるのだろう。
 

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イチナ「負けないッス、イヴさんと一緒にメジャーでラウンドするまで。イヴさんのゴルフの、ううん、イヴさんの人生のキャディーをするッス!」
 
まさか裏世界のゴルフに付き合う羽目になると思っていなかったイチナは一度は帰ろうとするが、イヴがこの試合に文字通りの命を賭けていること、そして勝てばプロに挑戦できると聞いてリメルダとの勝負でもキャディーを務めることを承諾する。裏世界でも最強のゴルファーに勝つためにイヴが採った手段とはすなわち、計算高さで上回るのではなく自分の愚直さを倍増させることであった。
 
 

3.賭けと懸け

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イチナ「試し打ちできるならともかく、この状況でラインは読めないッス……」
 
計算高い強敵を相手に愚直さで挑むというのは、一見誤った選択に思える。賢さで上回らなければ翻弄されるだけだと多くの人は考えるだろう。だが、計算高い人というのは相手のそういう小賢しさを計算に入れるものだ。私達は自分の頭で論理的に考えたつもりで詐欺師の掌の上を転がされ、まんまと利用されてしまう。リメルダの場合で言えばパッティングライン上に撒き散らされた砂を払いのければかえって滑り粉が広がる二重の罠を仕込んでおり、イヴは当初まんまとそれに引っかかるところであった。初弾にしてもリメルダのわざとらしいバンカーの真意を測りかねてショットをミスしており、おそらく一人では敗北していたことだろう。
 

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イチナ「直接打ち込むしかないッスね。ラインなんか関係なく、直接入れれば無問題ッス!」
イヴ「要求高過ぎよ、わたしのキャディーは」
イチナ「プロならやるッスよ。いいえ、天鷲葵ならそれでも決めるッス。できないんスか?」
イヴ「生意気。後で覚えておいて!」

 

イヴが葵に評されたような己のゴルフを貫くためには、小賢しくあってはいけない。彼女のゴルフの、いや人生のキャディーに必要なのは自分をより愚かにしてくれる人間だ。愚直でいられるよう正してくれる人間だ。故にイチナはリメルダの罠の全てを読み切った上で、それを無視することを提案する。「ショットで浮かせて直接カップに入れれば無問題」……これがいかに無茶かは素人の視聴者にも明白であろう。あまりに馬鹿げていて、あまりに愚直で――だからイヴのゴルフに相応しい。軽口を叩きながらもやる気満々、そして実際に決めてしまう彼女は実に楽しそうだ。
 

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リメルダ「まだ勝負はついてないわよ」
イヴ「もうついてる。あんたのゴルフじゃわたしに勝てない。本気で戦わない相手にわたしは負けたりしない!」

 

リメルダにとってこの勝負はあくまでビジネスに過ぎない。奥の手をさらすには相応の報酬を求めるし、罠を仕掛けるためにわざと力をセーブしたりもする。だが彼女がかつてレオ・ミラフォーデンに偽物呼ばわりされた過去を持っていたように、それは本作における「本物のゴルフ」ではない。
「本物のゴルフ」とはビジネスや打算ではなく、ゴルファーの持てる全てをぶつけるところにある。拳銃で殺されるかどうかの命がけなんかではなく、文字通り己の全存在を懸けたゴルフ。イヴの父である一彦はかつて「迷いのないスイングにはその軌道に虹がかかる」と語ったが、迷いない本物のゴルフにはゴルファーの全てが虹のように宿るのである。
 

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イヴ「跳ねろーーーっ!」
 
物語開始当初のイヴの「まっすぐにしか打てない」という設定は、裏ゴルフ界を抜け出すためのローズ・アレオン戦で葵から学んだスライスショットを放って以降は語られることがなくなった。だがこれは彼女がまっすぐでなくなったことを意味しない。いつだってイヴは目指すところへまっすぐ、自分の命の危険も顧みず弾丸のように突っ走ってきた。今回彼女は水切りの要領でゴルフボールに池を跳ねて越えさせる「水流のインディゴバレット」なる技を披露しているが、一歩間違えば池に落ちるこのハイリスクな技はイヴが今もまっすぐなゴルフを続けている何よりの証拠であろう。
 

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イヴ「わたしにさせろ! 本物のゴルフをさせろ!」
 
計算を捨てて実力で挑んできたリメルダをレインボー・ショットで下したイヴは、マダム・カトリーヌ(正確には彼女の前のガラス)に向かってショットを放ち自分に本物のゴルフをさせろと吠える。そこにあるのは、最強の相手すら金と欲に塗れたこの裏ゴルフ界ではできない本物のゴルフへの渇望だ。レインボー・バレットのイヴは今回、裏ゴルフ界をゴルフで殺したと言える。
イヴは今回の勝負で裏の、"賭け"でしかない偽りのゴルフから抜け出した。虹色の弾丸は今、人生を宿す本物の"懸け"のゴルフへ放たれようとしているのだ。
 
 

感想

というわけでバディゴルの18話レビューでした。今回はイチナがイヴに対してはもちろん、レビューでもキャディーの役割を果たしてくれたように感じました。彼女の初登場回である9話を振り返ってもその役割に納得。
 
 
 
キャラ紹介を見るとリメルダには表舞台から去った理由があるそうですが、まだ役割が残ってるんでしょうか。なんというか「修羅の門」のマイケル・アーロン(良くも悪くもプロフェッショナルなので「強いけど怖くない」相手)を思い出す立ち位置だったなと思います。あー、第三部を振り返るととアナクレト・ムガビに死んでほしくなかった思い出が……すいません完全に脱線しました。まあなんというか、イヴにはリメルダよりローズの方がずっと手強かったのでしょうね。
次回は葵が主役の回になるように見えますが、彼女が展開というよりドラマを牽引するとどんな話になるのか。楽しみです。

 

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*1:親御さんもよく許可したな