翼は一対――「BIRDIE WING -Golf Girls' Story-」19話レビュー&感想

©BNP/BIRDIE WING Golf Club
雨が上がる「バーディーウイング」。19話ではカメラは再び日本に戻る。舞台は葵のプロ転向のかかった日本女子オープン……だが、今回の主役は彼女ではない。
 
 

BIRDIE WING -Golf Girls' Story- 第19話「輝ける翼」

葵のプロ転向がかかっている「日本女子オープン」が控える中、雨音はそのライバル選手である賞金女王・敷島零華プロと会っていた。雨音は零華に、頼まれていた葵のデータを渡し、あることを告げる。一方葵は、亜室が基礎設計した専用ゴルフクラブ「シャイニング・ウイングス」を手に入れる。葵のショットの調子を見ていた亜室は、その最中に意識を失い倒れてしまう。亜室を心配し、動揺する葵。亜室は実の父かもしれない…。その謎が胸の中でわだかまったまま、葵は大会当日を迎えることになる。
 

1.本日の主役

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裏世界最強のゴルファーであるリメルダを前回一蹴し、その実力がプロどころか世界を狙えるものと証明してみせた主人公・イヴ。彼女とどちらが先にプロになるかを競う天鷲葵の状況が描かれるのがこの19話であるが、彼女を主軸に見ると今回の話は少し戸惑うかもしれない。葵は自分の父が天鷲一彦ではなく自分を指導してくれた雷凰女子学園ゴルフ部監督の亜室麗矢ではないかと思い悩んでおり、物語を牽引するというよりはその前段階、自我の発達とでも呼ぶべき状況に留まっているからだ。ではこの19話は誰の視点に沿って見ればよいのかと言えば、ヒントはある意味当然ながら序盤で示されている。
 

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この19話はイヴのプロ入りを支援するバートン家のやりとりから始まるが、当主のミハエルが受けるのは最高の練習環境の提供をイヴに断られたという執事のアランからの報告だ。かつて苦楽を共にしたクラインやリリィの家で技を磨く彼女の選択を、ミハエルは「道は自分で切り開くか」と笑って了承する。
 

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雨音「なったんじゃなくてならされたの、学費と生活費を出してもらう代わりに」
 
続くOP開けで描かれるのは葵と日本女子オープンで競うことになる賞金女王・敷島零華と葵の専属キャディーを務める新庄雨音のやりとりであるが、そこではなんと二人が親戚関係にあること(雨音が零華の姪)が明かされる。雨音が葵の付き人のようなことをしているのは、有名キャディーだった父に死なれた彼女の才を見込んだ世良に学費と生活費の代わりとして半ば強制的に契約させられたためであった。
 

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雨音「零華姉さん。言っておくけど、わたしは姉さんを助けるためにこのデータを渡したわけじゃない」

 

当時と違い賞金女王となって経済的余裕のできた零華は契約満了後に自分のところへ来てはと雨音を誘うも断られるのだが、こうして並べてみると今回のイヴと雨音の状況は少し似ていることが分かる。零華は雨音が専属キャディーを務めてくれるなら賞金の30%を報酬にすると言うが、簡単に調べた範囲ではキャディーは優勝した場合に基本給+賞金の10%を得るのが一般的だそうだからこれは破格の条件と言っていいだろう。すなわちキャディーとして"最高の環境"であり、それを断るのはイヴがバートン家の練習環境支援を断るのと意義を同じくする。実際、雨音はこの面会で葵のデータを麗華に渡していたがそれは彼女を助けるためではなく葵の実力を知らしめて宣戦布告とするためであった。
 
 

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零華「なんだ、いやいややってるわけじゃないんだ」

 

アバンはその回の重要な要素が宿るパートであり、そして19話では作品の主役であるイヴは存在感はあっても出番は少ない。ならばそれを代行するのは、イヴと行動がもっとも近い者だ。そう、今回は葵ではなく新庄雨音を主役とした回なのである。
 
 

2.翼は一対

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葵(監督……!)
 
19話の主役の座は葵ではなく雨音にある。ただ、これはどちらかと言えば「影の」と付けた方が正確だろう。キャディーは自分でゴルフクラブを振るうわけではないから、どれほど有能でもあくまで裏方に過ぎない。特に今回の雨音は、思い悩む葵を直接的に立ち直らせることはできていない。父かもしれない人が難病に冒されていると知り日本女子オープン初日でミスを連発してしまった彼女に力を取り戻させたのは、翌日病身を押して車いすで会場に駆けつけた亜室その人である。とはいえ彼女が何もできていないかと言えばそれも誤りだ。
 

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雨音「来ないでください! 葵をこれ以上苦しめないで!」

 

雨音は亜室と葵の関係については知らされていなかったが状況からそれを察し、母世良に葵の心中を伝えた上で彼女にこれ以上娘を苦しめないでと試合の場へやってこないよう制止した。もし世良が来ていれば、葵は自分の父についての疑問を隠せずもはや試合どころではなくなっていただろう。
 

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雨音(鎖をつけて葵をここに留まらせてしまった。CEOのことを怒れないわね)

 

また雨音は落ち込む葵に対し、試合直前にもたらされた専用ゴルフクラブが亜室の基礎設計によるものであること、そこに彼の愛が詰まっていることを伝え試合の放棄は避けさせた。世良のように葵を縛り付けてしまったと彼女は自分の行為に涙するが、もし葵が諦めていれば翌日亜室の応援を受けて立ち直ることもできなかったはずだ。
 

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雨音(それでもわたしは信じたいの。「シャイニング・ウイングス」……あなたが輝きを取り戻し、大空にはばたくことを!)
 
雨音が天鷲グループと結んだ契約はただキャディーを務めることではなく、「天鷲葵がプロになるまでのプレーとプライベートのケア」。ゴルフコース上に留まらないこの役割を、今回の雨音は必死に果たしている。そして「いやいややってるわけじゃないんだ」と劇中で零華が指摘しているように、それは単なる職務意識ではない。
 

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雨音(これが……これが見たかったの!)
 
雨音にとって、人生とは自由から程遠いものだった。天鷲グループと契約させられた小学生の時に運命を決められ付き人のようなことをさせられてきたこれまでは、彼女が独白するように確かに恨み憎しみ、呪うに値するものだろう。けれど今の彼女にはそれでも夢がある。ゴルフを愛しゴルフに愛される天鷲葵という少女と一緒に、大空にはばたきたい……そう思えるこの瞬間、彼女の人生はもはや不自由ではない。雨音は葵と共に踏み出すことで自分の、いや自分達の道を切り開いていくことができる。
 

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この日本女子オープンで葵が新たに得た専用ゴルフクラブの名は「シャイニング・ウイングス」。複数形なのはもちろん、それが1本のクラブではないからだろう。だがそもそも、翼は1枚では飛べないものではなかったか。2枚なければ、どれほど美しい翼も風を掴むことなどできはしない。
 

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葵・雨音「さあ、飛ぼう! もっと輝ける場所へ!」
 
天に向かって突っ走るようなイヴもイチナという専属キャディーを必要としているように、人がはばたくためには相棒が要る。ゴルフ界の新たな主役になろうとしている「天鷲葵」にとって、葵と雨音のコンビこそは一対の輝ける翼なのである。
 
 

感想

というわけでバディゴルの19話レビューでした。リメルダの出番はやっぱり無いか。今回は「どういう話なんだ???」と首を傾げていたのですが、雨音をカメラの中心に据えて見ればいいんだと分かってからだんだん考えがまとまっていきました。書いていく内に、なんとなく浮かんでいた「翼は一対」というレビュータイトルに内容も収束。
 
キャラは立ってるけどドラマはそれほど背負ってない感じだった眼鏡の似合うハイスクールプリティガール・新庄雨音に事実上の主役回が来たのは嬉しい誤算でした。イチナの行動がみな雨音と関連づけして考えられるのがまたいい。
 

門脇更紗のED「君がいるから」はイヴを葵とイメージさせるところの多い曲ですが、今回は葵と雨音について歌っているようにも感じられた回だったと思います。さて次回、零華との勝負はどうなるのか。予告を見るとイヴの挑むヨーロッパレディースオープンはアイシャとの勝負になりそうで、そこで繰り広げられるであろう因縁も楽しみです。

 

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