伴侶の形――「魔法使いの嫁 SEASON2」6話レビュー&感想

模索の「魔法使いの嫁 SEASON2」。6話ではアリスとレンフレッドの関係がクローズアップされる。2人の関係は、2人だけの関係ではない。
 
 

魔法使いの嫁 SEASON2 第6話「Better bend than break.」

師からの思いがけない言葉に不満を燻らせ、エインズワース邸を訪ねたアリス。
その胸中を知り、チセもまた自分の境遇を思い返していた。
「師弟」「伴侶」「親子」交わりの中で得た在り方。
望むものと望まれるものの狭間で、少女達は揺れ動く。

公式サイトあらすじより)

 

1.今日の同級生

レンフレッド「あれは俺の娘だ!」
 
今回はアリスという少女がチセの家を訪ねる話だ。彼女はチセがカレッジ(学院)へ通う前からの知り合いだが、突然チセの家にやってきたのには理由があった。彼女の師であるレンフレッドとチセの師エリアスの話を立ち聞きしてしまった際、レンフレッドにとって自分は娘(も同然の存在)だと言われたことに混乱してしまったのだ。今回のアリスは、レンフレッドを護衛する護り手でありたい自認と娘扱いのギャップの大きさに苦しんでいる。
 
アリス「お前はどうなんだよ」
チセ「わたし?」

 

師が魔術師か魔法使いかという違いはあれど、現在のアリスにとってチセは最良の相談相手だ。同年代の少女であり、共に師に人生を救われた人間であり、そして師との関係が単に師弟で片付かない者同士の彼女達は、互いが互いの模造品であるかのようによく似ている。私は本作の魔術が魔法の人工的模造品であることになぞらえ、学生にとって同級生は自分の魔術的な模造品であると1話で書いたが、学年こそ違えどアリスとチセは同級生同様の間柄だと言えるだろう。そして、彼女達や彼女と師達の関係を考える上で重要な示唆を行っている人物がいる。神父のサイモンだ。
 
 

2.同じ言葉同じ羅列を辿りながらも

サイモンはエリアスと同じ村に住む神父であり、彼の監視役を務める一方で交流を持つ人物でもある。彼は鉄道に乗って村の最寄り駅にやってきたアリスをチセの頼みで迎えに行き、友人ができて良かったと言われて否定する二人にこんな言葉を伝えている。
 
サイモン「知っているかい? 一つの事実をたくさんの言葉で表現することもできるし、たくさんの事実を一つの言葉でまとめてしまうこともできるんだ」
 
聖書を読んだ人間の解釈が皆同じではないように、同じ言葉同じ羅列を辿りながらも人それぞれ解釈は異なる。3時間かけて訪ねてきたアリスを迎えようと、他人に頼るのが苦手なチセが自分を頼ってくれた。だから私は二人が仲の良い友人だと解釈したんだ……とサイモンは言い、そう言われるとチセとアリスは自分達が友人であることを否定できない。
 
アリス「(娘と言われて)嫌じゃなかったさ。だってずっと一緒にあの家でやってきた、家族ってやつみてえに。でもすげえ苦しかった」
 
サイモンが言うように言葉とは不思議なもので、同じ文字の羅列でも人によってイメージするもの(解釈)は異なる。チセとアリスがサイモンの解釈を当初否定したのは友達という言葉に異なる解釈を抱いていたためだし、アリスにとって父とは実の父のような薬物中毒のろくでなしであって尊敬するレンフレッドとはイメージが一致しない。解釈違いという言葉も近年はよく言われるが、アリスとレンフレッドはそういった状態にあると言えるかもしれない。ただ、チセはサイモンの言葉から続けてこんなことを語ってもいる。
 
チセ「でもどう呼んだって、本当の中身は変わらないんだよ。考え方が違うってだけで、やっぱり中身は一緒なんだ」
 
解釈は解釈であって、それによって対象が変わってしまうわけではないとチセは言う。彼女はここから、自分とエリアスの先生や夫婦といった役割=解釈も厳密に囚われる必要はなく、一緒にいるのが嬉しい気持ちが大切なのだという結論にたどり着くわけだが――では、レンフレッドとアリスの場合はどうだろうか?
 
 

3.伴侶の形

アリス「守られるだけはたくさんなんだ。頼むからその腕の分くらいはあたしにもあんたを守らせてくれよ……もっと頑張るからさ」
 
レンフレッドとアリスは一般には師弟と呼ばれる関係である。またアリスはレンフレッドの護り手になりたいと考えているが、現実にはそれは叶っていない。アリスは魔力量こそ大きいものの才能はさほどなく、過去に襲撃に遭った際も護るどころか逆に庇われレンフレッドが左腕を失う有様だった。チセの家に泊った翌日アリスは「守られるだけはたくさんなんだ」と訴えているが、娘として庇護されるばかりでありたくないというのはまさしく本音であろう。だが、庇護されるばかりというのはそれも解釈に過ぎないのではないか。
 
アリスに「あんたのこと、父親なんて思ってないんだからな」と言われた時のレンフレッドの表情はいつになく悲しげだ。加えてその後の言動からは、彼は自分が拾ったばかりにアリスの運命を歪めてしまったと罪悪感を抱いていることも伺える。傷の付いた強面と愛想の無さから誤解されがちだが、心に脆い部分を抱えているのがミハイル・レンフレッドという男の実際なのだろう。そんな彼にとってアリスがいかに救いであるかは、自分の血筋を残すための相手とエリアスに解釈された時の怒りからもよく分かる。アリスは自分は守られるばかりの存在だと思っているが、実際はレンフレッドの身体よりも心の護り手であり絶対に手放せない存在なのである。そう、片腕を失うのも厭わないほどに。それは夫婦とは呼ばなくとも人生に必要な相手以外の何者でもあるまい。
 
冒頭のエリアスとレンフレッドのやりとりは、誰かを伴侶にしたいと考えたことがあるかとエリアスが問うたのがきっかけだった。これはもちろん婚姻相手の意味だが、伴侶とはもともとは行動や考えをともにする人を広く指す言葉でもある。であるなら、夫婦の役を続けたいと抱擁を交わすチセとエリアスと、思いの丈を叫んでも子供扱いされて「分からずや!」と罵倒に終わるアリスとレンフレッドに実際はさほど差異はないのだろう。互いが互いに欠かせぬパートナーである点が同じなら、それだけで既に「本当の中身」は見えている。
模造品のように似ながらも重ならない二組の男女は、しかしその中身においてやはり同一である。チセとエリアス、アリスとレンフレッドの違いに見えるものは、伴侶の解釈の違いに過ぎないのだ。
 
 

感想

というわけでまほよめのアニメ2期6話レビューでした。休みの間は良い良い、終わると忙しいゴールデンウィーク。今回は記事名は割とすぐ浮かびましたが、それをいつもの模倣や模造品といった部分とどう絡めてレビューが書けるかに少し悩みました。レンフレッドが重い。あとスープを褒められて嬉しそうな銀の君がかわいかったです。
 
さて、次回はフィロメラの出番が多そうで学院の秘密に更に迫っていく内容になるんでしょうか。何が隠されているのかドキドキです。

 

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