偽りの変身――「魔法使いの嫁 SEASON2」7話レビュー&感想

遠きを尋ねる「魔法使いの嫁 SEASON2」。7話では少なくない人間が意外な姿を見せる。姿を変えるばかりが変身とは限らない。
 
 

魔法使いの嫁 SEASON2 第7話「Slow and sure.Ⅰ」

期せずして知ったゾーイの秘密。
その共有をきっかけに、生徒達は少しずつ打ち解け始めていた。
しかしチセは未だ識らない。
居合わせていた少女にもまた、縛られた運命があることに。
一羽の夜鷹が、囚われた心を呼び戻す。

公式サイトあらすじより)

 

1.別人と変身と

リアン「フィロメラは教えるのが上手いな。それに、俺より早く木に登れる」
 
カレッジ(学院)を舞台に多くの人物が登場している本作だが、今回は回想から始まる。生徒の一人であるリアンが思い出すのは、又従兄弟のフィロメラと木登りをした時のことだ。幼いフィロメラは木登りが得意で教えるのも上手く、それを褒めるとはにかんだような笑顔を浮かべる。月日が経ち、隈のある目でいつも暗く沈んだ表情の彼女とは別人のよう……もちろん本当に別人になったわけではないから、これは変身と言った方が適切かもしれない。
 
ルーシー「なんでそんなにあんたは……大丈夫よ、なんともない」
 
「変身」というと特撮のヒーロー等のようなイメージがあるけれど、あそこまで行かなくとも変身は案外身近にあるものだ。例えば同じく生徒の一人であるルーシーがそうで、彼女は主人公にしてルームメイトのチセに当初つっけんどんな態度を取っていたが5話での同級生ゾーイの秘密を巡るやりとり等を経てその接し方にも変化が現れている。人を寄せ付けないように振る舞ってもチセには通じないと知った彼女は少しだけ意地を張るのをやめていて、それだけでルーシーは最初にチセと会った時から変身したに等しい。
 
エリアス「見えてた?」
アドルフ「魔力はあんまり無いんですけどね、視力はそこそこ」

 

また今回はカレッジの事務員であるアドルフが魔法使いの類であったことが明かされるが、長命を誇る魔法使いは年月を経てもあまり容姿が変わらないため見た目からは年齢が判断できない。少なくとも第二次世界大戦より前から生きていると聞かされれば、青年のような顔つきの彼に抱いていたイメージを誰もが覆されたことだろう。ここにもある種の変身がある。
 
チセの"伴侶"であるエリアスのように魔法で姿を変えずとも、世の中には変身が存在する。では、この変身に必要なものはなんだろう?
 
 

2.偽りの変身

リズベス「まだ顔を上げていいとは言ってませんよ。卑しい子……あなたの至らなさで私をあまり怒らせないで」
 
先に挙げたような変身は、少なくとも直接的には魔法によるものではない。では何が変身を起こさせているかと言えば、ヒントの一つになるのは最初に触れたフィロメラの立場だ。彼女は今回呼び出しを受けて家へと戻るが、そこには回想で見られたような暖かな雰囲気はない。血縁上は祖母にあたるはずのリズベスからは常に侮蔑と嫌悪を向けられており、二人の関係は祖母と孫から主従に変身してしまったかのよう……フィロメラの親類の少年達は、彼女にこんな陰口を叩いている。
 
少年A「『おばあさま』だって? あいつが孫としてなんて扱われてるわけないだろ」
少年B「後継を奪った女の子供なんて」

 

この帰省ではフィロメラの両親は登場しておらず、詳細は不明だが母親がリズベスの不興を買ったことが示唆されている。すなわちリズベスにとってのフィロメラを変身させたものとは、母親という他者の存在であった。
 
アドルフ「いやー、あんたって結構めんどくさい人だったんですね。先輩」
 
人は物理的には他者から独立した存在であるが、その全てが他者から影響を受けないわけではない。祖母から疎まれるフィロメラがカレッジに通えているのは主家であるリッケンバッカー家の令嬢ヴェロニカの要望によるものだし、またチセの友人アリスの師匠であるレンフレッドは今回、カレッジに通っていた頃からの知り合いであるアドルフの前では酔態を見せたりしている。他者の存在がフィロメラをリズベスの下僕である以上にヴェロニカの学友に、レンフレッドをアリスの保護者である以上にアドルフの旧友に変えて――そう、"変身"させているのだ。
 
ヴェロニカ「あの子と仲良くなったのね」
 
前回6話ではこの世には親子や友達といったたくさんの関係や役があることが語られた。私達にとってもっとも身近な変身とは、すなわちこうした関係や役の切り替わりであろう。そこでは大人の方が分からずやに、普通の学生のような授業が魔術師の卵にこそ大切な修練にすら変わる。そしてこの切り替わりに効果的なトリガーとしえば、これまでと異なる他者の存在だ。例えばヴェロニカはフィロメラにもっと明るい顔をしてほしいと願っているようだが、主家筋の彼女が言うとそれはどうしても命令のように受け取られてしまう。だがチセのように家系のしがらみを持たない新しい他者が相手であれば、そこにはフィロメラ自身すら気付かない内に新たな役割が生まれていく。
 
チセ(……楽しみにしてみよう)
 
関係や役は社会的なものであり、それらを切り替えても肉体が変わってしまうわけではない。いわば偽りの変身だ。しかし本作の世界では魔術の実験で肉体が物理的に変身してしまった者もいるが、彼らの心まで全く別のものに変わってしまったわけでもない。魔術師でない私達だって、体が成年になれば途端に子供から大人に変身するわけではないのだ。良くも、悪くも。
変身などというものが本当にあるなら、それはきっと精神や肉体の変化そのものを指すのではない。偽りの変身を繰り返す中で、魂の奥深くで起きるものなのである。
 
 

感想

というわけでまほよめのアニメ2期7話でした。今回もとっかかりを見つけるのに四苦八苦、回想の時だとリアンにとってフィロメラは木登りをしても大丈夫な"大人"に変身していたのでは?というようなところからこんなレビューにまとまりました。ヴェロニカの人柄はこれまであまりよく分からないところだったので、ようやくスポットが当たってきてドキドキしております。さて、ブッシュクラフトではどんな出来事がチセを待ち構えているのかな。物理的に色々動きのある回になりそう。

 

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