覚めない夢――「魔法使いの嫁 SEASON2」17話レビュー&感想

©2022 ヤマザキコレ/マッグガーデン魔法使いの嫁製作委員会

悪夢の続く「魔法使いの嫁 SEASON2」。17話では静かに息苦しくなっていくカレッジが描かれる。私達は、目が覚めたからといって夢を見ていないとは限らない。

 

 

魔法使いの嫁 SEASON2 第17話「Gather ye rosebuds while ye may.」

mahoyome.jp

 

1.じわじわ奪われているのは誰?

アレクサンドラの要請を受け、続出する体調不良者への魔力供給を行うチセ。そんな中、新たに担ぎ込まれた生徒が奇妙な行動をとり……?

 

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ゾーイ「チセ、なに作ってるの?」
チセ「うーん……まだ秘密」

 

不思議な夢から始まる「魔法使いの嫁 SEASON2」。肝試し回の前回から一転、今回は「これが起きた」とくくるのが難しい回だ。魔力を盗まれ弱っていた者達は突然回復するがチセ達が何か頑張ったからではないし、特別に行事や授業があるわけでもない……状況としては穏やかと言っていいだろう。とはいえ、何の変化も起きていないかと言えばそれも正しくはない。

 

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ケヴィン「うぁー、1ヶ月半……」
ソフィア「何が?」
ケヴィン「カレッジが封鎖されてから。いい加減外に出させてくれよお!」

 

この17話では生徒の一人ケヴィンの台詞を通して、カレッジが封鎖されて既に1ヶ月半が経過したことが語られている。外での娯楽や息抜きが長期間できない苦しさから彼は犯人探しをしてみないかなどと提案し、更には禁書による魔力の抜き取りを甘く見たり、口論となったルーシーの一族が殺された過去を揶揄するなど軽率な発言を重ねてしまうが――これが1ヶ月半前であればそんなことを言う余裕はなかっただろう。簡単に言えば、ケヴィンはこの封鎖生活に慣れてしまった。彼の甘い見通しは危険を危険と感じなくなったために生じたのであり、それは判断力という名の魔力をじわじわ奪われていったに等しい症状・・だ。

 

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生徒「でも犯人って、まだカレッジの中にいるんだよねえ!」
生徒「もしかしてあいつか? ほら、昨晩担ぎ込まれた……」

 

激変とは無縁だったはずのケヴィンの例から分かるように、不変というのは実際のところ変化の反対ではなくその一形態に過ぎない。禁書盗難の事実を知らされた生徒達の噂話までもが不安よりもゴシップ的な関心に彩られている点からも言えるが、カレッジは小康状態を保っているようでむしろ全体が禁書の「魔術」の影響下に置かれつつあると言える。

 

2.覚めない夢

禁書の直接的な被害を受けていないはずの人間が、実際はじわじわと心理的影響を受けている。まるであべこべだが、こうした逆転はこの封鎖状態に限った話ではない。

 

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ライザ「すると、禁書の方が術者を操っていると?」
エリアス「それか、術者が管理しきれなくなったとか……なんにせよ術者に影響が出ているかもね」

 

例えば今回チセは救護室で魔力を抜かれた生徒に襲われたが、彼女の師エリアスはこれが術者ではなく禁書自身が焦れた結果だと推測する。術者が禁書に操られているのか、あるいは禁書を管理しきれなくなっているのか? 正解がどちらであれ、推測から導かれるのは術者と禁書の主従関係の逆転だ。また禁書がチセから魔力を奪った直後、魔力を抜かれた生徒達の体調が回復したことについてもエリアスは魔力の充足あるいは吸った魔力を扱いきれず回線が破裂した可能性を指摘するが、後者であれば目的であるはずの魔力吸収がかえって害をなしたわけだからこれも逆転であろう。

 

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ルーシー「吐きなさい」
チセ「うん……」

 

逆転はしばしば、主客や自他の境の曖昧さと繋がっている。上述のケヴィンがルーシーを揶揄した際も、怒ったのは当のルーシーよりも他人であるチセの方が先であった。彼女はかつて偶然ルーシーの記憶を覗き見てしまった経験からそんな反応をしたわけだが、同時にその事実をルーシーが知らないのを失念しておりその後ルーシーに詰問される羽目に陥っている。チセの逆転した行動は自分とルーシー、そして自分とルーシーが知っていることの違いが曖昧になった結果だ。

 

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フィロメラ「ヴェロニカ、様……」
ヴェロニカ「ん?」
フィロメラ「なんでも、ありません……」

 

また魔力欠乏とは異なる理由で何か体調を崩している生徒、フィロメラは己の主にして同級生のヴェロニカから見舞いを受けるが、いつも笑みを絶やさない彼女の表情は安心よりもむしろ底意を覗かせない不気味さを伴ったものだ。結果フィロメラはこの見舞いで励まされるどころか、かえって何もかもが分からない恐ろしさに囚われてしまった。

 

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人の心は、いや世の中というのは、等しい事柄にいつでも・誰でも・何もかもが同じ反応を返すほど単純にできていない。危険や誤認がかえって良い結果を生む時も、安全や事実がかえって目を曇らせることもある。それはスレイ・ベガであるチセの体質が時と場合によって「せいで」にも「おかげで」にもなるのと同じことだろう。どちらでもあり得る現実は、実際のところ夢の中のようにあやふやだ。

 

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フィロメラ(怖い……怖い。分からない、何もかもが恐ろしい……!)

 

私達は眠りから目を覚ました時、自分は夢から覚めたものとばかり思いこんでいる。けれど本当は、いつだって私達は善悪も正否も定かならぬ夢の中をさまよい続けているに過ぎないのだ。

 

感想

というわけで、まほよめアニメ2期17話レビューでした。今回は書く速度そのものはともかく、前回みたいに分かりやすいつまづきで止まることはなくレビューが書けました。3連休はきちんと寝たい。なんだか流行り病を思い起こさせる部分もある内容だったように思います。ルーシーの「吐きなさい」とヴェロニカの「全部出しちゃいなさい」のそっくりなのに実際は逆なところなどもちょっと頭に留めておこう。

 

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ゾーイ「というかこれ、ほんとにトマト? 木になってるけど」

ルーシー「そういう品種なんじゃない、知らないけど」

 

チセ達が今回収穫したこの「トマト」、なんなんでしょうね。調べたらツリートマトとも呼ばれるタマリロというのが出てきましたがここまでトマトに近くなるものなのかどうなのか? と思ったら公式で言及あり。

 

トマトで合ってるとのこと。

 

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