友情は灯台の下――「星屑テレパス」4話レビュー&感想

©大熊らすこ・芳文社/星屑テレパス製作委員会

足元に目を向ける「星屑テレパス」。4話では海果達と瞬のロケットが対決する。だが、彼女達の対決はいわば灯台に過ぎない。

 

 

星屑テレパス 第4話「決戦シーサイド」

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1.まっすぐ飛ばないロケット?

直接話を聞いてもらえるかをかけ、瞬にペットボトルロケット勝負を挑むこととなった海果。遥乃は彼女とユウにプレゼントがあると言い……?

 

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遥乃「囚われた宇宙人?」
ユウ「だって海果が逃げるんだもん」

 

歓びの「星屑テレパス」。「決戦シーサイド」の副題の通り、今回は海果達と瞬の間でペットボトルロケット勝負が繰り広げられる回だ。飛距離を伸ばすべく海果達が奮闘する内容を想像していた私は正直、この4話前半に戸惑った。いかにロケットを遠くまで飛ばすか頭を悩ませるような場面はなく、ショッピングセンターでの材料買い出しとそこからそのまま一緒に遊ぶ様子が中心だったためだ。まるでまっすぐ飛ばないロケットのようだが、別に彼女達が不真面目だとかいうわけではない。むしろ4話にはこうした描写こそが欠かせない。

 

 

2.海果の秘密基地

なぜ4話には海果達が遊ぶ描写が欠かせないのか。そのヒントはアバンで登場する「秘密基地」にある。

 

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遥乃「ようこそ、わたしのとっておきの秘密基地へ!」

 

前回ラスト、海果とユウにプレゼントがあると遥乃が見せた鍵。その正体はなんと、ユウの住む既に廃止された灯台の地下室――「秘密基地」の鍵であった。遥乃の祖父はかつて灯台の管理者をしており、灯台が廃止された後もこの地下室を秘密基地に見立てて遊んでいたというのだ。この場所を明かした際に遥乃は「灯台下暗し」と照れ臭そうに言ったが、彼女の灯台への愛着には文字通り地下の秘密基地があったと言えよう。

 

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海果(誰かとこんな風に遊んだの、初めて……)

 

人の行動の理由は表面からだけでは分からない。これは海果の場合も同様で、ロケットを作って宇宙人に会いに行きたい彼女の目標には地球で見つけられない居場所を探したい願いが隠されている。海果の場合ロケット=灯台、居場所探し=秘密基地なのだ。ならばロケット製作「だけ」するのは灯台の下を見ないに等しい視野狭窄なリアリズムでしかない。ユウや遥乃と買い物してそのまま一緒に遊ぶこの4話前半でこそ、海果は「秘密基地」へ入れているのである。この図式は後半、瞬との対決でも大きな意味を持ってくる。

 

 

3.友情は灯台の下

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瞬「動力源を火薬にしちゃいけないなんてルール、なかったよな?」

 

いよいよ迎えた勝負の日、海果達と瞬のペットボトルロケット対決は意外な決着を迎えた。勝負のルールは双方が2回ペットボトルロケットを飛ばし長い方の飛距離で対決というものだったが、海果側の方が出来が良いと認めた瞬は2本目になんと火薬で飛ぶモデルロケットを持ち出したのだ。ロケット本体には確かにペットボトルが使われているし、動力も水と空気に限定していなかったからこれは卑怯とは言えない。ある意味ルールの「秘密基地」を突いたよう……だが、本当にそうだろうか?

 

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瞬が1本目に用意したペットボトルロケットには、一切の遊びがなかった。海果達は瞬がロボットアニメ好きだという話からそれをカラーリングのモチーフに選んだ一方、瞬の方のそれは本当にただロケットの形状をしているものでしかなかった。またモデルロケットの使用も反則ではないにせよ明らかに掟破りの代物で、使えば勝てない方がおかしい。こうした味気なさや手段の選ばなさが象徴するように、火薬式故にまっすぐ飛ぶ瞬のロケットはただ上に向かうことしかできない――どれほど高く飛んだとしても、足元の見えない灯台を築くだけだ。

 

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瞬「はぁ!?」
海果「わ、わたしも着けてみたいなって……」
瞬「はぁ!?」

 

「興味のあることしかしない」瞬はモデルロケットそのもので、人は単純な速さや高さで彼女のような人間を上回ることはできない。けれど一方で、上しか見ない人間は灯台の下の暗さに気付けない。表面的なものの下にある秘密基地を見つけられない。完膚なきまでに叩きのめしてやろうと海果の話を聞くことにした瞬が耳にしたものは、ロケットを手伝えとか必要な部品をよこせといった願い――ではなく、「頭のそのゴーグル、かっこいいね!」というあまりにも予想外の言葉であった。

 

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海果「きょ、今日の勝負悔しかったけど……楽しかった! また、やろう、ね?」

 

「頭のそのゴーグル、かっこいいね!」……文字面を見た時、海果のこの言葉は本当にバカバカしい。そんなことのためにペットボトルロケット勝負を挑むだなんて、割に合わないにも程がある。けれど海果にとってこれは、瞬を初めて見た中学生の時からずっと言いたかった言葉だった。彼女が学校に来なくなったために、ずっと言えなかった言葉だった。この事実は瞬にとって、百万の言葉よりも雄弁である。「ロケットを一緒に作ってほしい」? 違う。「ロケットの部品を譲ってほしい」? 違う。海果が言っているのは結局、ただの一言に過ぎない。「友達になりたい」と言っているに過ぎない。けれどそれは瞬にとって地下の秘密基地に足を踏み入れたに等しい、あまりにも驚きの一言であった。

 

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瞬「少しだけ付き合ってやる。出席日数稼ぎのついでに、な」
海果「うん!」

 

かくて日はまた昇り、登校した海果は高校入学以来初めて登校してきた瞬を見る。出席日数が問題だとかロケット作りに付き合ってやるだとか彼女は言うけれど、それが照れ隠しなのは海果もユウも遥乃も分かっている。友達という秘密基地が隠れていることを、そこへの鍵を手にしたこの3人はよく知っている。

今回冒頭、遥乃が口にした「灯台下暗し」はけだし名言である。ことわざの通り、海果と瞬の友情はロケット対決という灯台の下で生まれていたのだった。

 

 

感想

というわけで星屑テレパスのアニメ4話レビューでした。たった一言にできるものを伝えるのがいかに難しいか。そしてただの一言がどれだけのものを背負えるか。そういう回だったのだと思います。海果の思いは、ちゃんとロケットになって瞬の心に届いた。

私はアニメ1話話のテーマを探してレビューを書くわけですが、それってつまり30分が伝える一言を探すことでもあって。見つかった時にはまさに「灯台下暗し」という気分になることがよくあります。そういう意味でも作品を近くに感じられるお話でした。