裏側探訪inティンガーラ――「白い砂のアクアトープ」13話レビュー&感想

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©projectティンガーラ
新たな日々が始まる「白い砂のアクアトープ」。13話ではくくるの就職先の水族館・ティンガーラの様子が描かれるが、これにはちょっとした偏りがある。今回はその偏りから見えてくるくくるの課題に触れてみたい。
 
 

白い砂のアクアトープ 第13話「海の遥かなティンガーラ」

「がまがま水族館」の閉館から月日は流れ、翌年の春。高校を卒業したくくるは「アクアリウム・ティンガー
ラ」に就職する。新たな職場でも飼育員を希望するくくるだったが、なぜか営業部に配属されてしまう。気持
ちの整理ができないまま、配属先に向かったくくるを待っていたのは、副館長・諏訪哲司だった。さらにかつて「がまがま水族館」に研修で来ていた知夢と再会して……。

公式サイトあらすじより)

 

1.裏側探訪inティンガーラ

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新たにオープンした大型水族館・ティンガーラ。がまがま水族館と基本は変わらないが、そこにあったものが無い、あるいは描かれていないことに物足りなさを感じた方もいるのではないだろうか。具体的には、がまがま水族館にあって今回のティンガーラになかった描写は以下の2つだ。
 
・飼育員が魚に餌をやる場面がない
・飼育員が水族館の通路を歩いて客と話す場面がない
 
主に営業部に配属されたくくるの視点で物語が進んだり、またティンガーラはがまがまのような小さな水族館が舞台ではないのだから当然の偏りだが、これらは結果的に魚達の登場を極端に減らしている。代わってカメラがよく映すのは調餌場、通路、営業部といった場所――バックヤードだ。そう、副館長の諏訪は来館者促進のためバックヤードツアーを企画していたが、この13話もそれ自体がくくるや私達にティンガーラの裏側を見せる"バックヤードツアー"となっている。
 

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夏凜「バックヤードも広いでしょ」
くくる「部屋がいっぱいあるんだね」

 

そしてもちろん、このツアーが見せるバックヤードとは水槽の後ろや魚類研究の様子などではない。くくるや私達が見るのは営業部と飼育部の連携のまずさや、がまがま水族館出身者がテインガーラの中で派閥のように見られる人間関係の裏側バックヤードである。
 
 

2.くくるの課題

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くくる「わたし、ティンガーラでやっていけるのかな……」
 
13話をくくるの目を通してのバックヤードツアーとして見た時、当然だがこれは成功とは言えない。副館長の諏訪の指導は高圧的だし、飼育員の知夢とはがまがま水族館時代の因縁もあってその仲は険悪。「何度も来たくなる」どころか、くくるは2日で仕事を続ける自信をなくしてしまっている。
 

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くくる「生き物……生き物がいない……」
 
そもそくくるの希望は飼育員であり、魚でなく人と関わる営業は彼女にとってバックヤード・・・・・・の仕事でしかなかった。人間より魚類への興味が勝るくくるの中では、営業が花形部署という世間的な図式は当てはまるどころか逆転している。しかし逆転と言うならそもそも、バックヤードツアー自体が「逆転の発想」の産物ではなかったか?
 

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諏訪「お客様が何度も来たくなる施設を目指せ!それが生き物のためとなり、ひいては従業員のためとなる」
 
倉庫や作業場を指すバックヤードとは当然ながら売場以外の場所であり、どれだけ充実していても直接的には売上を生み出さない。故に真っ先にコストカットの対象となるのもこういった部分だ。しかしバックヤードツアーはそこを集客=直接的利益へ結びつける。通常人目に触れない場所に希少価値を見つけ出す逆転の発想からこそバックヤードツアーは生まれており、更にはそれは潜在的な需要や将来的な関心=バックヤードにあるものも生み出す。このように咀嚼した時、くくるが営業部に配属されバックヤードツアーを疑似体験する意義は非常に大きくなってくる。
 

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知夢「朝礼の時言ったの?」
くくる「え?あ、いやちょっとそれは分かりません……」

 

先にも触れたが、くくるの関心は基本的に魚類>人間であった。幼馴染の櫂から寄せられる好意に(相変わらず)気付く様子もなく、研修に来た知夢にも無闇に攻撃的な態度を取った。魚とのコミュニケーションは上手いが、人とのそれはけして巧みとは言えない。
だが営業部への配属が彼女にとってバックヤードツアーである以上、そこではこれまで興味のなかったものこそが主役になる。かつてくくるが水槽の中に見ていたのは魚達だったが、今やその水槽の中には大勢の人間がいるのだ。
 
がまがま水族館の時よりずっと多く、今回だけではとても理解できないほど複雑で多種多様な人間達の"世話"をするのはくくるにとっては大変なことだろう。しかしそれこそは、彼女の祖父も望んでいた水族館を入り口にもっと広い世界へ興味を持つ第一歩になる。人間のたくさんいる営業部を見て「生き物がいない」と言ってしまうくくるの視点はまだまだ未熟で、その先にこそ彼女は進まなければならない。
 

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星野「新しいことにトライしまショウ!」
くくる「無理です!」

 

魚達に接した時のように人間に接することこそ「営業部企画広報担当 海咲野くくる」に与えられた課題なのである。
 
 

感想

というわけで白い砂のアクアトープの13話レビューでした。すみません、ゲッターロボアークの最終話レビューを書いて頭が死んでました。描写の偏りや、人間模様を見ることが魚を見るようだ(くくる達自身が「がまがま水族館から引き取られた魚達」なのだ)……という感覚はあったのですがそれだけだとまとまらず、13話自体がバックヤードツアーなんじゃないかと思いつくことで全体像を自分なりに把握できました。本当はここで風花の立ち位置について解釈できると完璧なんですけど。
 

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瑛士「だから人間は嫌なんだ。魚はいい。余計なことを喋らない」
 
しかしこうやって見ると、人間より魚の方が好きと断言する比嘉瑛士はくくるとよく似てるんですね。2クール目の始まりということで半分1話みたいなところがあり、後々振り返るところの多い30分になるのではないかと思います。
 
 

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