心の台風――「白い砂のアクアトープ」11話レビュー&感想

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©projectティンガーラ
嵐来たれり「白い砂のアクアトープ」。11話では閉館にがまがま水族館に立てこもったくくるが台風に立ち向かう様が描かれる。この台風は抗い難い現実運命と見るのが妥当に思えるが――本当にそれだけだろうか?
 
 

白い砂のアクアトープ 第11話「籠城の果て」

南城市に台風が迫る8月のある日。閉館反対を訴えるため、くくるは1人で「がまがま水族館」に立て籠もってしまう。彼女を心配した風花が駆けつけ一緒に立て籠もる。だが、進路に悩む風花に対して、くくるは素直になれずそっけない態度をとってしまう。そんな中、激しさを増す台風によって停電する水族館。2人は水槽や生き物に異常がないか見て回る。
 

1.心情と天候は連動するもの

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風花「わたしも一緒に立てこもる!」
 
物語において、天気や明暗は登場人物の心情を代弁するものだ。涙する時には雨が降り、希望が見えた時は夜が明ける。そういう風に重ね見た場合、今回の場合も台風はくくるの心情と連動している。風花がやってきて落ち着かなくなれば空模様は悪化したし、壊れる設備に絶望すれば電気が切れて館内は闇に包まれる。くくるは水族館に立てこもりながら、荒れ狂う思いはその外側にある。
 
 

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水族館に立てこもりながら、その心情はむしろ外側にある――奇妙にも思えるが、くくるの行動を見ればこれはむしろ自然なことだろう。彼女は確かにがまがま水族館に立てこもりはしたが、声明の類は一切出さず外からの呼びかけにも応答しない。中でしていることも撃退用の道具を用意するなどではなく、ただ普段通り水族館の生き物を世話するだけ。くくるは立てこもることで何かを変えようとしていると言うより、立てこもることで平静を、自分の心の平衡を保とうとしている。今回の台風は、閉館を理解しつつも受け入れられないくくるの思いが彼女の中で行き場をなくし、天気となって現れたものなのである。
 
 

2.台風の矛盾

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くくるの行き場のない思いの現れとしての台風はしかし、台風であるから当然がまがま水族館にも牙を剥く。昨年直したばかりの天井から水を漏らし、飛来した石は窓を割り強風でそれを塞ぐことも許さない。くくるの思いから生まれたにしては矛盾しているようにも思えるが、しかし彼女の行動もけして、がまがま水族館のためになる行動ばかりとは言えなかったはずだ。
 

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閉館が嫌でも避けられない現実として近づくにつれ、くくるの行動は穏やかなものではなくなっていった。他の水族館から研修に来た知夢に無闇に攻撃的な態度を取ったり、人を呼ぶために幻を奇跡体験イベントとして売り出そうとしたり、ここのところの彼女の行動はがまがま水族館の思い出に悲しい1ページを加えることばかりであった。そして今回に至っては立てこもり――どれもこれもがまがま水族館が好きだからくくるはやっているのだが、むしろがまがま水族館を傷つけている。であれば、立てこもらなければ平衡が取れないほどに暴走した思い=台風による暴風雨ががまがま水族館を傷つけるのは当然のことであろう。
 
 

3.心の台風

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風花「大丈夫かな。普段は気付かなかったけど、結構古いんだね」
 
沖縄には毎年台風が来て、がまがま水族館はそれを乗り越えてきたのだとくくるは言う。それはこれまでの見方に従うなら、両親を亡くしここ以外を「うち」と感じられないくくるの心の台風を毎年受け止めてきたということだ。しかしくくるが成長しがまがま水族館への愛着を強めるなら、それは台風の強化にも繋がる。圧倒的な暴風が明らかにしたのは、がまがま水族館が見た目よりもずっと老朽化が進み限界を迎えていることだった*1
 
もし、くくるの願い通りがまがま水族館が9月以降も営業を続けていればどうなったろう? ひょっとすれば、設備は突如として動きを止め魚達の命を奪ってしまうこともあったかもしれない。それはくくるの思いが魚達を殺すのに等しく、そんなことがあれば彼女は閉館以上に深い傷を心に負っていたことだろう。くくるの行き場のない思いが姿を変えた台風は、彼女の思いが魚達を殺す可能性の提示だ。だからがまがま水族館の魚達を救うには、何よりまずくくるの心を鎮めなければならない。
 

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感情を外部化してもくくるは心を平静に保つことなどできず、台風で壊れた扉にくくるの心はとうとう絶望してしまう。それは、外部化することで抑えようとした行き場のない思いから結局くくるが逃れられなかった証明だ。そんな彼女を、風花は強く抱き締める。
 

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風花「ここしかないなんてこと、ない!ここがなくなっても、終わりなんてことはないよ……絶対に!」
 
ここがなくなっても終わりなどということはない。夢をなくしても未来がなくなるわけではない。風花が自身の再生をも託して口にしたであろうその言葉は、くくるの行き場のない思いに一つの道を見つけてあげる言葉だ。そう、行き場が見つかれば荒れ狂う思いは鎮まることができる――風は弱まることができる。折よく水族館に来られたウミやんが車を出せたのは風が弱まった隙を見計らったからだと言うが、それはやはりくくるの心と連動してのものだろう。
 

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おじい「この子達を守ってくれて、ありがとう」
 
かくてくくるの心とリンクして台風は過ぎ去り、がまがま水族館最大の危機は去った。どの魚の命も奪われず守られたことに、おじいは感謝の言葉をくくるに伝える――それは台風から魚達を守りきったことに対してであり、もちろんそれだけではない。
くくるは、自分の心の台風が命を奪う危機から魚達を守ったのだ。
 
 

感想

というわけで白い砂のアクアトープの11話レビューでした。順延すみません。よくある立てこもり展開とはちょっと違うなあ、というのを自分なりに分解した結果がこちらになります。物語だと人と自然は一体である。分からず屋とも少し違うがやはりまだ子供なくくるのありようとも上手くリンクした話だったのではないかなと思います。さて、次週はどんな区切りを迎えるのかしらん。
 
 

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*1:おじいにもかけている部分があるのだろうか?