架け橋を演じる――「かげきしょうじょ!!」10話レビュー&感想

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
全てが舞台となる「かげきしょうじょ!!」10話、紅華歌劇大運動会のリレー代走に抜擢されたさらさは思い悩む。今回彼女が与えられた役割は、相反するものを抱え込んだ荒馬だ。
 
 

かげきしょうじょ!! 第10話「百年に一度の秋」

 

 

 

1.さらさの苦悩の理由

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
さらさが与えられた役割を考えるために、まず紅華歌劇大運動会がどんなものなのかを振り返ってみよう。
 
  • 紅華歌劇団が10年に一度開くファン感謝イベント
  • 春夏秋冬4組に加えて専科・本科・予科合同チームの対抗となるが、主役は劇団員で予科生の役割は裏方雑務

 

観客は4組の劇団員を目当てに訪れるのだから当然だが彼らが主役で、予科生が目立つことは期待されていない。むしろ予科生は目立ってはいけない。……しかしこの場合、リレーの代走が予科生というのは大いなる矛盾だ。目立ってはいけないのに目立つ競技の場に立たねばならないのだから、求められるものは決定的に相反してしまっている。
 

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
聖「いい?劇団員の方だけが目立てばいいの。その大きい身長以外の個性を一切なくして、いないも同然の無になりなさい」
 
目立ってはいけない予科生がしかし、目立つリレー競技に出る。この矛盾はさらさという少女の性質、そして抜擢によって更に難解になる。身長・性格全てが規格外の彼女は放っておいても人目を引くし、教師や専科の人間もそんな彼女に着目し役割を与えてきた。本質的に目立つ少女を更に目立たせる循環が本作の一つのあり方で、そこには「目立たない」選択肢は存在していなかったのだ。「目立ってはいけない人間が目立つ場に立つ」のは、さらさにとっては一際大変な難題なのである。
 
 

2.架け橋を演じる

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
さらさ「無……」
 
目立つ自分が目立つ立場で目立たないためにはどうすればいいのか? さらさは迷ってしまう。ドツボにハマってしまった彼女の選択の一つが「エアリコーダーにすれば間違えない」であったが、これが誤りなのは言うまでもない。ヒントは実は、さらさに無になるようにと言った本科生の聖の行動にある。
 

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観客「見て、奈良っちよ!やっぱりかわいいわ」
観客「一緒にいる本科生も美形ね」

 

聖は競技の準備の手伝い代役を元アイドルの愛に頼み、同行することで観客からの注意を惹き付ける。その計算高さに周囲は呆れるが、重要なのはここでは愛の「目立つ」がけして聖の損になっていないことだ。リレーではないが代役を頼まれた点で愛の役割はさらさと重なっており、さらさ同様に目立つはずの彼女はむしろ聖を引き立てているのである。

「目立たない」は自分の「目立つ」を否定して成立するとは限らない。それは大なり小なり選ばれた=人前に出た存在である紅華乙女の進む道ではないし、どうあっても目立つさらさの進む道でもない。

 

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
さらさが抱えているのは「目立つ」「目立たない」の相反する問題だからこそ、彼女はリレーで冬組トップの里美星とぶつかった時に最大のピンチを迎える。それは既に最悪なレベルで目立ってしまった状態からのスタートであり、エアリコーダーのような方法でやり過ごせるものではないからだ。
すぐに立ち上がって再び走るか?星に駆け寄って謝るべきか?――さらさが採ったのは「立ち上がらず、星が自然と手を差し伸べたように演出する」というものであった。
 

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
星「走るよ!」
さらさ「はい!」

 

ぶつかったのが星の側とは言え、先に書いたように転倒は最悪な目立ち方だ。何事もなかったように振る舞っても目立った事実は消えず、その時点でさらさは役割を果たせなくなってしまう。
しかし衝突も転倒も星のヒロイックな行為を「目立たせる」のに繋げれば、それだけで自然とさらさは目立たなくなる。いや目立ってはいるが、星の引き立て役として機能するならそれは目立たないのと同じことであろう。
「目立つ」と「目立たない」の相反関係に悩んださらさが掴んだ答えとは、「目立つ」と「目立たない」を結びつけることであった。その架け橋をこそ演じることであった。そして彼女が示したものはこれに限らず、もっと広い範囲へと適用できる考えでもある。
 

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
さらさ「愛ちゃんのおかげですよ!愛ちゃんのおかげでピンチを切り抜けられました」
愛「よく分からないけど、そう思うなら良かったじゃない」
 
さらさは今回の代走でトラブルに見舞われながらも、見事にリカバーしてむしろ盛り上げることができた。きっかけの一つはその場では上手く行かなかった愛の励ましであり、その点でも彼女は失敗したはずのものを成功に変えることができた。そしてその愛の励ましが示していたのは、役者と観客を一方通行でなく結びつけて考えるやり方であった。
また、紅華歌劇大運動会は10年に一度開かれるものであり、そこには当然大きな時間的スパンが生まれる。予科・本科生だったものが劇団員ひょっとすればトップになり、更に幾度かの機会を経れば専科になる。10年というのはそういう、過去・現在・未来を捉えるには十分な時間だ。専科の明羽がさらさを代走に選んだ理由の一つは、10年前に自分が演じたオスカルを知らずに大好きと言ってくれたからだった。
このように、今回起きた出来事にはいくつも、いくつもの相反するものの結び付きがある。
 

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© 斉木久美子・白泉社/「かげきしょうじょ!!」製作委員会
さらさ「10年後の次の運動会は、さらさ達も立派な紅華乙女になっていなければいけませんね」
 
「目立つ」と「目立たない」の相反関係を結びつきに変えたさらさは同時に、失敗と成功、役者と観客、過去・現在・未来といったものを結びつける道筋にも触れていた。そして彼女もまた、自分達が背負う次代にそれを結びつけていく意欲を得た。この経験はきっと、彼女達の未来を照らす一つの助けになってくれることだろう。
相反するものを結びつける道筋と意欲こそは、さらさがこの運動会で学んだことだったのである。
 
 

感想

というわけでアニメ版かげじょの10話レビューでした。主役だけど主役にはなってはいけない舞台を使った面白い話だったと思います。レビューでは入れそびれましたが、「隠れ巨乳」もコミカルながら「目立つ」と「目立たない」を結びつけるディテイールですね。現役トップと(きっと)未来のトップが手を繋ぐというのもとても良かった。これ、劇中では後に凄いお宝シーンになるのでは……
さて、次回の副題は「4140」。いったいなんの数字なんでしょう?
 
 

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