別の道を行く理由――「響け!ユーフォニアム3」11話レビュー&感想

©武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

選択の「響け!ユーフォニアム3」。11話では久美子が小さな一歩を踏み出す。彼女が選んだ選択とは、進路を選ぶだけの選択ではない。

 

 

響け!ユーフォニアム3 第11話「みらいへオーケストラ」

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1.必要なのは武器

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関西大会を突破し、全国大会への切符を手にした北宇治高校吹奏楽部。部員達が沸き上がる一方で、久美子はソロに選ばれた真由の上手さを改めて感じていた。全国大会と共に進路選択のリミットも迫る中、彼女は麗奈に誘われみぞれの進学した大学のコンサートを聴きに行くが……

 

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重なる「響け!ユーフォニアム3」。11話は一見すると少し奇妙な構成の回だ。全国大会出場を決めた北宇治高校吹奏楽部は3度目のオーディション実施が決まり、主人公にして部長の久美子はこの春強豪校から転校してきた同じくユーフォニアム奏者の黒江真由ともう一度ソリ(ソロパート)を競うこととなる。関西大会で真由が見せた実力が卓抜したものであることに加え、彼女がオーディション辞退を顧問にではなく久美子に何度も申し出たことの不審が指摘され物語の焦点となったかのように見えるのだが――この11話はそれ以上は真由に踏み込まない。その後描かれるのは先輩である鎧塚みぞれが進学した音大のコンサートを聴きに行った久美子が改めて「音大に行かない」と決める姿のみで、そこから切り替わった場面ではもうオーディションが始まってしまうのだ。1話1話のテーマを探るレビューを書く私はこの構成にすっかり戸惑ってしまったのだが、ラストの久美子の不安げではなく決然とした表情を見て合点がいった気がした。コンサートを聴きに行ったあの出来事を通して、久美子は真由に対抗できるだけの「武器」を見つけた……そう感じたのだ。

 

久美子が見つけた武器とは何なのか? それを探るためにはまず、ソリを競う相手である真由の武器を探らなければならない。

 

2.黒江真由の強み

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黒江真由は優秀なユーフォ奏者である。久美子と入れ替わりでソリに指名された関西大会での演奏は観客からも高い評価を受けており、強豪校である清良女子に在籍していたその技術は本物であることが改めて伺える。だが、これまで部員達が語っていたように二人の実力にはほとんど差は無いはずなのだ。にも関わらず、なぜ真由の演奏はここまで絶賛されたのか? すぐ横の席で彼女のソロを聞いていた久美子は、ショックとすら言えるほどの動揺と共にその理由を感じ取っていた。真由の演奏はただ上手いだけでなく、他人に合わせるのが巧い・・・・・・・・・・・のだ。

 

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久美子(あの演奏は確かに素晴らしかった。麗奈の音に真由ちゃんは完璧に合わせていた……寄り添っていた)

 

関西大会オーディションの前、久美子の親友にしてトランペットを担当する麗奈は真由の演奏を「カンがいい」と評していた。顧問である滝先生の求める音をすぐ理解し、それに合わせて吹くことができる……と。この時の巧さとは、言ってみれば顧問受けの良さであった。だが関西大会では彼女はその更に一段上、同じくソロを担当する麗奈の音に完璧に合わせて演奏するという巧さを披露している。それはすなわち、黒江真由は他人に「合わせて奏でる」のが巧いということだ。合奏においてこれがいかに大きなアドバンテージに、強力な武器になるかは言うまでもないだろう。

 

久美子は繰り返し真由が申し出るオーディション辞退を頑として受け入れようとしないが、実際問題としてソリに返り咲くには彼女に対抗できる武器を見つけなければならない。では、彼女がコンサートを通して発見したそれはいったい何なのだろうか?

 

 

3.別の道を行く理由

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3年生の9月も終わろうという時期にまだ進路を決めかねている久美子が、音大を勧める麗奈に進路のヒントにと誘われた先輩の進学先の大学のコンサート。ソリのソの字も出ないこの出来事が、なぜ真由に対抗できる武器の発見になるのか? そのヒントは、同じく卒業生の傘木希美と共にコンサートを見に来た二人組に隠されている。そう、「なかよし川」こと吉川優子と中川夏紀のコンビだ。

 

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夏紀「バカにしてただけ」
優子「はぁ? バカにされてたの間違いでしょ」

 

優子と夏紀は先代の吹奏楽部部長・副部長だが、往時から二人が笑顔でやりとりしている場面はほとんど見られなかった。今回にしてもコンサートを見るための衣装について「中二病」「あんたなんて小4」などといがみ合っているほどだ。だがこの喧嘩が仲の良さの裏返しなのは周知の話であるし、希美によれば二人は方向性が正反対なのにバンドを組んですらいるという。

 

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希美「二人でバンド組んでるんだけど、方向性が真逆で」
久美子「なのに組んじゃうんですね」

 

確かに二人は顔を合わせれば喧嘩ばかりしている。けれどそれにも関わらず「なかよし川」などと呼ばれるのは、彼女達のやりとりが相手に合わせていないにも関わらず不思議と息が合っているからだ。そう、例えるなら彼女達の喧嘩はソリ同士の合奏である。他人に「合わせて奏でる」巧さなど微塵も無いにも関わらず、勝るとも劣らない美しき合奏。

 

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滝先生「本番前のスピーチ、部長として立派でした」
久美子「でも、あれは思ったことを言っただけで……」

 

他人に合わせて奏でられれば、合奏が整うのは言うまでもない。だが合奏とはそれが全てではないはずだ。今回だけでも例えば、滝先生は冷たい言い方をしてしまいがちな自分の欠点を補ってくれた関西大会での久美子のスピーチに事実上の感謝を告げ、また亡くなった妻もそうした自分の欠点を咎めてくれていたことを明かしている。どちらも優子と夏紀の場合同様、「合わせて奏でない」スタイルだからこそ生まれた合奏だ。ならばソリを目指す久美子が進むべき道は、真由のように麗奈に合わせるものであってはならない。そう、例えば接点を失わないために彼女に合わせて・・・・決めるような進路であってはならない。

 

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久美子「平気だよ。私達は変わらない」

 

久美子は今回も結局、卒業後どこに行くか決められたわけではない。あくまで音大に進学しない意思を固めただけだ。だが、この事実は彼女にとって進路に留まらない重大な意味を持つ。麗奈と同じ道を進まない久美子は、生き方はもちろん演奏においても「他人に合わせて奏でる」道を選ばない。そう、真由の巧さを追いかけない。それだけが合奏ではないし、むしろそれこそ念願の全国大会金賞のために(そして二人にとって互いが特別であり続けるために)必要な合奏であることを久美子の3年間は教えている。もう一つの、いや本当の合奏のあり方という武器を心のどこかで掴んだからこそ、この11話ラストで久美子は気後れした様子を見せないのだろう。

 

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松本先生「ではこれより、オーディションを始める」

 

久美子にとって今回のコンサートは、進路に留まらぬいくつものヒントを得る機会となった。そうしたヒントが合わさって奏でられたその時こそ、オーケストラは「みらい」の扉を開くのである。

 

感想

以上、ユーフォ3期11話のレビューでした。今回は副題が「みらいへオーケストラ」ということで、過去・現在・未来の3つがオーケストラになると「みらい」が開ける、みたいなお話なのかな……と想像していたのですが、見てみると良い意味で予想を裏切られました。久美子の進路が決まらないの、こうして見るとなんだか必然という気がしますね。そして彼女と真由の対立する部分もこれまで以上にくっきりしてきた。さてさて、話数は残り2回ですがどんな展開になるんでしょうか。

 

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みぞれが相変わらずでクスッとしました。

 

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