コード・イヴの正体――「メタリックルージュ」最終回13話レビュー&感想

© BONES出渕裕/Project Rouge

終わり始まる「メタリックルージュ」。最終回13話では黒幕によって自由と隷属が反転する。本作の鍵であるコード・イヴとはいったいなんだったのだろう?

 

 

メタリックルージュ 第13話(最終回)「コード・イヴ」

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1.冒涜されるコード・イヴ

人形遣い師の正体はジーンとルジュの父、ロイ・ユングハルト博士であった。なぜ生きているのか、なぜこんなことをしているのか。全ての糸はこの男一人の手元にあり……

 

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ユングハルト「人形遣いには彼らの見ているもの聞いているもの思っていることの全て見通せました。そして!……彼らの心を操ることも」

 

前夜を描く「メタリックルージュ」。人とそれによく似た人造人間・ネアンの混在する世界を舞台に自由や自分といったものを問うてきた本作だが、その中で自由の象徴とされてきたのが「コード・イヴ」である。人間に逆らえないようネアンに組み込まれたアジモフコードを無効化するこのプログラムは社会に大きな混乱を招く恐れも指摘される一方、それがネアンに自由をもたらすことは間違いないとされてきたわけだが――最終回となるこの13話、その絶対性は否定される。コード・イヴを巡って繰り広げられてきたこれまでの戦いは全て、死んだと思われていた主人公ルジュとジーンの父ロイ・ユングハルト博士の書いた筋書き通りの話だったのだ。コード・イヴによるネアン解放のため戦うプロトネアンの一人シルヴィアは前回改めて自分の自由意志を主張したが、彼女を作ったユングハルト博士に言わせればその思考や記憶すら設定された行動に過ぎなかった。

 

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シルヴィア「嘘だ……!」

 

「自由を求める戦いが他者の筋書き通り」……こんな滑稽な話はあるまい。実際ユングハルトは誕生する新たな世界を自分が統べるつもりでおり、シルヴィアがコード・イヴを発動させてもそこに自由などありはしなかった。同じくプロトネアンの一人・幻影のヴェルデはかつて「自由も幻だ」と語ったが、コード・イヴもまた自由を本物にしてくれる特別・・な魔法などではなかった。だが、コード・イヴは特別でなければならないのだろうか? 前回ルジュの相棒ナオミが自分の重要ユニットであるイドを貸し出したように、そういった特別さをこそ否定してきたのがこれまでの本作ではなかったか。

 

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2.コード・イヴの正体

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特別さで競う時、特別な者はより特別な者に勝てない。シルヴィアは前回もルジュに勝利するなどプロトネアンの中でも特別な強さを持つ存在だったが、ユングハルトには手も足も出ず殺されてしまう。当然だろう、プロトネアンの生みの親である彼はシルヴィアの全てを操ることができるし、その人格はルジュのコピーであるシアンに転写され肉体的にも隙がない。シルヴィアともまた違う特別なプロトネアンであるルジュもまた、彼女に奪われたイドを非戦闘型ネアンであるナオミのそれで代用しているため劣勢に陥らざるを得なかった。だが、見方を変えればこのイドの代用はルジュにユングハルトとは違う強みももたらしている。「特別ではない」という強みを。

 

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ナオミの指示を受け、ルジュはかつてシアンを止めた時のように自分の出力の位相を反転させる。ただしその時と異なり位相を放出せずにイドに集めた結果、そこに生まれたのはナオミとの一体化と二段階目のディフォルム<変身>というユングハルトすら予想しなかったものだった。ナオミの特別でないイドは、全てが特別だったルジュを弱くするだけでなく彼女を新たな領域に導きもしてみせたのである。


かたや自分の人格を幼子同然のネアンに転写したユングハルト*1、かたやデザインも他のプロトネアンとは一線を画する新たな姿を見せたルジュ。ユングハルトはコード・イヴがもたらす混乱によって新たな種が生まれることを期待していたが、新しさを比べた時彼とルジュの差は一目瞭然だ。新世界の支配者を気取っていたユングハルトの正体はむしろ古き世界の象徴であり、彼は結局一体化した(という名で支配した)つもりのシアンにすら抗われルジュに敗北することとなった。

 

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シアン「わたし、なれた? お姉ちゃんの本当の妹に」
ルジュ「妹だ! シアンは本当の、本当の妹だ!」

 

ともすると私達は自分だとか自由だとかいったものを特別扱いするけれど、本当に特別なものは特別さからは程遠いところにある。ナオミがルジュと友達になったのに明確な転換点などないように。自由を求めて殺し合ったシルヴィア達にしかし、家族で過ごした休日が最高の思い出として残っていたように。シアンがルジュの姉妹であることに、血縁も過ごした時間の長さも必要なかったように。だから(ネアンの)自由もまた、コード・イヴに仮託された特別な魔法などではけして得られない。ルジュは戦いの後コード・イヴを発動させたが、ユングハルトに協力していた宇宙人である簒奪者がコード・イヴを発動させる装置にネアンが自分達の手駒になるウイルスを流し込むようトラップを仕掛け、かと思えばジーンがそれを見抜いてアンチウイルスを作っていたように、御大層な名前がついていてもそんなものはただのプログラムだ。アジモフコードが無効化されようとその影響は「世は事もなし」に収まる程度のものに過ぎない。そんなもので世界は変わりはしない。

 

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本当に世界は変わるのかなと訝しむナオミに、ルジュは「変えていくの、これから」と笑顔で答える。そう、人間とネアンが混在するこの世界が変わっていくとしたらむしろこの先の話だろう。いや、人間とネアンのそれぞれが世界を変えていく。ルジュとナオミの簒奪者との戦いがこれからも続くように、それはけして映像として私達の目に映ることはない。地球圏が簒奪者に征服されてしまう未来もあるかもしれないし、あるいは更に別の宇宙人がやってくることだってあるかもしれない。世界がどうなっていくかなど分かりはしない。けれど、自由というのは分からないところにこそあるものではなかったか。ならば、その自由を得たこの時ほど本作の締めくくりに相応しい場面はあるまい。

 

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ルジュ「行くよ!」
ナオミ「よし来た相棒!」

 

ルジュ達は13話かけて自由の前夜を――”イヴ”を過ごした。そして本作を見たあなたが「人間ってなんだろう?」「自由ってなんだろう?」と感じたなら、その思いはきっとあなたをほんの少し自由にしてくれていることだろう。コード一つで書き換わるものなんかより遥かに些細に、けれどずっと特別に。
本作の鍵であったコード・イヴの正体。それは本作「メタリックルージュ」そのものだ。特別な魔法は、忘れ去られていく数多の人や物語の中にこそ宿っているのである。

 

感想

以上、メタリックルージュの最終回13話レビューでした。トラップ→アンチウイルスの流れに最初ずっこけたのですが、出来事そのものはシンプルなのもあって比較的スムーズに全体像を見立てることができました。レビュー本文では触れられなかったですが、ユングハルトもけして「特別」な悪人ではないと示唆されていることや、この先が分からない世界を受け入れたジーンがアッシュからタバコをもらう=大人になる場面なども印象に残っています。シアンはうん、最後は間違いなく幸せだった……

 

SNSで以前投稿したことですが、本作は「人とネアンは全く違う。けれど人とネアンに何の違いもありはしない」世界を現出させた時点でその意義を達成していたように感じます。もちろんこのネアンは人造人間という狭い定義で捉えるのでなく、私達が自分と対極のように感じる存在や二元で語られる様々なものに対して想起すべきものでしょう。そこに感じるリアリティが私は本作で一等好きで、だから登場人物達も皆好きになっていきました。少しだけ自由をくれたこの視聴時間に感謝を。スタッフの皆様、お疲れ様でした。

 

 

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*1:同様の行為が見られる「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」と合わせて考えてみても面白いかもしれない