生態系は一つにあらず――「ダンジョン飯」14話レビュー&感想

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

別世界を覗く「ダンジョン飯」。2クール目初回はライオス達の再出発回……ではない。いくつものパーティからはまたいくつもの、異なる生態系が見えてくる。

 

 

ダンジョン飯 第14話「シーサーペント」

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1.ライオスとカブルー

ライオス達が一度地上へ戻るのを決める少し前のこと、魚人に襲われ全滅したカブルー一行はタンスによって蘇生されこちらも地上への撤退を余儀なくされていた。だが、彼らは突然濃い霧に囲まれてしまい……

 

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タンス「水上で死んでいたら今頃魚の餌だ。引き上げてくれた誰かに感謝しておけ」

 

リスタートの「ダンジョン飯」。14話は主人公のライオス達ではなく、カブルーを中心とした別パーティが中心の回だ。剣を得意とするカブルーに魔術師のリンシャ、探索役のハーフフットのミックベルとその護衛を務めるコボルトのクロ、ノームのホルムにドワーフのダイアとバランスの良いパーティ……なのだが彼らのダンジョン攻略ははかどっていない。初登場の5話では宝虫によって全滅、続く7話で再登場した際も既に死亡済みとお世辞にも褒められた戦績とは言えない。志だけが立派な弱小パーティ、というのが多くの人の印象だったのではないだろうか? だがこの14話で彼ら、いやカブルーが見せる表情はそれまでとは少し異なっている。

 

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カブルー「しーっ、大丈夫。落ち着いてダイア、俺だよ」

 

2度の全滅を経て地上へ戻ることにしたカブルーは突如として濃霧に覆われモンスターに囲まれるが、それはダンジョンで死体回収を生業とする者達の仕掛けた幻術だった。先の全滅の際にカブルー達を騙して深層へ向かわせた回収屋達は彼らを死体に変えるべく強硬手段に出たのであり、おそらく並のパーティなら仲間をモンスターに誤認させるこの幻術で殺し合いを演じることになっていただろう。だがカブルーは「モンスター」の振る舞いが自分の仲間のそれだと短時間で見抜き、更には位置取りから幻術を仕掛けた張本人を特定。加えてこの期に及んで回収屋が持ちかけたあくどい企みにも乗ることはなく、彼らに話を合わせたかと思いきや隙をついて殺害してしまったのだ。

 

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カブルー「やっぱり人間は楽でいいな。トールマンもドワーフもノームもみんな同じところが急所だし、体の動かし方も同じだ。魔物もこうなら楽なんだけど……」

 

魔物と違って人間は楽。ろくでなしの悪党とはいえ深層に潜れるのだから弱いはずのない回収屋を一蹴したカブルーはそう言う。発言自体はともかく、彼にとって人間が楽なのは戦闘に限った話ではないのだろう。幻術で姿を変えられた仲間の正体を特徴から見抜くのも同士討ちを平和的に防ぐのも、企みに乗ると見せかけて回収屋の隙をつくのもカブルーにとってはお手の物で、つまり人間に対する観察眼とそれを活かす判断力にこそ彼の最大の強みはある。バジリスクへの威嚇の仕方を心得ているなど「対モンスター」に長けているのが主人公のライオスなら、逆に「対人」におけるスペシャリストがこのカブルーなのだ。彼がライオスに代わる14話の主役であることは、こうした特徴と後半の描写からより顕著に描かれていくこととなる。

 

2.生態系は一つにあらず

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

ライオス達の出番がほぼない今回、当然ながらモンスターを使った料理は出て来ない。代わりにカブルー一行が口にするのは、回収屋から奪ったパンに塩漬け肉、木の実とドライフルーツにブドウ酒……ライオス達の食事に慣れた目には逆に新鮮なこのメニューも「ダンジョン飯」には違いなく、そこでも当然ある種の「賞味」は出てくる。そしてライオス達との不思議な類似性も。

 

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ミックベル「カブルーって気味悪いくらい人のこと覚えてるな」
リンシャ「なんで楽しそうなの?」
*画像はホルムとダイア

 

例えばカブルー達は回収屋の食料の良質さから彼らが日頃から今回のような死体作りを行っていたり多数のパーティと協力関係にあることを推測するが、これはその食料が「何を食って」できているかを推測するに等しい。この第4階層でライオス達が小魚→魚人→クラーケン(→寄生虫→ライオス)の食物連鎖を実感したのと同様、ダンジョンに潜る冒険者達にもまた生態系が存在するのだ。加えてカブルーは自分達の食料を奪ったのがライオス一行ではないかと推測するが、直接の面識がない相手の人間関係を詳らかにしかも楽しげに把握している彼の様子に他のメンバーは若干引き気味に――まるでモンスターのこととなると饒舌になるライオスを仲間が見る時のように――なってしまった。こうした点からは、カブルー達はこの14話でライオス達の冒険を彼らなりになぞっているとも言える。

 

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イヌタデ「大根と煮たら美味いのでは?」
ヒエン「アホか!」

 

メンバーや対象が異なっていても、彼らの営みはライオス一行と極めて近いものとしてできあがっている。しかしだからといって簡単に手を取り合えるかと言えばそれも否で、カブルー達は行き違いなどもあって彼らに財宝や食料を奪われたと思っているし、対人のスペシャリストであるカブルーに言わせればライオスは善人ではなく人間に興味がない迷宮の主に相応しくない男でしかない。もちろんこうした違いは単なるスタンスの問題ではなく、これまで全滅を繰り返しているようにカブルー一行はモンスター相手の戦闘を得意としていないという能力面の差異もある。各パーティにそうした違いが顕著なことは、食事を終えて移動中のカブルー一行を襲い全滅させかけたシーサーペントをライオスの元仲間のシュロー一行が容易く倒してしまう描写からも明らかだ*1。近いからといって全く同じものとしてしまうのもまた、ものの見方としてはいささか単純化が過ぎている。

 

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カブルー「そりゃ楽しいよ! すごく楽しい。この島にはたくさんの人間がいて、それぞれ違った思惑で動いてる。でもてんでバラバラなその行動がピタッと噛み合うと、多くの人間を巻き込んだ歴史的な出来事になる。つまんない窃盗事件かと思ったけど、面白いことが起きる予感がするよ」

 

これまで本作は主にライオス一行から見たダンジョンの生態系を、そしてライオス一行の生態系を描いてきた。けれどカブルー一行にシュロー一行、タンス夫妻や死体回収屋などこのダンジョンには彼らの他にも多数のパーティがいて、そこにはそれぞれ異なる目的や価値観、パーティのあり方――つまりそれぞれの生態系が存在している。今回のラストでカブルーがシュロー達に取り入ろうとするように、この2クール目はそうした異なる生態系同士が更に絡み合う話となっていくのだろう。いや、カブルーが劇中で予感しているような歴史的な出来事になるのなら、その絡み合い自体こそが本物の生態系と呼ぶべきものではあるまいか。

生態系は一つではない。そして異なる生態系が生物のように絡み合うこのダンジョンは、「ダンジョン飯」は、私達が考えていたより更に一次元上の生態系を覗かせているのである。

 

感想

以上、ダンジョン飯のアニメ14話レビューでした。本文でも触れましたが、カブルー達がライオスの探索をなぞっているような部分が面白いですね(2度の全滅からの帰還(ライオスの場合1話と前回)、同じ階層での生態系語りなどなど)。カブルーがライオスに似ているのはこの14話だけでもあちこちで言われているようなので、そこじゃなくて生態系を結論に持ってくるレビューを書けてホッとしました。
2クール目からはスケールが大きくなるぞ!というのがよく分かる回だったと思います。賑やかになっていくこれからがますます楽しみ。

 

 

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*1:東洋組なので出で立ちが大きく異なっているのも差異に拍車をかけている