ラブコメの危機――「愚かな天使は悪魔と踊る」5話レビュー&感想

©2023 アズマサワヨシ/KADOKAWA/かな天製作委員会

転換の「愚かな天使は悪魔と踊る」。5話では阿久津とリリーが急接近。だが、今回描かれているのはむしろラブコメの危機だ。

 

 

愚かな天使は悪魔と踊る 第5話「Turning point」

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1.ワンサイドゲームな前半

リリーは焦っていた。阿久津がやけにキラキラし、自分の美貌に動揺しないためだ。様々に手を尽くしてみるも空回りばかりで……?

 

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リリー(なんということじゃ。まさか渾身のラブコメマウントも間接チューネタも全く通用せんとは……)

 

大ピンチの「愚かな天使は悪魔と踊る」。前回リズ部長に振り回されるもそれでリリーと向き合う自信をつけた阿久津だったが、確かにその効果は絶大だ。この5話では二人の「オトしあい」バトルにおける脳内アバターであるボクサーのジョーとチャムが再登場するが、リリーのアバターにあたるチャムはジョーに猛攻撃を仕掛けるもかすりもしない。現実でもリリーがかわいらしい仕草で気を引こうとしても阿久津の方はまるで動転せず、落ち着いた素振りや予想外のリアクションで逆にリリーの方が動揺させられてしまう。ジョーのカウンターが見事にチャムの顎を捉えダウンを奪うように、前半の「ラブコメ」は阿久津とジョーのワンサイドゲームに終わっていると言える。まさに大ピンチ……だが、この5話の真の危機は後半にこそあった。

 

2.ラブコメの危機

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阿久津(天音、お前は……お前はなんで逃げない。なんでいつもみたいに罵倒しない。なんでそんなに、見つめてくる……)

 

阿久津に惨敗を喫したリリーは友人の夕香に「男子の心を一瞬で握り潰す方法」を相談した結果、彼を家に招いて手料理を振る舞う。胃袋を掴めば勝ちという算段だったのだろうが、そこには思わぬ展開が待っていた。食後に見ていた恋愛もののビデオのラブシーンにドギマギしたリリーが転びそうになったのを助けようとした阿久津は彼女に覆いかぶさるような形になってしまい、二人はそのまま唇を重ねそうになってしまったのだ。それは「オトしあい」などではない、本当にただただ二人が相手に吸い込まれるように引き合った結果であった。

 

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リリー「きゃああー、あっぶなーい!」

 

リリーが阿久津に痛撃を食らわせようと躍起になったこともあり、この5話前半の描写はオーバーなものだった。階段で転んでラブコメなマウントをとってやろうとするリリーの壁走りはバトルアニメをほうふつとさせるアクションだったし、その後の文字通りの「水も滴るいい女」を演じようとした際もリリーはペットボトルをわざと天高く飛ばして鎖で切断するなど大仰なことをしている。だが、後半にそうした過剰さは見られない。

 

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ジョー&チャム「なんかもー……好きにしろよ」

 

過剰さに代わってこの後半見られるもの。それは二人のあまりに自然なやりとりだ。阿久津は当初こそ身構えていたものの、彼女の手製のパスタの美味しさに驚くなどしている内にそうした警戒は薄れていった。リリーがパスタばかり食べていることをツッコんだり、逆に阿久津がピーマンがお気に入りなことがリリーの笑いのツボに入ってしまうやりとりなどに確かに笑いはあるが、その笑いはどちらかと言えば微笑ましい類の笑いだ。彼らがしているのは前半の「オトしあい」からはかけ離れた、ただのカップル未満な二人の親密なやりとり……彼らのアバターのはずのジョーとチャムが、グローブを外して逆に観る側に回ってしまうのも無理はない。ジョーがリング上を支配する前半はワンサイドゲームだったが、後半はそもそも試合が無効なノーゲームとなってしまったのだ。

 

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阿久津とリリーが偶然から吸い込まれるようにキスしそうになる場面、本作は静かだ。ジョーとチャムも私達も思わず息を呑んでしまうそれはラブストーリーのクライマックスと言っていいだろう。だが、ここにはラブはあってもコメディは無い。二人がバカを繰り広げる本作が、こんなコメディの欠片も無いベタベタなやりとりからカップルになっていいものか? 否。だから二人のキスはリリーのスマホのアラームによって中断されるのだろう。とはいえ、これは一時しのぎに過ぎない。

 

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リリー(おかしい、今までと全然違う。思い返す度に胸が苦しくなる……)

阿久津(俺は何をしていたんだ、相手は天使だってのに。でも天音、かわいかったな……)

 

未遂にこそ終わったものの、あわやキスしそうになった事態は二人の心に大きく影響を及ぼしていた。時間が経ったのに胸の高鳴りが収まらない、敵対勢力なのにかわいく見えて仕方ない……ラブコメはもっぱら無自覚や勘違いで話が回るものだから、彼らが自分の恋愛感情を自覚しそうなこの状況は正しくラブコメの危機と言ってよいだろう。

 

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阿久津「これってまさか!」
リリー「これってもしかして!」
阿久津&リリー「オトされてしまった……!?」

 

ただ、彼らは未だ自分達は「オトしあい」をしているつもりでいる。自分がこんなにもドキドキするのは、相手に「オトされた」のではと考えている。そこにまだコメディの、本作が繰り広げてきた「茶番」の要素は残されている。果たして、阿久津とリリーはこのラブコメの危機に打ち勝つことができるのだろうか?

 

 

感想

以上、かな天アニメ5話のレビューでした。そりゃジョーもチャムも「もう好きにしろよ」と言いたくもなる。アニメだけでもまだ中盤なのに!

 

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校内なのに思わずのじゃ口調で喋ってしまいそうになるリリー、ダメージの大きさが伺えてかわいかったです。さてさて次回は。

 

 

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