人機逆転――「メタリックルージュ」1話レビュー&感想

© BONES出渕裕/Project Rouge

科学と黒の「メタリックルージュ」は1話から放り出すようにして視聴者を火星に羽ばたかせる。見えてくるのは「らしからぬ」人造人間の姿だ。

 

 

メタリックルージュ #01「紅は暁に奏でる」

metallicrouge.jp

1.人機逆転

火星に人間と人造人間が暮らす世界。主人公の少女ルジュは歌手サラ・フィッツジェラルドの付き人を務めていた。クラブ・キャナルで美声を響かせ、ルジュにも優しいサラにはある秘密があり……?

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

ボンズ出渕裕のタッグが送る「メタリックルージュ」。SF的な世界をナレーションで説明したりしない語り口が特徴的だが、描写からは本作の社会が人間と「ネアン」と呼ばれる人造人間で構成されているのが見て取れる。人間へ逆らわせないためのアジモフ・コードなる制約を持たない、インモータルナインと呼ばれる特殊なネアンを主人公のルジュ・レッドスター、そして相棒のナオミ・アルトマンが倒していく……というのが大まかなあらすじのようだが、注目したいのはこのルジュとナオミの関係性である。

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

ナオミ(腕の一部をイオン加速させてる。おまけに高周波ブレード付き……!)

 

ルジュは一見すると少女にしか見えないがその正体はネアンであり、戦闘時はメタルルージュと呼ばれる姿に変身(ディフォルム)する機能を持つ。一方のナオミは冷静かつ分析力に長けており、バディとしてはきっちり役割が分担されているタイプと言える。だが、考えてみるとこの役割分担は少し奇妙だ。今回の戦闘でもナオミは敵が高周波ブレード付きの腕の一部をイオン加速させて飛ばしていると分析、攻撃パターンをルジュに送信しているのだが――通常、分析というのは機械の方が・・・・・適しているものではないか?

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

ルジュ「彼女は……違うと思う」
ナオミ「根拠を述べよ」
ルジュ「うーん……まあなんとなく、なんですけど」
ナオミ「話にならない」

 

戦闘時の分析に留まらず、ルジュとナオミのやりとりは一般的な人間と人造人間(機械)のイメージと正反対である。ルジュは歌手サラ・フィッツジェラルドの正体がインモータルナインの一人「煉獄のヴァイオラ」かどうかの潜入調査を行っていたが、相手は人間だと「なんとなく」で判断したりネアンの活動継続に必要なネクタルと呼ばれる物質の摂取ユニットを目視で探そうとしたりとその行動は人間的ないい加減さに満ちている。ルジュの意見に根拠を求め、鳥型の機械を送り込んでネクタル摂取の瞬間を撮影した人間・ナオミの方が遥かに論理的=機械的なのだ。

 

人間のナオミの方が機械に近く、人造人間のはずのルジュの方が人間的。この人機逆転はおそらく意図的なものだ。なぜなら、そうした逆転を起こしているのはこの二人だけではない。

 

 

2.ネアンの役割

© BONES出渕裕/Project Rouge

スタッフ「おいスカーレットさっさと片付けろ! ネアンのくせに怠けるな!」
ネアン「すみません」

 

本作においては機械のはずのネアン(人造人間)こそが人間的。それはネアン達の労働の様子を見れば分かる。例えば1話序盤では巨大な太陽光パネルか何かが人力で清掃されているが、清掃者達の顔に走る線を見れば彼らは全てネアンであることが分かる。またネアンはサラの歌うクラブ・キャナルでも使用されているが、その用途は重量物の運搬といった人間の肉体労働そのものであった。

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

機械による労働の代替はSF等ではよく描かれてきたし現実でも発展しているが、その際にネックとなるのは柔軟性の不足だ。細かな隙間の掃除であったり、滑りやすい箇所を判断して持ち替えての運搬であったり……人ならざる機械でそれを実現するには高精度のセンサーや複雑なプログラムが必要で、実現のハードルはなかなかに高いから結局人力でまかなわれることとなる。だが、それが人間と同じ思考力と柔軟な肉体を持つ機械であったら? 人間と変わらない機能を持ちながらいくら粗雑に扱っても許される、尊厳や人権を考慮せず済む存在があればこれほど便利な道具はないだろう*1。だが、それはもはや人間と何も変わりはしないのではないか。

 

3.らしからぬ者達

人間として扱われないネアンがむしろ人間的。これを象徴するのが今回登場するインモータルナイン、ジャロン・フェイトとサラ・フィッツジェラルドである。

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

ジャロン「だーれー……だ?」

 

ジャロンは道化師じみた振る舞いと変身形態が示すように詐術に長けたネアンだが、特徴的なのはその詐術がデータというより思考に働きかける類のものであることだ。固有の擬態能力でメタルルージュに化け工作を行ってもいるが、その目的の一つは温厚なサラを戦わせるべくルジュへの疑念を植え付けることにあった。イカサマに使われることもあるトランプを持ち歩いている点も含め、ジャロンは極めてアナログ的・・・・・な、すなわち人間的な詐術に長けていると言える。

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

サラ「ルジュは紅い奴じゃなかった、あの子は関係なかった!」

 

そして当然、そんな彼に騙されるサラもまた極めて人間的である。なにせジャロンがメタルルージュに化けていたと知った時の彼女の反応は「あんたの擬態能力を忘れてたわ」であった。「忘れてた」! 脚本の都合もあろうが、ネアンは記憶を忘れることができるのだ。そもそもがサラはルジュを付き人にしたのも家出少女を拾うような経緯であったし、ジャロンからは自分だけではルジュを殺せなかったのではと甘さを指摘されている。こうした甘さや迷いは、機械からはもっとも程遠い人間の思考そのものであろう。

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

サラ「教えろ、私達と人間、どこが違うかを!」

 

ジャロンの工作もあって共に戦闘形態に変身したルジュとサラは、その鋼鉄のボディで人間には到底不可能な戦いを行う。高周波ブレード付きの腕をイオン加速させて飛ばしたり、両肩から火炎を放つ人間などサイボーグでもなければいはしない。けれどただ歌を歌い幸せになりたかっただけで、「私は生きる、生き残る!」と叫ぶサラのどこが人間と違うというのか? おそらく確たる理由があるわけでなく、任務に従ってサラを抹殺するだけのルジュとどちらの方がより人間的か? 勝利したのはルジュの方だが、機能停止の前にルジュと初めて会った日の雨を思い出すサラの姿は最後まで人間的であった。

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

ルジュ「次はどこ?」
ナオミ「しし……もう決まってる!」

 

戦いの最中サラに問われるように、ルジュはおそらく人間とネアンのどちらとも言えない「何者」かの段階にある。そもそもがこの世界の人間や人造人間は「らしく」ないのだから、自分が何者か定義することは彼女にとって大きな意味を持つことだろう。放たれた小鳥にも等しい紅の少女はきっと、「らしからぬ者達」に満ちたこの世界で己を知っていくのである。

 

感想

というわけでメタリックルージュの1話レビューでした。近年の一般的な作りとは大きく異なる話の作りに困惑も困惑、機械が人間のようなだけでなく人間が機械のようでもあるのでは?と思いつくまで延々視聴を繰り返すことになりました。「AIに代替されない能力を身に着けよう!」と喧伝される時世ですが、人間でないとできないがやりたくないことを人間そっくりの別物に押し付ける世界というのは発想が逆転していて面白いなと思います(もちろん「人間扱い」って何? って話でもあるので、ネアン達はおそらく現実の人間に置き換えられる存在でもある)。

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

ナオミ「すみませーん! チャーハン大盛りに回鍋肉と麻婆豆腐にジャージャー麺2つ!」

 

ラーメンをスープまで完飲した上での怒涛の注文。麻婆豆腐までは行ける人も結構いそうですが、ジャージャー麺2つでさすがに皆脱落したのでは。

 

© BONES出渕裕/Project Rouge

そういう場面じゃないのだが胸のなめらかな動きに見入ってしまった。

 

全体としては思った以上にハードで、毎回作品と取っ組み合いすることになりそう。緊張感のある視聴時間になるんじゃないかと期待の高まる1話でした。

 

 

<いいねやコメント等、反応いただけると励みになります>

*1:明らかに調査に不向きなルジュが潜入を命じられたのも、始末された場合に損なわれるのが人命でないというのが大きいのではないか?