パーティはバジリスク――「ダンジョン飯」2話レビュー&感想

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

探求続く「ダンジョン飯」。2話ではパーティの一体感が増していく。それは例えるならバジリスクにも似ている。

 

 

ダンジョン飯 第2話「ローストバジリスク/オムレツ/かき揚げ」

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1.パーティはバジリスク

母の手料理がダンジョン食材に変わっている悪夢に飛び起きたマルシルは、他のパーティが塩漬け肉で朝食を摂るのが羨ましくてならない。センシの提案もあって、蛇と鶏の合体したような魔物・バジリスクを狩りに行くが……?

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マルシル「つまり私の専門分野! みんな、今回は私の指示に従って!」

 

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チルチャック「俺がもっとも嫌いなのは、仕事を他人に邪魔されることだ!」

 

美味しさ求める「ダンジョン飯」。2話は3つの料理が登場するが、内容としては主人公ライオスのパーティメンバーであるマルシルとチルチャックの二人にスポットライトの当たる回だ。エルフのマルシルは魔法使い、ハーフフットのチルチャックは罠発見や鍵開けの専門家でそれぞれパーティになくてはならない存在だが、今回の話では二人は共に焦りやいらだちを見せる。レッドドラゴンに食われたライオスの妹ファリンを速やかに助け出すために始めた魔物食が未知の分野で、新メンバーにして魔物食の達人センシのやることが自分の領分に関わってくるためだ。

 

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センシ「叫ぶ前に首を落とせば声も出ない」

 

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センシ「この香り、味……オリーブオイルだなこりゃ」
チルチャック「嘘だろ!?」

 

叫び声で人を狂死させる植物マンドレイクを叫ぶ前に首を落として採取するだとか、火や煮えた油の罠を料理に使用するだとかいったセンシの発想は二人からすれば全く想像の範囲外で、自分のアイデンティティを崩されかねない驚きが今回の二人にはある。パーティにおけるその衝突は、例えるなら体が1つなのに脳が2つあるが故の混乱のようなものだろう。そんな生物はいない? 否、この2話で私達は「ダンジョン飯」にはそんな魔物がいるのを見ているはずだ。胴は鶏、尾は蛇、その牙と蹴爪には猛毒を持つという蛇の王バジリスク……肉と卵の両方でもってライオス達の胃袋を満たしてくれた今回の功労者である。

 

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バジリスクを狩るためにライオス達が採った方法、それは鶏の頭と蛇の頭にそれぞれ異なる方向から同時攻撃するというものだった。尾にも頭のあるこの魔物は一見すると死角がないようだが、体はしょせん一つのため別方向から注意を引けば2つの脳に体が混乱する弱点を抱えている。複数の人間(脳)が1つの共同体(肉体)を作るパーティは実はバジリスクによく似ており、マルシルやチルチャックの困惑で生まれる停滞は彼女達とセンシという2つの頭脳によって肉体が混乱するのとそう変わりはしないのだ。

 

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センシ「迷宮を探索する体力づくりのため肉の脂は大事だが、それだけではいかん。栄養不足は魔物より恐ろしい」

 

センシの発想は身も蓋もない。彼の手法は魔術や罠の研鑽を積んできたマルシルやチルチャックがそれ故に囚われてしまっている常識を覆すような、料理のための科学的で合理的なやり方だ。それは彼が迷宮での食事でも栄養学的観点を欠かさぬ点からも言えるだろう。異世界で「チート的活躍」をするに足りる異才がこのドワーフにはある。ただ、本作はセンシが料理で無双する話ではない。

 

 

2.一緒になればより美味しい

センシの発想は合理的だが全てではなく、あくまでバジリスクの一方の頭に過ぎない。それはこの2話でマルシルとチルチャックが結局はセンシから敬意を払われるところからも明らかだ。

 

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チルチャック「マルシルの方が渋みが無くてまろやかな味してる」
ライオス「うん、美味しい」

 

マルシルはセンシのようなやり方でマンドレイクが採れるなら専門書にもそう書いてあるはずだと疑問視し、ライオスやチルチャックがセンシに倣う中1人専門書に近いやり方でマンドレイクを採取しようとした。よく躾けた犬の代わりに大蝙蝠を使う彼女のやり方は大変な失敗も伴ったが、センシは叫ばせたマンドレイクはアクが抜けてまろやかになっているのを発見する。料理のための効率的なやり方で長年マンドレイクを食ってきたセンシがマルシルに気付かされたのは、一手間で味が変わる料理の基本を自分が見失っていた事実であった。

 

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チルチャック「言っとくけど、俺がいない時に真似しようとすんなよ!? 間違いなく死ぬから」
センシ「分かっている。お前の罠の扱いは真似できぬ技術だ、本当に素晴らしい」

 

またセンシは確かに罠を料理に使うことを発想したが、それができたのは初挑戦ながら罠の火力調整すらできるチルチャックの技術あってのことだ。だから完成したかき揚げ、ダンジョンで食べることなど到底叶わぬはずだった揚げ物に舌鼓を打ちながら、センシは彼の腕前に兜を脱ぐ。この先またパーティから離れることがあれば、もう一人ではあの罠を料理に使えないと思うと残念だ、と。そんな彼の言葉にチルチャックは、センシも料理のことを教えてくれたからと自分も罠のことを少し教えることを約束する。この2話はセンシの魔物食にマルシルやチルチャックが馴染んでいくだけでなく、センシが二人へ敬意を払うようにもなっていく回でもあった。

 

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この2話のラスト、ナレーションは言う。「肉の代わりにパンはなれない、パンの代わりも肉にはできない。が、一緒になればより美味しい。人も飯も変わらないのだ」と。これは役割分担のことを言っているようだけどもそれだけではない。犬の代わりに大蝙蝠を使ったマルシルのやり方にはライオスのうんちくが絡んでいたし、チルチャックとセンシはどこまでが罠の領分でどこからが料理の領分なのかをずいぶん話し合っていた。こうした隣接したり重なり合った領域はしばしば人を衝突させるけれど、それはけしてバジリスクの混乱のように隙を生むばかりではない。むしろああいった「かっこいい」魔物を作り出すためののりしろのようなものだ。鶏と蛇を、パンと肉を一緒にしてより美味しくするための接点だ。

 

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

人も飯も、パーティも魔物も、得手不得手も単独では補えない栄養も、不完全な全てはそれゆえに一緒になるのが美味しい。ダンジョン飯」の美味さ面白さはすなわち、バジリスクのように異なるものが一緒になって生まれる美味さ面白さなのである。

 

感想

というわけでダンジョン飯のアニメ2話レビューでした。今回はテーマをずばりナレーションが語っていてこのブログで今更書くことある?という話なのですが、視聴していくとバジリスクの弱点が印象に残りそこからレビューを広げていくことができました。センシの魔物食ベテランの一言では片付かない面倒くささも含めて、パーティの皆が好きになっていく回だったなと思います。

 

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

マンドレイクの声を聞いたマルシルからそこはかとなく漂うちょぼらうにょぽみ先生感。FXで有り金全部溶かす人の顔してる。

 

 

 

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