嘘つき悪魔と正直者の天使――「愚かな天使は悪魔と踊る」1話レビュー&感想

©2023 アズマサワヨシ/KADOKAWA/かな天製作委員会

新感覚ハラグロラブコメ「愚かな天使は悪魔と踊る」。1話で出会う阿久津と天音は、まるで悪魔と天使のように対照的だ。

 

 

愚かな天使は悪魔と踊る 第1話「Dance with the devil」

 

 

1.悪魔・阿久津雅虎

季節外れの転校生・阿久津雅虎は魔界を救うカリスマ人材を求めて地上へ降り立った悪魔である。同じクラスの美少女・天音リリーに心奪われた阿久津はふとしたきっかけで正体を明かし天音をスカウトしようとするが、なんと彼女の正体は悪魔と敵対する天使で……!?

 

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阿久津「実は俺、悪魔なんだ」

 

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天音「天の使い、かのう?」

 

電撃マオウにてアズマサワヨシが連載中の漫画をアニメ化した「愚かな天使は悪魔と踊る」。主人公の阿久津雅虎とヒロインの天音リリーが繰り広げるラブコメだが、最大の特徴は阿久津の正体が悪魔、天音の正体が天使である点だ。悪魔と天使は言うまでもなく対照的な存在であり、この1話はそれが如実に現れた回となっている。

 

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阿久津「あ、あのさ」
天音「ん?」
阿久津(……何を言えばいいんだ? えーなんかこういい感じのセリフを……)

 

多くの視聴者が阿久津に対して抱く第一印象はおそらく、「正直な奴」だろう。
魔界を救えるようなカリスマを持った人間をスカウトしにやってきた彼はしかし会話の緒を見つけるのがさほど上手というわけではないし、トラックに異世界転生させられはねられそうになった天音を救うためうっかり悪魔の力をさらけ出してしまったりする。悪魔とはいうが噓のつけないまっすぐな奴――そういう印象は間違ってはいまい。しかしおそらく十分でもない。

 

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阿久津「だから俺としては君に……天音に協力してもらえないかと思ってる」

 

阿久津はクラスで出会った少女・天音リリーに一目で心奪われるが、その好意を素直に伝えようとはしなかった。他のクラスメイトも引きつける彼女を使命に適うカリスマ的存在と認識し、魔界へ勧誘しようとしたのだ。また彼は天音を交通事故から救った後に自分は悪魔だと明かし勧誘したが、これも相手の反応を見て決めた打算的な側面がある。

魔界を救う人材をスカウトすべくやってきた阿久津は、どれだけ正直になってもその使命から意識が離れられない。天音の正体が敵対勢力の天使と知った後半では尚更で、彼は自分が一目惚れした事実だけはけして認めない。そこにだけは正直・・になれない。「正直に振る舞うほど嘘つきになる」、面倒極まりない悪魔が阿久津雅虎なのである。では、対する天音の方はどうだろうか?

 

 

2.嘘つき悪魔と正直者の天使

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阿久津雅虎が正直に振る舞うほど嘘つきになる悪魔なら、天音リリーはどんな天使なのか? それは彼女の嘘をたどれば見えてくる。

 

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天音「ほーれ首輪をつけてしまうぞ? 今首を1周したぞ? なかなかいい声で鳴くではないか、つい気合が入ってしまうわ」

 

嘘の上手さで比べた時、天音は阿久津より遥かに格上だ。(魔界の上司の指示があったとはいえ)阿久津のように転入初日に薄毛を装って即ネタばらしする奇行には走らないし、阿久津は彼女の楚々とした振る舞いが猫を被っているなどとは考えもしなかった。そして徹底しているのは、天使の正体を明かした後も彼女には「嘘」が満ちている点である。
天音は圧倒的な強さと鎖の結界で阿久津を縛り付け、彼を殺さず監視下において協力させることにし、下僕の証として首輪を着けようとする。またがって(ベルトの)穴に棒を通すシチュエーションやイメージとして散る鼻、その後にぐすぐす泣く阿久津と(線香花火の)煙をくゆらせる天音といった構図はふざけた煽りを入れるまでもなく性別の入れ替わった性交じみていて、すなわち「嘘」だ。天使にして口調もいわゆる「のじゃロリ」の本性をあらわにしてもなお、天音の存在は嘘に満ちている。

 

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広田「なんかこう……天使って感じ?」

 

天音リリーは嘘だらけである。しかし一方で面白いことに、彼女の嘘は単なる嘘ではない。クラスメートの一人にして女好き、既に天音に5回振られているという広田は劇中で彼女を「天使って感じ?」と例えているが、これはその正体が天使と知っていればけして出てこない表現であろう。人間を「人間って感じ?」とはわざわざ言わないように、自分が天使でないと嘘をついているからこそ彼女は正しく天使に例えられている。すなわち阿久津と逆に「嘘つきに振る舞うほど正直になる」のが天音リリーなのだ。

 

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阿久津は正直に振る舞うが故に嘘をついた。心奪われているにも関わらず、天音に伝えたのは好意ではなく勧誘であった。
天音は嘘をつくが故に正直に振る舞った。殺し合いで終わるはずだった二人の関係は嘘の上でなまじな恋人以上に密接になり、離れがたくなっている。

 

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悪魔と天使は対照的な存在である。であれば「正直に振る舞うほど嘘つきになる」阿久津と「嘘つきに振る舞うほど正直になる」天音の正反対さはまさしく悪魔と天使そのものだ。そしてラブコメの面白さとは、一つにはそうした相反する存在がぶっかったり離れたりしながら近づいていくところにあるのではなかったか。
嘘つき悪魔と正直者の天使が出会うが故に、本作はラブコメに必要な対照性を最大限に備えているのだ。

 

感想

というわけで、かな天のアニメ1話レビューでした。ここで1話終わるんかい!?と驚きましたがここで終わるならこんな感じのまとめになるのかな。リリーが性格といい造形といい、天使じゃないと許されないキャラをしている……さてさて、二人の関係がここからどのように変わっていくのか見守りたいと思います。

 

 

 

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