レッドドラゴンに食われるな――「ダンジョン飯」11話レビュー&感想

©九井諒子KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会

死中に活を求める「ダンジョン飯」。11話ではレッドドラゴンとの決戦が繰り広げられる。飯を作らずとも、ダンジョン飯が食事の概念から離れることはない。

 

 

ダンジョン飯 第11話「炎竜1」

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1.暴食のレッドドラゴン

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ファリンを救うべく、遂にレッドドラゴンへ挑むライオス達。しかし敵の力は思った以上に強大で、綿密に立てたはずの作戦は空振りばかり……果たして勝つことができるのか?

 

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ライオス「おお、本当に鱗を貫通した!」
ライオス(……しかし、この刀身ではどこを切りつけようが致命傷など与えることはできないのでは……

 

赤く燃える「ダンジョン飯」。11話はライオス達が追いかけてきたレッドドラゴンとの決戦回だ。1話で挑んだ時と比べ戦力不足の否めない彼らは代わりに様々な策を立てていたが、そのことごとくが破られライオス達は苦戦を強いられることとなる。とはいえドラゴンはモンスターの王、ライオス達の策に策で対抗したわけではない。レッドドラゴンがしたのは言うなら単に炎を吐いただけ、暴れただけ――だが巨大にして強大な力を持つドラゴンがやったなら、それだけで十分な脅威になる。アダマントの鍋で炎は遮れても熱伝導までは防げないし、ミスリルの包丁なら硬い竜燐も貫通できるが巨体に対してはいかんせんサイズが小さ過ぎて致命傷を与えられない。立てる策を誤っているというより、相手のあまりの大きさに策が成立していないのが今回の戦いなのだ。例えるなら、ライオス達の策はレッドドラゴン食べられて・・・・・しまっている。

 

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センシ「ライオス、もう分かっているだろう。今までお前が食ってきた魔物の中に死力を尽くさないものがいたか? ここでは食うか食われるか、必死にならなければ食われるのはこちらだ! 腹をくくれ!」

 

ダンジョン飯」らしい鍋や包丁の活用も功を奏さずレッドドラゴンの股ぐらに追い込まれたライオスは、手元を離れた剣の回収のため仲間の一人センシが陽動に出るのを止めようとして逆に一喝されてしまう。今まで食べた魔物も皆死力を尽くしてきたはずだ、ここは「食うか食われるか」の世界なのだ……と。
レッドドラゴンの強大さの前に打つ手を見失ったライオスはこの時、完全に敵に呑まれていた。いわば食われていたのであり、それでは勝てるものも勝てなくなるのは道理だ。なら逆に言えば、レッドドラゴンを打ち倒すためには「食われない」ものをてこに立ち向かえばよい。

 

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ライオス「うおおおおおーーーっ!」

 

センシともう一人の仲間チルチャックの協力で剣を取り戻したライオスは、策のため別行動をとっていた魔法使いのマルシルと最後の賭けに出る。それは高所でアダマントの鍋に乗ったライオスの足元をマルシルが爆破し、その勢いで顔面に飛びついたレッドドラゴンに敢えて自分の片足を食わせて宙ぶらりんになり弱点である首の下の逆鱗を突き刺すという捨て身の策であった。片足以外は「食われない」状況を作り出すこの策は確かに理に適っているが、よほど腹をくくらなければできない行動なのは言うまでもないだろう。魂をレッドドラゴンに「食われなかった」からこそ、ライオスはこんな策を実行できた。……だが、戦いはまだ終わってはいない。

 

2.レッドドラゴンに食われるな

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ライオス「さあて、腹の中身を確認してみよう」

 

死闘と呼ぶ他ない激しい戦いの末、ライオス達はレッドドラゴンを打ち倒した。だが、それは彼らの勝利なのか? 否。ライオス達は名誉や冒険心でレッドドラゴンに挑んだわけではない。一行の目的はレッドドラゴンに食われたライオスの妹ファリンの亡骸の回収と蘇生にあるから、それが終わるまではライオス達は勝ったとは言えない。レッドドラゴンとの戦いは――「食うか食われるか」は終わったとは言えない。

 

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ライオス「空……」

 

強大な術がかけられ蘇生が容易で「死そのものが禁じられている」とまで言われているとはいえ、この迷宮でも蘇生には限度がある。亡骸がレッドドラゴンに消化されればもはや蘇らせるのは不可能だからとライオス達は急ぎレッドドラゴンを追いかけてきたわけだが、胃袋や腸を開いてみてもそこには骨の一片も残っていなかった。倒したのはファリンを食べた個体に間違いなく、亡骸がないなら既に消化されてしまったのではないか。本来多くの時間を寝て過ごすはずがこの個体はなぜか活発に活動を続けていたが、そのせいで消化が進んだのではないか……ライオス達の頭をよぎる諦めは、死してなお続くレッドドラゴンの攻撃である。打ち倒したとしても心を絶望に食われた・・・・なら、結局は敵の勝利だ。そしてこの戦いでもやはり勝敗は「食われない」ものを見つけられるかどうかにかかっている。

 

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マルシル「髪の毛……それって!」
ライオス「ほぐしてみよう! 人骨が混じっているかもしれない」

 

ファリンを助けられなかったとマルシルが悲嘆に暮れる中、ライオスがレッドドラゴンの体内から引っ張り出したもの。それはレッドラゴンが炎の息の燃料を溜め込む特有の器官であった。獲物を丸呑みにする動物の一部は消化しにくい毛や骨を体内でまとめて吐き出すが、レッドドラゴンの場合はそれを吐くのではなく炎の息の燃料にする。すなわちこの器官には未消化のファリンの亡骸が残っている可能性が、「食われていない」可能性が秘められている。事実、少し漁ったところでライオスが見つけたのは妹のものと思しき髪の毛であった。

 

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ライオス「ファ、ファリン……!?」

 

レッドドラゴンが食べたワーグなどと一緒になった毛や骨の塊をほぐしていったライオス達は、遂にそこにファリンを発見する。彼女が使っていた杖、そしておそらく彼女だったであろう頭蓋骨・・・。いくら死を禁じられているとはいえ、こんな状態から蘇生が可能なのか? 答えはまだ闇の中にあり、レッドドラゴンとの戦いはなおも終わったとは言えない。それでもライオス達が諦めないなら、彼らの心はレッドドラゴンに「食われ」はしないだろう。料理こそ登場せずとも、ダンジョン飯が食事の概念から離れることはけしてないのである。

 

感想

というわけでダンジョン飯のアニメ11話レビューでした。「死中に活」「溶け合う生死」みたいなイメージを自分の中でまとめていくとこんなレビューになった次第です。
グロめの描写は控え目な本アニメですが、今回は救護や解体などもあって血の赤が目立つ内容でした。ライオスの足のケガを魔法で治す時、マルシルの手についた血も移動していくのが芸細だったなと思います。治療できるとはいえよくあんな戦法を実行できたなライオス……
さてさて、頭蓋骨で発見されたファリンは蘇生できるのかどうなのか。次回の決着が楽しみです。