沈黙の縁――「サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと」7話レビュー&感想

©2024 依空まつり・藤実なんな/KADOKAWA/セレンディア学園広報部

背負う者の「サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと」。第7話ではモニカの出番はさほど多くない。が、それでも”無詠唱魔術”は発動している。

 

 

サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと 第7話「悪役令嬢」

silentwitch.net

1.モニカ以外の無詠唱魔術

社交ダンスの再試験になんとか合格したモニカだったが、お茶会での一件以来後をつけてくるクローディアの視線に戸惑っていた。加えて、ラナの件で恨まれているカロラインからお茶会の招待を受け……?

 

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事が大きくなる「サイレント・ウィッチ 沈黙の魔女の隠しごと」。第7話はモニカの不完全さが示される回だ。七賢人の1人に数えられる無詠唱魔術の使い手、苦手な対人コミュニケーションも克服すべく努力中の彼女だが、その2つが解決すれば無敵になれるわけではない。今回彼女は毒入りの紅茶を警戒することなく飲んでしまい、自分では対処できず危うく命を落とすところであった。
同じく七賢人が1人ルイスの結界が内部では機能しないように、人間が1人でできることには限りがある。そして一方で、モニカにできることが他人にできないとも限らない。それが彼女の代名詞たる無詠唱魔術であってもだ。

 

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この7話、モニカに代わり「無詠唱魔術」を行使するのは彼女の支援者、イザベル・ノートン嬢である。領民の恩人たるモニカを殺されかかって腸が煮えくり返ったのは想像に難くないが、今の彼女は伯爵家の養女”モニカ・ノートン”を嫌う悪役令嬢を演じるのが務め。どれほど怒りを抱えていようとそれを表に出してはならない。「詠唱」してはならない。

 

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イザベルの無詠唱魔術は、見ているこちらが恐ろしくなるほど巧みである。モニカに毒を盛った貴族令嬢のカロラインに同じ手口を使ったと見せて意趣返し、更には家の名誉が傷つけられたとして相手の伯爵家への対竜害支援打ち切りを示唆……モニカを嫌っている体を崩さぬまま、他の貴族の子女にすらカロラインと同じことをしないよう無言のプレッシャーを与えるその魔術はあまりに強大だ。単に責任感が強い、あるいは悪役令嬢をノリノリで演じる少女といったイメージを無意識に更新した視聴者も多いことだろう。ただ、この話には少し恐ろしさもある。

 

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カロラインは確かに毒を盛ったが、モニカに殺意があったわけではない。彼女の知識ではそれは「紅茶に入れればひどく苦くなる目薬」でしかなく、苦いコーヒーを飲み慣れたモニカが紅茶を飲み干すのは予想外の出来事であった。モニカの体の小ささが毒の効果を強めてしまった面もあり、今回の事件には多分に不幸な事故が重なってもいるのだ。けれど第二王子フェリクスはこの事件を毒殺未遂として扱ったし、イザベルによってことは彼女個人どころか故郷の滅亡にまで繋がりかねない大問題になってしまった。

 

はっきり言えば、今回カロラインが受けた罰は過大である。けれどそれが通ってしまうところに、今回の話のもう1つの「無詠唱魔術」がある。

 

 

2.沈黙の縁

カロラインが身を以て味わったもう1つの、そして最大の無詠唱魔術。一言で言えばそれは「縁」である。何を言うかと思うかもしれないが、まずは今回の描写を拾ってみよう。

 

©2024 依空まつり・藤実なんな/KADOKAWA/セレンディア学園広報部

毒を飲んで意識を失う際、モニカが思い出したのは異端審問による父の処刑とその後であった。父の生きた証である数字を必死に覚えようとしたこと、兄のとばっちりで自らも商売が立ち行かなくなった叔父に虐待されたこと……モニカの父の処刑は彼一人の命に留まらず、娘の人生や弟の生活にまで影響を及ぼした。それは「縁」になったということだ。

またモニカは表情の読めない貴族令嬢・クローディアに追い回されるのに困惑していたが、その理由が生徒会庶務のニール――なんとクローディアと婚約している――にダンスの練習に付き合ってもらったことへのヤキモチだったと聞けばさすがに驚かずにいられない。おまけに彼女は同じく生徒会副会長のシリルの義弟でもあり、モニカとクローディアの「縁」は思いがけない形で繋がっていたのだった。

 

©2024 依空まつり・藤実なんな/KADOKAWA/セレンディア学園広報部

目に見えないから軽視してしまいがちだが、「縁」には大きな力がある。イザベルがここまでモニカに尽くしてくれるのは彼女が黒竜から領民を守ったためだし、フェリクスが今回の事件を腹に据えかねたのはモニカの涙に自分の過去を重ね見たからだ。またクローディアが居合わせてくれなければモニカは今回中毒死していたかもしれず、ヤキモチが結果的に彼女の命を救ったのはこれもまた縁というものだろう。カロラインが今回踏んでしまったのもそれだ。彼女は自分のあさはかさから、わらしべ長者をひっくり返したように悪縁を引き寄せてしまった。今回の出来事は彼女の受けるべき報いとは言い難いが、縁にはそういう理不尽な力があるのだ。時に魔法のように不思議な出来事を引き起こすそれは、運命ではないが一種の数理の産物ではあるのかもしれない*1

 

©2024 依空まつり・藤実なんな/KADOKAWA/セレンディア学園広報部

リン「第二王子を護衛する側の沈黙の魔女殿が、なぜ毒殺されかけているのでしょうか?」
モニカ・ネロ「なんででしょうね……」

 

自らをアピールすることなく、しかし時に想像を越えた規模で私たちに降り掛かってくる「縁」。それは、沈黙の魔女が使うよりも恐ろしい無詠唱魔術なのである。

 

 

感想

以上、サイレント・ウィッチのアニメ7話レビューでした。本来は更新は日曜ですが、17日は刀使ノ巫女の上映会に行ってくるので例外的に土曜中(といってもほぼ日が変わりかけてますが……)の更新となった次第です。1日2回の更新は負担が大きいので、今回はあくまで例外。

 

www.humax-cinema.co.jp


この話はカロラインが責められること自体は当然である一方、受けた仕打ちが適切とは思えず。それを正当化も単純化もせずに読んでいくならどんな話なのだろう?と考えているとこんな内容になりました。(アーロンと)セルマのことも思い出しちゃいますね……作品全体としてどういう意識なのかは今後見ていきたいと思います。想像していたよりハードそう。

 

 

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*1:モニカの父を襲った悪縁におそらく自業自得の側面はない。それでもなお、数理は存在してしまう