墜落と堕落――「機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)」8話レビュー&感想

© 創通・サンライズ

落下の「機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)」。第8話ではシャアが消えるまで、そして思わぬ後半が描かれる。それは墜落と堕落の物語。

 

 

機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス) 第8話「月に墜(堕)ちる」

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1.月に墜ちたもの、月に堕ちたもの

かつて赤い彗星が行方不明になった「ゼクノヴァ」とはなんだったのか。そして、ニャアンはキシリアから歓待を受け……

 

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月の「機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)」。第8話は映画「Beginning」のTV未放送パートとニャアンのその後に分かれている。脚本も庵野秀明榎戸洋司がそれぞれ書いており事実上の2本立てだ。とはいえ、タイトルが「月に墜ちる」「月に墜ちる」と並べてあるなら、そこにひとつなぎの物語を見ることも可能なはずである。

 

前半についてだが、月面都市グラナダへ宇宙要塞ソロモンを落とそうとする連邦とジオンの戦いでは、結果的に落下は阻止される。しかし副題は「月に墜ちる」だ。ここではソロモン以外の何かが月へ墜ちている。

 

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ソロモンに代わり月に落ちたもの。それはおそらくシャア・アズナブル=「赤い彗星」だ。彼はたった4隻の艦隊で殴り込みをかけ、ソロモン落下を阻止するも行方不明になるという英雄的な足跡を残していった。作戦の成否を託したザビ家のキシリア、共に戦ったシャリア・ブルの心には拭いがたく彼の影が残っており、グラナダの歴史はもはやシャア抜きには語れない。ゼクノヴァなる現象と共に消えた彼は、ある意味隕石以上の落下痕を残していった――月に「墜ちた」のだ。

 

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一方、後半「月に墜ちる」で強調されるのは人の信用できなさである。ジオンのミゲルという男性はテストパイロットに選ばれた同期2人を毒殺していたし、彼に毒を渡したのはキシリアの側近アサーヴであった。総帥ギレンとキシリアの暗闘が繰り広げられる月面都市では、誰が自分を裏切っているか分からない。誰が「堕ちて」いるか分からない。

 

月に墜ち、月に堕ちる。第8話の前後半は副題通りの内容を示している。そしてこの回の副題が「月に墜(堕)ちる」なら、両者は当然ダブルミーニングにもなっていなければならない。

 

2.墜落と堕落

「月に墜(堕)ちる」のダブルミーニング。それを探すには当然、前半に後半の、後半に前半の要素を見ればいい。

 

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まず前半で言えば、シャアの作戦には裏があった。彼は連邦とザビ家の共倒れを狙っており、乾坤一擲の作戦は絶対に成功するはずがなかったのだ。グラナダの命運を託されながら裏切るシャアは前半既に「堕ちて」いた。

そして後半、ジークアクス2号機の起動を阻止せんとするミゲルに銃を向けられた少女ニャアンは、その機体ジフレドをなんと搭乗すらせず操りミゲルを葬ってみせる。ディアブロ(悪魔)に例えられるこの起動劇が、ギレン派に相当な衝撃を与えるのは想像に難くないだろう。アクシズ・ショックならぬ赤い彗星ショックだった前半と対になる「ニャアン・ショック」……彼女はこの第8話後半、月に「墜ちて」きた。つまり前半に後半が、後半に前半がある。

 

共にグラナダを舞台とするこの第8話は、劇中で5年を隔てながらもダブルミーニングでつながっている。そして、もう一つ考えたいのはグラナダが月の裏側にあることだ。

 

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月の裏側は地球からは常に隠れていて、私たちはそこに何があるのか見ることができない。シャアの場合で言えば、この第8話で彼はゼクノヴァなる現象に遭遇し、「刻が見える」という謎の通信を残して姿を消した。赤い彗星が何を見たのか――そして彼が企てていた作戦の失敗を知る者はいない。真実は月の裏側にある。

また後半、ミゲルとアサーヴは友人や主人を裏切ったが、彼らはそれを自分たちの良心からだと主張した。本心とも言い訳ともとれるが、どちらも殺害された以上その内心が明らかになることはもうないだろう。これもまた、真実は月の裏側だ。「月に墜(堕)ちる」この第8話には、どちらも裏側がある。

 

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第8話ラスト、囚われの身となっていたマチュがソドンを脱走し、地球へ向かったと知ったニャアンは地球がどこか尋ねるがグラナダからは見えない。地球から月の裏側が見えないのと同様に月の裏側からも地球は見えず、両者は互いを窺い知ることができない。おそらくそれは今のマチュとニャアンの関係そのものであり、ジフレドを得たニャアンは今や全くマチュの月となったのだろう。再会する時があったとして、彼女たちが心を通わせるのは地球と月の裏側が互いを見るのと同じくらい困難なのではあるまいか。それは物理的な距離だけで測れない、もっと厄介な心理的距離の現れようである。

 

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第8話は墜落と堕落の物語である。マチュと離れ、ニャアンは月に――月の裏側に墜(堕)ちたのだ。

 

感想

以上、ジークアクスの8話レビューでした。ガンダムで2本立て話を考える日が来るとは思いもよらず。シロウズだとかガンダムフレドだとか今後の伏線もありましたがどんなことになるんでしょう。エヴァっぽいと言われるのはまあ、そうなんでしょうね。
マチュに出番はないがインパクトがあったのは素直にしてやられた感じです。さてさて次回は。

 

 

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