囚われの魔獣王――「クレバテス-魔獣の王と赤子と屍の勇者-」1話レビュー&感想

©Yuji Iwahara/LDF/クレバテス製作委員会

拘束の「クレバテス-魔獣の王と赤子と屍の勇者-」。第1話では勇者と魔物の戦いが思わぬところに転がっていく。これは、魔獣の王が囚われる話。

 

 

クレバテス-魔獣の王と赤子と屍の勇者- 第1話「魔獣の王」

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1.囚われの魔獣王

大地の四方を魔獣によって閉ざされた世界、エドセア。幼き頃未踏の地を夢見た少女アリシアは、勇者の1人として南の魔獣王クレバテスの討伐に向かっていた。国王から至宝と呼ばれる強力な武器を授かった13人の勇者たちの命がけの戦いが始まる……!

 

「地球美紗樹」、「Dimension W」など重厚な世界観を持つ漫画を描き続ける岩原裕二の最新作をアニメ化した「クレバテス-魔獣の王と赤子と屍の勇者-」。今度の物語はRPGチックな王道ファンタジー……と思いきやそう単純ではなく、1話から予測のつかない展開で視聴者の目を釘付けにしてくれる。そして特に面白いのは、タイトルにもある魔獣王が囚われる物語である点だ。

 

1時間に枠を拡大して描かれる第1話、魔獣王クレバテスの強さは圧倒的である。至宝と呼ばれる武器を授かった13人の勇者は並の魔獣では束になっても敵わないが、そんな彼らもクレバテスの前では文字通り瞬殺……根拠地であるハイデンの城に乗り込んだ際も、クレバテスは投石や巨大な矢を雨あられと撃たれながら歯牙にもかけない。あまつさえ後には勇者の1人アリシアを蘇らせるなど、その力はおよそ人の及ぶところではない。だが、これはあくまで力に限った話だ。

 

ハイデンを滅ぼしたクレバテスはひょんなことから「人属(人間)を見極めるため」に1人の赤ん坊を拾うが、彼にとってその生態は至極奇怪なものであった。放っておけばすぐ死んでしまうのが目に見えているし、体力は回復できても空腹までは解決してやれない……非合理で非効率な赤ん坊に手を焼く魔獣王はすなわち、その時点で人の理に「囚われて」しまっている。この第1話は人の姿になった彼が山賊に囚われるまさかの展開で幕を下ろすが、彼は枷や鎖よりももっと概念的な拘束を受けていると言えるだろう。

 

2.囚われた先の自由

魔獣王を囚える人の理。前節で触れた結末が象徴するように、もちろん彼は赤ん坊だけに囚われているわけではない。

 

魔獣王は人間の赤ん坊の育て方など知らない。故に母親代わりとして殺害したアリシアをなんと魔血によって屍のまま蘇生させる。おまけにアリシアの体を操り赤ん坊へ乳を与えようとするとやりたい放題なのだが――ここでも彼は壁に突き当たってしまう。アリシアは処女であり、体を自在に操れても赤ん坊に乳をやることはできなかった。

 

人属を見極めるためには赤ん坊を育てねばならず、そのためにはアリシアの知識に従わねばならない。赤ん坊に乳をやるには乳母を雇わねばならず、乳母を雇うには代価を用意せねばならず、取引をするためには人の姿を取らねばならず……なんとも窮屈な話にしかし、クレバテスは自ら順応しその体を小さくしていく。赤ん坊がハイデン王の血族と知れば守り立てて利用してやろうという姿勢や姿まで自在に変える力は確かに超常の存在だが、そんなことをしようとする時点で彼は既に人の理に囚われているのだ。これはハイデンが滅んだことで人属間に勢力争いが発生し、赤ん坊を王にしようとすればクレバテスも当然そこに巻き込まれるであろうことからも言える。

 

絶大な力を持つ魔獣王クレバテスは、かくて自ら人の理に囚われていく。間抜けにも思えるが、彼の目的が人属の見極めにあることを考えればこれはある意味正道だろう。クレバテスが人間を理解できないのは彼が人の理の外にいるためであり、内に入れば否が応でもその理を知らずにはおられない。これはエドセアの先の未踏の地を臨んでいたアリシアにしても裏返しながら同様で、屍にしてクレバテスの下僕としての第2の生は生前ではけして考えられなかったものだ。状況こそ屈辱的だが、望んだエドセアの外――未踏の世界への切符は確かに彼女の手の内にある。

 

囚われることは時に存在を自由にする。魔獣王の新たな旅は、囚われたこの時始まったのだ。

 

感想

以上、クレバテスのアニメ1話レビューでした。いやー良かった。数年前から漫画が(心理的に)あまり読めなくなってしまい、この岩原裕二の新作も手つかずでアニメを見る気分になれずにいたのですが、今の自分が求めていたのはこういう作品だったんだなと思います。冒頭の全滅のように設定としてはメタ的なのだけど、登場人物にはそういうところがまるでない。真正面から物語があって、そこに彼らの本気を感じることができる。ワクワクするってこういうのだ! 色んなめぐり合わせで本作を見る機会を得られたことに感謝したいです。

 

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