試される「メダリスト」。2話ではいのりがスケートの検定試験を受ける。だが、彼女が受ける”バッジテスト”は1つではない。
メダリスト 第2話「初級バッジテスト」
1.バッジテストにいのりが見ているもの
遅まきながら晴れてフィギュアスケートを始めさせてもらえることになったいのり。司は彼女の上達の速さに大喜び、いのりも楽しさを感じていたがふとリンクを見てまだジャンプもできない自分に気がつく。そんな折、司はいのりにスケートの資格検定・バッジテストを受けるよう勧めてきて……?
験の「メダリスト」。2話はいのりが1人のライバルと出会う話だ。その名は狼嵜光(かみさき ひかる)。いのりと同い年ながら全日本ノービスBで優勝実績を持つ、フィギュアスケート界の超新星。自分より遥か高みに飛んでいる彼女と知り合うことでいのりの心も飛翔していく、いずれ2人が激突するであろうことを予感させる回と言える……のだが、今回の副題は「初級バッジテスト」であり光の存在については触れていない。ラストでいのりがバッジを手にするとはいえ、影響度では光の方がずっと大きいであろうにも関わらず、だ。2話レビューではこの副題について考えてみたいと思う。
バッジテスト。劇中の説明の繰り返しになるが、これは英検などのスケート版、いわゆる検定だ。合格者には文字通り該当級のバッジが与えられ、大会の出場資格にも関わる大事なテスト。ただ、いのりにとってはこのバッジは他の人とは少し違った意味を持っている。
「このバッジがあれば、スケートが上手ってみんなに思ってもらえるんだ」……参考にバッジを目にした時の心の声から分かるように、いのりにとってバッジは「リンクの上に立つ許可証」としての意味がある。日頃は何をするのもどんくさく、スケートを始めるのもギリギリになってしまった自分が滑り続けるために必要なもの。彼女の心には自分が「場違い」な人間ではないかとの恐れが強くのしかかっていて、だからバッジにその解消を期待せずにおられないのだ。
レッスンを始めてから3回目で初級バッジテストに挑戦。母親が驚くスピードであったが、結果から言えばいのりは無事それに合格した。途中で大きく動揺する出来事があったとはいえ、アシスタントコーチの司が言うようにやることは「いつもやってることを1回だけ通して滑る」だけ……クラブに入る前から1人でみっちり基礎をこなしていたいのりには落ち着きさえすればなんてことはなく、いざ受けてみればその滑りはフォアもバックもお手本とすら言える出来だったほどだ。以前は彼女がスケートをするのを反対していた母親も応援すると言ってくれ、いのりは自分が許しを得たように感じられたのだが――それは錯覚に過ぎなかった。
のぞみ「お母さん、応援するって決めたわ」
いのり「ほんと!?」
のぞみ「うん、お姉ちゃんと同じで中学まではやらせてあげる」
いのり「え……」
母親は確かにいのりがスケートをすることにもう反対していない。しかしそれは姉と同じく中学まで=いずれは辞める子どもの競技としての応援であって、その先までリンクの上に立っていたいいのりの気持ちは届いていない。またフィギュアスケートクラブの他の子の親は「もう11歳で」「まだジャンプも飛べていない」いのりが受けている熱心なコーチングに不満たらたらで、そんな時間があれば自分たちの子に時間を割いてほしいと考えている。つまり、初級バッジテストはいのりをリンクの上に立たせてくれる許可証として十分には機能していないのである。
光「あ! やっぱり君、この前の!」
やっぱり自分は「場違い」なのではないか。リンクの上に立つことを許されないのではないか。暗い気持ちになるのを抑えられず、練習に来たスケートクラブで座り込んでしまったいのりの前に光は姿を現す。そう、いのりに必要なもう1つの「バッジテスト」を提示する、名前の通り暗闇に光を射し込む存在として姿を見せるのが彼女なのだ。
2.心のバッジテスト
光がいのりに提示する、リンクの上に立つために必要なもう1つのバッジテストとは何か。それを考えるためにはまず、彼女たちの共通点について考えなければならない。
いのり「ご、ごめんなさい! 誰かいるって気づかなくて……」
狼嵜光と結束いのり。一見したところでは、2人には共通点などというものはない。実績の違いは説明するまでもないし、いのりいわく光は服装もお姫様のようで全てが華やかに見える。けれど思い返してみれば、2人が初めて出会ったのは共通点がなければ出会いようのない場所だった。なにせそこは「フィギュアスケートクラブの庭の茂みの中」だ。スケートクラブに来た子どもがいるにはあんまりに場違いが過ぎる。いのりは不安を紛らわせる時の癖としてのミミズ探し、光はどうやらやっかみから捨てられたバッジを探していたらしいという理由があるが、それらは先述した場所へ2人を導くための共通点だったと見るべきだろう。そう、「場違い」であることが2人の共通点なのだ。
高い知名度を誇る光の来訪は、いのりのスケートクラブのリンクにいる人の驚きを呼ぶ。ふだん練習しているリンクが設備点検中なのでもなければここへはやってこない彼女の存在は、知名度からも実績からもあまりに「場違い」だ。そんな彼女の滑りに必死で追いつこうとするのは同じく「場違い」ないのりだけで、それが光には嬉しくて仕方がない。場違いな者でも2人集まればそこには「場」があって、その時rinkはlinkする場所になる。華麗なジャンプを決める光とまだ初級のいのり、天と地ほども離れたはずの2人の間に「上手くなりたい」という共通の話題を生み出す場所となる。
いのり(私がずっと憧れていたこの子たちは、勝ちたい大会やバッジのために上手くなる途中だったんだ……!)
学校を早退どころか休んで練習する時すらある日々を送る光は言う。もっと上手くなりたいならちゃんと言った方がいい、自分は言った……と。彼女のように練習のためスケートリンクを貸し切ってもらうのがどれほど大変かという問題はあるが、重要なのは光が自ら訴えることでリンクの上に立っている事実だろう。そう、いのりが必死に求める「リンクの上に立つ許可証」を光は自ら訴えることで手にしてきた。いのりはバッジテストに受かればそれが手に入ると思っていたけれど、許可証はもっと別のところにあったのだ。ならば彼女はそれを穫りに行かなければならない。もう1つのバッジテストを受けなければならない。
いのり「私、本当に上手くなりたいんです。他の全部の楽しいことできなくなってもいい。嫌いなこと、難しいことを長い間やることになってもいい。なにがどんなに大変か分からないけど、一番上手になりたい。金メダル、穫れる人になりたい! オリン、ピックで……だから先生に手伝ってほしい、助けてほしい。そしたらお母さんも……!」
合格の証であるバッジを渡しに来た司にいのりがぶつける訴え。それは願いであると同時に試験への挑戦である。大変でももっと上手くなりたい、金メダルが穫れる人になりたい、助けてほしい……その願いをしっかりと受け止めてくれる人は今はまだ少ないだろう。他の子の親は鼻で笑うであろうし、母親だって子どもが夢を見ているとしか思わない。きっと今はまだ、いのりは母たちにそれを訴えることもできない。だけど自分のために必死になってくれた司になら言える。司なら本気を受け止めてくれる。拙い初心者のそれであっても、確かにいのりは訴えることができるのだ。いのりが受けるべき試験は、リンクの上に立つために必要な「初級バッジテスト」はここにこそあった。
今回はいのりが初級バッジテストを受け、将来のライバルと出会う回である。けれど彼女が受けたバッジテストは1つではない。光との出会いがもたらしたもう1つのバッジテスト、心のバッジテストを指すが故に今回の副題は「初級バッジテスト」なのだ。
感想
以上、メダリストのアニメ2話レビューでした。前回のレビューを書いた後、「場違い」についての考えが不十分だったのではないか……という反省がありまして。それを元に考えていくと今回はこんなレビューになりました。アバンでのいのりと司の間にあったギャップ(課題)がきっちり解消される素敵な終わりだったなと思います。理凰と光のやりとりがあまりにもスピーディでいのりでなくとも呆然。さてさて、次回はどんなお話なんでしょう。
今晩の2話放送に向けてメダリストの1話を見返し。先週のレビュー、場違いな奴こそリンクの天才、つまり氷上の天才なんだ……とまとめるともっと良かったかもしれない。#メダリスト#meda https://t.co/SU3hvoYsR8
— 闇鍋はにわ (@livewire891) January 11, 2025
「氷の上であるのを忘れさせるような」滑りのできる選手って究極の場違い。まさしく天才。
— 闇鍋はにわ (@livewire891) January 11, 2025
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心のバッジテスト――「メダリスト」2話レビュー&感想https://t.co/J99LN0xyQK
— 闇鍋はにわ (@livewire891) January 12, 2025
ブログ更新。いのりが受けた「バッジテスト」は2つあり、そこに彼女を導いたのが光なんだという話。#メダリスト #medalist #medalist_anime