どん底の「クレバテス-魔獣の王と赤子と屍の勇者-」。第2話、アリシアたちは山賊たちの最低な世界を見る。進むためには、彼らよりも更に堕ちねばならない。
クレバテス-魔獣の王と赤子と屍の勇者- 第2話「囚われた魔獣王」
1.生まれ変わった世界、生まれ変われないアリシア
山賊に襲われ、まさかの囚われの身となってしまったアリシアたち。その山賊「鴉」の頭領ブロスは目ざとくアリシアの正体を見抜き、彼女を利用して至宝を手に入れようとする。一方、小間使いを任されたクレンはそこでネルという女性と出会い……
決死の「クレバテス-魔獣の王と赤子と屍の勇者-」。第2話ではアリシアたちの目を通して鴉という山賊団の外道ぶりが描かれる回である。奴隷の売買に偽造品の販売、人の命や尊厳を屁とも思わない彼らの外道ぶりは茶々を入れる余裕もないほどで、末法の世とはまさしくこんな世界なのだろう。
末法――そう、山賊団のアジトは言ってみればポストアプカリプスの世界である。ハイデンの王国が滅んだ今彼らの首根っこを押さえる存在はなく、どんな無法もやりたい放題。人倫という言葉が消えたこの無法の世界で捕らえられたアリシアには自由がない。いや、それは彼女を拘束する手枷や鉄球ばかりではない。
この状況でアリシアを縛るもの。それは勇者としての過去だ。彼女は自分が何者かなど一言も喋っていないが、山賊団を指揮するブロコのような切れ者の前ではそんな黙秘は意味をなさなかった。彼はアリシアの持っていた高純度の魔鉱石や彼女の体つき、胆力などからその正体を的確に見抜き、山中に消えた「至宝」を収集しようとする。肉体が一度死に魔獣王クレバテスの下僕となっても、過去まで消えたわけではない。今の彼女にとっては、過去こそが己を縛り付ける最悪の鎖なのである。
2.黄泉返りの奈落
一種の生まれ変わりを果たしたアリシアはしかし、なおも過去に縛られている。そんな彼女と並ぶ立場として描かれているのが今回登場した人物、山賊団の奴隷ネルだ。
ネルの半生は一言で言って悲惨である。生まれた時から奴隷であり、それでもかろうじて得られていた安全は母の消失と共に失われ、暴力によっていまや片耳は聞こえず大半の歯が失われた口はまともな滑舌もままならない。何度かの妊娠も全て死産に終わり、彼女はその時自分の身体が冷たくなるのを感じた。「世界はどこまでも暗く、冷たい地の底へと引っ張られていく」……この山賊団のアジトにある廃坑、エルベの竪坑が今は魔獣の棲む死の水穴と化しているのはおそらく、ネルの言葉の指し示すところと無縁ではない。ならば、アリシアが山賊に連れられこの竪坑を訪れることには意味がある。
絶望したネルを救った温かさ。それは自分の乳を吸う見知らぬ赤子の存在であった。子を世に産み落とせず無用の長物となったはずの体の変化(妊娠による母乳の分泌)は別の形でネルを生かしていて、それは山賊団のアジトでの彼女の新たな役割の1つともなっている。そして、体が変化したのはアリシアも同じではなかったか?
山賊になぶられそうになったアリシアは、屍たるおのが体を生かし脱出を試みる。関節を外して手枷を武器に変え、激突死必死の竪穴に自ら投身……およそまともな行動でないのは、吊橋のロープを切るため利用された山賊が肉塊となって落下する姿からも明白である。実際、一緒に落ちたアリシアの肉体もおよそ生きた人間にはありえない手足の曲がりぶりを見せている。だが、彼女がこんな行動をとったのは自暴自棄ではなくクレン(クレバテス)への信用からだ。生ける屍となった己の体は魔血によって不死であるというの言葉を信じたあの瞬間、アリシアはようやく自分を縛る生前から脱することができたと言えるだろう。そういう意味で、ラストが示すように今までの彼女は間違いなく今回死んだのだ。
肉体が変わった事実だけで人は変わらない。奈落に落ち、その事実を突き詰めた時初めて人は黄泉から帰ることができるのである。
感想
以上、クレバテスのアニメ2話レビューでした。いやー千葉繁の悪役声は五臓六腑に染み渡るな!とか思ってたら山賊団のゲスもゲスなゲスっぷりにドン引き。ここには「俺達は読者の味方だぜ!」とかやっちゃう悪役はおらんのだ。そして、だから見入ってしまう。ネルの演技を違和感なく成立させている悠木碧もすごい。すっかり夢中です。
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— 闇鍋はにわ (@livewire891) August 2, 2025
ブログ更新。アリシアが真に蘇るには墜ちなければならないのだ、という話。#クレバテス