「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」8話レビュー~危機と好機の交わり~

富豪刑事 Balance:UNLIMITED 8話「宵越しの銭は持たぬ」

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥

長介と協力して19年前の事件の捜査が行われる「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」8話では、大助は敵の関係者である武井の尋問を神戸邸で行おうとする。警察での取り調べは危険があるから都合のいい機能だけをピックアップしようというわけだが、危険とはそう簡単に取り除けるものではない。

 

 

最短距離を走って遠回り

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
真相に迫りたい焦りからか、今回の大助は最短距離を進もうとする傾向が見られる。先の尋問もそうだし、調べ物や潜入では面倒な役回りを春と長介に押し付けている。余計なものを他者に背負わせれば、その分だけ自分が速く動けるのは自明の理だ。
しかしそれにも関わらず、今回大助が得た見返りは小さなものである。第三研究所が見つかったのは長介から引き継いだ春の地道な作業あってこそだし、武井の恐れていた人物の正体は長介の方でも見ることができた。最短距離を走った甲斐があったか、と言えばはなはだ怪しい。どころか侵入者が神戸邸のスーパーユーザー権限を持っていたこと、長介と武井が逃げずに立ち向かったために大助は2人を見殺しにする結果となってしまった。
 
 

ねじれた道に人は気付けない

最短距離を走るとは、言い換えれば「危機と好機を交わらせない」ことだ。危機を他者に背負わせ自らは好機だけを得ようとするものだ。だが「交わらないことで交わる」のが本作であるがゆえに、そんな都合のいいつまみ食いは許されない。
 

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
好機はどこまでも好機に見えるからこそ、危機と交わっている。脱出口を用意してある慢心の上、目の前に真相への扉が開く誘惑に抗うのは難しい。だから大助は目の前で本当に開いたのが落とし穴とは気付かない。
 
 

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
しかし逆に、危機はどこまでも危機であるからこそ好機と交わってもいる。かつて長介を欺いた武井は尋問でも意見を等しくすることはなかったが、正念場だからこそ警察官の誇りを取り戻した。命を失うのを顧みずに立ち向かったからこそ、長介は最後に手がかりを残すことに成功した。
危機と好機は裏返しの関係ではあっても、オセロの白黒のように入れ替わるわけではない。片方だけに見える道の中で時折、神様の気まぐれのように交わるものなのだ。
 
 
事態を見誤った大助の失態は、千金を積もうと取り返すことができない。しかし大助はこれまでも、そういう取り返しのつかないものにせめもの償いとして金を使ってきた。ならばこの過ちに、大助はいかな行動を見せるのだろう。
 
 

感想

というわけで富豪刑事の8話レビューでした。ちょ、長さん、武井課長ーー! 前回の結末から血なまぐさい話になるのを覚悟はしていましたが、こんな早々にとは。長介にたっぷりスポットが当たってたのも納得。神谷明さん小山力也さんお疲れ様でした……
次回もちょっと身構えて見た方がいいでしょうかねえ。