「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」9話レビュー〜刑事とヒーロー〜

f:id:yhaniwa:20200912001259j:plain

©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥

富豪刑事 Balance:UNLIMITED」9話冒頭、長介と武井を殺された春は現対本部へ戻ろうとするが、大助は拒絶しこの件に警察ではなく私人としてのみ関わると言う。違わず正義を執行できる私人とは、すなわちヒーローである。春は4話で刑事(公務員)とヒーローの両立への悩みを吐露していたが、つまりここでの2人の別れはその両立の――"交わり"の別れを意味する。しかしこれまでも描かれてきたように、本作において交わりはむしろ逆方向へ進むものだ。

 

 

富豪刑事 BalanceUNLIMITED 9話「金で開かない扉はない」

 

交わりを巡る二つの法則

f:id:yhaniwa:20200912001432j:plain

©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
春は刑事として、大助は私人(富豪)として正義をなそうとするが、警察や私人の方は彼らと交わってはくれない。捜査一課は春を重要参考人として拘束すらするし、大助の祖母喜久子は父茂丸の生存を知りながら黙っていたことが判明する。交わりたいものとこそ交われないジレンマは悲しき世の習いであり、誰も抗うことはできない。
しかし一方で、警察らしくない人間だから春と馴染まなかった現対本部の面々はその性格ゆえに長介の仇討ちとも言える捜査に協力してくれる。親が子を守ろうとするのは当然という喜久子の理屈は、ならば母を殺された子が殺した人間を憎むのも当然という大助の理屈を生み出す。逆に交わらない状況だからこそ、交わらない相手だからこそ交わるのも世界のもう1つの姿なのである。
 
 

一度交わらなくなったからこそ

f:id:yhaniwa:20200912001458j:plain

©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥

f:id:yhaniwa:20200912001513j:plain

©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
交わらぬからこそ交わることを証明するように、春と警察、大助と富豪の関係もまた交わりを取り戻していく。かつて事件に責任を感じて春の出した辞表を武井は受理しなかった――「交わらなかった」。だからこそ春はまがりなりにも刑事を続けることができ、それが星野からの信頼回復にも繋がった。
また、スーパーユーザー権限を悪用されこれまでのように監視カメラの映像を活用する富豪的なやり方を封じられた大助は、ならばこそ10万人を金で釣ってカメラ代わりにしてしまうといういっそう富豪らしい行動に出る。春も大助も一度は交わりを断たれたからこそ、いっそう強く刑事と、富豪と交わることができるのである。
 
そうして2人が互いの矜持との交わりを取り戻すなら、最後にやってくるのは当然、最初に断絶した春と大助の関係そのものだ。全く情報を共有せず、全くの別ルートから手がかりを追った2人は共に同じ輸送船にたどり着く。かつてトラウマを負った事件とは違う、しかし同じく差し迫った危機に、春はどのようにして"交わる"ことになるのだろうか。そして、2人の行動は果たして「刑事」と「ヒーロー」を交わらせてくれるのだろうか。
 
 

感想・大助の拒絶についての推測

というわけで富豪刑事BULの9話レビューでした。ここしばらくは金そのものよりも金による技術力に物を言わせていた感じでしたが、今回は分かりやすく金が前面。そりゃデータも集まるよ!
 
それと大助が冒頭で「これはうちの問題だ、お前らは関係ない」と言い放つシーンも「交わらないことで交わる」法則に基づけば彼の気遣いとして見えてくるのも面白いところで。つまり春を関わらせなければ、交わらせなければ彼まで茂丸に殺されるようなことはないと考えるからこそ冷たく拒否するのだと想像できます。表情こそ変えずとも、やはり長介と武井を救えなかったことは彼にとって相当な痛恨事なのでしょう。春が船にいると聞くと速やかに潜入の準備を進めているのも、彼の危機を懸念すればこそのように思えます。もっとも、それであの窮地に陥っているのであれば、交わらないはずの「助ける」と「助けられる」がやはり交わってしまうといういっそうコミカルな図式にもなるのですが。まあつまり、君ら仲良すぎだろう。
物語も残すところ2話、事件の全貌が明かされるのが楽しみです。