「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」10話レビュー~帰り道は別の道~

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
近未来的なガジェットを多数配し、原作とは大きく異る物語を描いてきた「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」。11話ではコンテナ船での戦いを終え"ラスボス"との決戦に赴く春を星野は「ヒーローが戻ってきた」と喜ぶ。しかし「戻ってきた」とはもちろん例えであり、時計の針が巻き戻ったわけではもちろんない。巻き戻ったのではないのにまるでそう感じられるとは「交わらないものの交わり」だ。
 
 

 富豪刑事 BalanceUNLIMITED #10「人生は、札束に刷り込むようなものじゃない」

 

来た道を引き返せばむしろ迷う

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
過去の何かを取り戻そうとする時、もっともシンプルなのは当時をそっくり真似ることだ。例えば作品のリメイクにあたって当時のスタッフを揃えるなど、時計の針を戻すように状況を戻せば、往時に近いものは確かに再現できる。しかし実際のところ、そうやって過去に近づければ近づけるほど差異は目立ってしまう。年月を経たスタッフの変質であったり、作品を見る人間の変化などはどうしても避けられないから、どれだけ旧来のものの遵守を心がけてもかつてと同じものは戻ってこない。かつてと交わろうとして、かえって交わらぬことを露呈してしまうのである。
 
春はかつて重傷者を出したトラウマから「ヒーロー」としての自分を見失い、それを取り戻せぬ自分に悩み続けてきた。新幹線ジャック事件では再び自分だけが銃撃できる状況になり、武井から再現とやり直しを持ちかけられたことすらある。しかし相手が悪人ではないことが分かっている新幹線ジャック事件で犯人を銃撃することは、撃つ必要のない相手を咄嗟に撃ってしまったかつての事件より更に春からヒーロー性を奪うものだ。状況だけを似せても、それで捜査一課に再配属されたとしても、春は本当に「戻る」ことはできなかったろう。
 
 

円を描いて戻るように

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
本当に「戻る」のならば、かつてと同じ道をたどってはいけない。むしろかつてとは違う道、交わらぬ道を歩み、それが結果として円を描いた時にこそ人や物事は出発地点と再び交わることができる。ヒーローを見失って無様にもがき続けた春の歩んできた道程は、大助からすればそれ自体が彼をヒーローとして認識する正道だった。春がヒーローに戻るために必要な、円を描く道程だった。
大助もまた、一度は投げ出した"警察官"に戻るが――今度は19年前の事件を探る手段として戻るのではない。長介や春といった刑事(=ヒーロー)への敬意という新たな感情あればこそ、大助は再び刑事となる。全く違う理由で、しかし同じ場所へと戻るのだ。
 
最後の舞台は第三研究所、かつて大助が父母と過ごした別邸へと「戻る」。かつてとは異なる理由でのそこへの帰還は、果たして大助をどこへ誘うのだろう?
 
 

感想

というわけで富豪刑事BULの11話レビューでした。うーん、天井裏の蹴られたりぶつかったりがケンカップルのイチャイチャにしか見えない。大助にとってみれば春は最初からヒーローだった、というのもデレ全開だし。これまで育まれてきたものが確認できる回だったと思います。次回はいよいよ最終回、最後にまたでっかい「Balance:UNLIMITED」が見たいなあ。